雲隠れと緊急招集
「ありゃ、とんでもないコトになったモンだねえ」
「何なんだ? どうしたんだ?」
「……何か裏があるな。気を引き締めないと」
「静かに。話はまだ終わってないわ」
緊急の班長会議が開かれた。その内容は大学祭ステージのタイムテーブルについて。監査の宇部から改めて発表されたタイムテーブルに、班長たちから起こるどよめき。それを宇部が征する。
「今日皆さんに集まって貰ったのは、日高班の枠をどうやって埋めるかについて話し合うためよ」
タイムテーブルからは、日高班の名前がなくなっていた。2日で1時間ずつ枠が取られていたそれがまるっと消え去ってしまっている。何があったのかは俺たち一般部員には知る由もないが、何かあったのだろう。この会議にも日高の姿はない。
日高班の枠を埋めると一言では言うが、残り6班で正味2時間。単純計算で行けば20分ずつをどうにかしなければいけないということだ。もちろんウチ……朝霞班はそれくらい何とでもなるけど、計算通りには行かないからステージなのだ。
「各班20分程度、どうにかならないかしら」
「いやー……ウチはムリだぞ。今から響人に20分の台本を書かせて小道具用意して練習して? いや、死ぬぜ? それでなくても響人は遅筆な方だしキツい」
「そう、鎌ヶ谷班は厳しいのね」
「ウチは最悪俺とカンで適当に繋げるし、何とかなると思う」
「菅野班はオッケー、と。他には」
「宇部、それならウチが」
「聞かなくてもやる班はいいわ」
「いや宇部、話くらい聞けよ」
「何度でも言うけど、貴方に関しては聞かなくてもわかるのよ。朝霞班以外でやれる班はないかしら」
宇部は台本の引き出しが多いし、宇部はクズばかりと言うが班員も他よりは実力がある。急なタイムテーブルの変更にも対処してくるだろう。菅野班は班員への影響を最小限にする手段がある。菅野と菅野がそれぞれの楽器で繋げばどうにかなるだろう。
そして「聞かなくてもやる班」と言われて話を聞こうともせずにぶった切られてしまったのが少し納得出来ないが、俺たち朝霞班は当然やれる。もらえる枠はもらっとけというスタンス。乞食上等だ。
しかし、これにすぐ返事が出来ないのはプロデューサーではない班長たちだ。須賀と魚里はそれぞれアナウンサー。急に枠を増やすと言われても、班のプロデューサーと話をしなければならない。鳴尾浜のように無理と言い切れるかもまだわからないのだ。
「宇部、今すぐ答えなきゃいけないのかい? 生憎、アタシも星羅もアナだから、Pに話を通さなきゃすぐには返事が出来ないんだよ」
「右に同じなんだ」
「ええ、あなたの言うことには一理あるわ。出来るだけ早く返事をもらえれば助かるのだけど……そうね、明後日までに返事をくれるかしら」
「わかった」
「わかったんだ!」
「部でステージを借り切っている以上、空き枠を作ると部の信用問題になるし今後に関わるの。どうか、いい返事をお願いします」
日高班の枠がなくなった背景は、俺たちに深々と頭を下げる宇部しか知らないのだろう。その神妙な面持ちには、死神とまで呼ばれた非情で冷淡な表情はなかった。きっとこれは、苦渋の決断。
「ただ、どうして日高班の枠が急に吹っ飛んだんだい? それを聞かせて貰わないと、枠をどうするかの返事は出来ないね」
「私が枠を剥奪したわ」
死神の鎌はとうとう部長をも刈ったのか。班長たちは息を呑み、表情だけでその衝撃を語る。あの日高からどういう理由をつけて枠を剥奪したのかは俺たちには想像も出来ないことだが、現実問題として俺たちにのし掛かっている。
「これでいいかしら」
「答えになってないねえ、監査サマ。ま、今日のところはそれで誤魔化されといてやるよ、困ってんのはガチっぽいし」
「そう。それでは、解散します。魚里さん、須賀さん、いい返事を待ってるわ」
会議を解散して、考え始めるのは増えた枠のこと。鳴尾浜が辞退した分も乗せて30分ほどか。やれることはいくらでもある。何をしようか。そんなことを考えて気分が乗っていた俺に、声をかけてきたのは菅野。
「朝霞」
「何だ、菅野」
「日高班の枠が剥奪されたということは、人も、時間も、お前の妨害に全振りしてくる可能性が高い。枠がなくなったことで何かあるとすれば、お前だ」
「忠告、感謝する」
「……死ぬなよ」
「殺されたって死んでやるかよ」
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