でんでんででんででん

 ぴやあああああ、と店中に響く子供の泣き声。高山さんがそれをあやすけど逆効果なのか、さらに子供は泣き喚く。俺はでんでん太鼓をバチバチと振りながら、何とか子供の気を逸らそうと必死。


「菅野さん、私が子供に泣かれるのはどうしてだと思います?」

「うーん……何でだろう」

「でも、大体泣かれるじゃないですか。何かあるんだと思うんですけど自分じゃわからないんですよ」


 俺は写真屋でアルバイトをしている。カメラ用品を売ったり写真を現像したり。スマホやデジカメで撮影したデータをアルバムにしたりしつつ、併設しているスタジオでの写真撮影をしたり。今は七五三シーズンで忙しい。

 今年入ってきた高山蒼希さんは、星大の1年生。少しおっちょこちょいなところもあるけど基本的に仕事はすごく出来るし証明写真の修正なんかも早くて上手い。だけど、スタジオ撮影で子供に泣かれるというのが致命的な悩み。


「アオキちゃんはね、笑顔が足りないよね」

「私に青山さんと同じ笑顔を要求しないで下さい。顔の構造が違うんですから」

「顔の構造は同じだよ、目は2つだしメガネだってかけてるし」


 高山さんとは対照的に子供に好かれるのが青山さんだ。こちらは星大の4年生。背も高くて一見子供には圧になるんじゃないかと思うけど、人の良さそうな雰囲気に接客業のためにあるのかという笑顔で子供とそのお母さんを虜にしてきたことは数知れず。


「子供はたいっちゃんに一任して、アオキちゃんは機材に集中するのが現状最善の策かなあとは」


 ですよねえ、と高山さんと声が揃う。


「でんでん太鼓を扱わせたら、たいっちゃんの右に出る者はないからね。いよっ、名ドラマー!」

「何言ってるんですか、自分だってドラマーなのに」

「でも、他の人はぬいぐるみとか他のおもちゃでバタバタしながら子供の気を引くのに、たいっちゃんはでんでん太鼓だけでいつも子供あやしてるじゃない。あれって特殊能力だよ」

「確かにそうですね。菅野さんてでんでん太鼓以外持ちませんよね」

「たまにタンバリンとカスタネットも持ってるし」


 でんでん太鼓が一番手にしっくりくるから使ってるだけで、それでも子供が笑わなければぬいぐるみだって普通に使うと思う。ただ、最初に手にしてるでんでん太鼓で笑ってくれるから使う機会がないだけで。


「青山さんもでんでん太鼓持ちましょうよ、楽しいですよ」

「じゃあ、たいっちゃんはタンバリンね。アオキちゃんはカスタネットで即興バンド組もう!」

「リズムしかいない!」

「私、リズム感で2人に混ざれる気がしないんですけど」

「このリズムオンリーバンドが形になったらさ、ブルースプリングとCONTINUEと対バンしたらいいと思うんだよね」

「これがどうやったら形になると思うのか」

「やらないとわからないじゃない」

「そうですけど!」


 歌って踊るリズムオンリーバンドとか楽しくない? などと青山さんは名も無きバンドの対バンライブの図を妄想しているのだ。楽しくないことはないだろうけど、でんでん太鼓とタンバリンとカスタネットでどんな曲をやるのかはイメージしにくい。

 ちなみに、ブルースプリングというのは青山さんが星大の大学祭のためだけに組んだジャズバンドで、CONTINUEは俺がカンたちとやってるゲーム音楽系のバンド。どっちもインストバンドだ。その中で、歌って踊る? えっ、誰が?


「あの、青山さん、参考までに聞きますけど誰がボーカルなんですか?」

「たいっちゃんでしょ?」

「言うと思った!」

「たいっちゃんが出来ないなら彼女さんをボーカルに召集したらいいんじゃない?」

「どうしてそうなるんですか」

「菅野さんの彼女さんなら音楽的センスはありそうですね」

「――と思うだろ。楽器は扱えても音痴だわ声はデカいわでボーカルには向かないんだ」

「じゃあトライアングルで召集しよう。で、たいっちゃんがタンバリンボーカル」

「だからどうして打楽器に特化するんですか! 特化するにしても鍵盤系を入れるべきでしょうマリンバとか! ああ~、でも星羅のことだし「楽しそうなんだ!」とか言ってやろうとする光景しか見えない!」

「じゃあやろうよ!」

「菅野さん、やりましょう」

「えっ、いつの間にやるサイドに回ってるの高山さん」

「青山さんに振り回されてる菅野さんを陥れたい願望がふつふつと」

「えっ物騒」


 ……もうどうにでもな~れ! もう知らない!

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