3時限目にねてる子だれだ

「はー、疲れたー。飯だ飯」

「はい。いただきましょう」


 学生食堂のアルバイトを始めて約半年。夜の仕事が終わって食べるまかないのありがたみが身に染みる今日この頃。今日の夕飯は生姜焼き定食とLサイズの白飯。

 俺の向かいにひじきの小鉢とほうれん草のおひたし、それからSサイズの白飯と味噌汁を並べているのが学食バイトの同期で、同じ社会学部の浦和実苑。


「康平君、ごはんを半分食べてください」

「おう、サンキュー」

「第1学食はSサイズでも大盛りですよ、本当に」

「棲み分けっちゃ棲み分けの結果なんじゃん? 俺にはマジでありがたいし」


 緑ヶ丘大学の学食は大きく第1と第2に分かれている。第1は安くて多くて味はそこそこ、第2は第1よりちょっと高くて量は一般的で味は美味くてオシャレ。メニューの違いで言えばそんなところだ。

 俺と実苑がまかないを食べるのは主に学生のバイトが働く第1食堂。俺は体育会系で、実際飯も結構食うから第1学食くらいがちょうどいい。実苑は小柄な文化系で、元々があまり食わないから第1の量はキツイらしい。

 緑大は体育学部があるし、食う奴は本当に食うからこういうシステムになってるんだろうと思う。一般的な食堂のS・M・Lと同じ基準で考えると痛い目を見るのが第1学食だ。


「康平君はゼミ、どうしますか? 秋学期はメディア系の授業も取ると言っていましたけど」

「ああー、それな。本命は佐藤ゼミじゃんな。ただ倍率がネックじゃん? メディ文じゃないのがどう働くか的な」

「佐藤ゼミは人気のあるゼミですからね」

「だからとりあえず履修を少しメディアに寄せたんだって。情報社会学とか取ってないと話になんねーかなって」

「ああ、基礎は確かに必要ですね」

「そんでよ、聞いてくれよ実苑」

「はい?」


 現代社会学科に在籍しているけど、メディア文化学科に寄せて履修した月曜3限の授業。まあ、月曜は休み明けだしだるいっちゃだるい。それに3限は飯食った後で眠いっちゃ眠い。それでなくてもプロジェクターとかを使う授業ならなおさらだ。

 俺は一応ちゃんと起きて授業を受けてるんだけど、近くに座ってる奴が爆睡してて前から回って来てるプリントにも気付かねーし、届かねーじゃん!? ……的な。何かもう酷すぎるっつーか。


「先週も今週もそいつのこと起こしてて。寝るなとは言わないけど、よくそんだけ爆睡出来るなって逆に神経構造が気になる」

「毎度毎度その人を起こしてあげる康平君が優しいのかもしれませんね」

「お人好しなのか?」

「お人好しですね。面倒見がいいと言うか、保護者体質ですね」


 黒いジャケットを羽織った黒縁メガネ。いかにも真面目そうな感じだけど見る度爆睡してるからどーなってんだって思う。今のところ月3しか存在を認識してないけど、もしかしたら他の授業にもいるかもしれないと思うと。


「他の授業はどうしてんのかって気になって気になって」

「僕の友達にも授業中は眠そうにしている子がいますよ」

「いや、俺も絶対眠くなんないかっつったら絶対とは言い切れないんだけどさ、アイツはおかしい。大丈夫なのかなそんだけ寝てて。夜寝れなくなるじゃん?」

「そうですよね。きっと夜行性なのかもしれません。僕の友達は夏休みの間に生活リズムが狂ったと言っていました」

「あー、大学の休みは長いからか」

「ですね。それで、頑張って睡眠時間を少しずつ早める訓練をしているそうです」

「訓練って。そんな大袈裟な」

「春は寝坊でレポートをひとつ出せなかったそうですから、死活問題みたいですよ」


 実苑の友達は絵に描いたような堕落した大学生だと思った。何か、大丈夫なのかなって。月3にいるあのメガネにしても、そんな調子だったら単位ポコポコ落としてくんじゃないのかって。

 まあ、俺が心配したところでどうもなんねーじゃんな。わかってはいる、わかってはいる。……とりあえず、来週だな。


「さ、ごっそーさん」

「ごちそうさまでした。さて、洗い物をしましょうか」

「だな。洗うモン洗って帰ってシャワーして寝るだけじゃん?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る