見限る秤
大学祭に向けて動きが活発になってきている中で、私は自分の班のステージ以外にも部全体の動きに目をやらなければならず、部活漬けの生活を送っていた。それこそ、ネット上の不穏な動きもチェックし続けて。
つい先日明らかになったのは、各班に配分されるステージ準備費用の不正。会計の坂戸から私に提出された書類に記載されていた金額と、実際に渡された金額に差が生じていた。特に須賀班、魚里班、朝霞班の差異が顕著。
そうやって誤魔化されたお金が何に使われていたのかはSNSを少し見れば書いてあって、この人たちは馬鹿なのかしらと不思議でならなかった。横領した金で飲みに出た様子をどうしてわざわざネットに上げるのかしら。
「部長。報告が」
「後にしろ。頭が痛い」
「水を飲まれますか」
「よこせ」
そりゃあ、あんな飲み方をしてれば二日酔いにもなるわよね。「部長の武勇伝」という短い言葉に添えられた動画は、とても醜かったわ。度数の強いお酒を一気で飲み干し、結果戻すのだから。
「で、報告って何だ」
「いくらかあります。まずは文化会からの呼び出しの件についてですが」
「そんな物、お前が出ろ」
「代役を立てることはならないと言われましたが」
「俺は何も知らないと言い切れ、いいな」
今年の放送部で起きているいくつもの事案について、重要参考人として日高は文化会から呼び出されている。にも関わらず、それを無視しようとしている。面倒事を押しつけられるのはいつも監査である私。
「それと、各班の進捗をご報告します」
「しんちょく?」
「各班の、ステージの準備がどこまで進んでいるかをご報告します」
「そんなことより、朝霞班はどうして枠を返してこない! アイツは何度潰したら消えるんだ! 監査、謹慎にしろ!」
「理由もなく謹慎にはしません」
「理由? 不愉快だ。それだけで十分理由になる」
「そのような理由で謹慎処分を科せば、立場が危うくなるのは部長です」
「何を勝手なことを」
「部長が文化会から呼び出されている理由の一つが、朝霞班などに対する非人道的な待遇です。存在が不愉快であるというだけの理由で処分を科せば、間違いなく部長が文化会からの処分を科せられるでしょう」
「どうして俺が処分を受けるんだ? 処分するのはお前なのに」
わかってたけど、根っからの馬鹿ね…!
不愉快だというだけの理由で処分を科せられるなら今すぐ私がアンタを追放処分にしたいわよ都合の悪いことは全部私に押しつけて自分は部のお金を横領してやりたい放題でステージすら手を抜いているのに部長だというだけの理由でふんぞり返って権力を振りかざすなんてどうかしてるわよ部長だから何なのこんな小さな世界で偉ぶってるだけのクセして自分が世の中で一番偉いとでも思ってるんじゃないかしら、名前や役職に伴うだけの責任を負っているワケでもないのに自分が世界を回してるとでも思ってるのかしらふざけるんじゃないわよその首刈るわよ班員の素行の悪さもこっちは全部掴んでるのよ班長で部長の管理責任はどこへ言ったのよそもそもこれを部長にした先代がどうかしてるのよ弱みでも捕まれたのふざけるんじゃないわよ鬱陶しいのよどいつもこいつも実力もないのに幹部にすり寄ってるだけのクズのクセして真面目にステージに取り組んでる人たちをあざ笑う権利なんてないわよ馬鹿なんじゃないの!?
「部長、何か勘違いをされていらっしゃるようですね」
「ん?」
「監査というのはあくまで中立です。誰の味方でもありません。処分を下したいと仰るなら、証拠を揃えていただかないと」
「朝霞が不愉快なのは見てわかるだろう」
「それでどのような実害を被ったのか書面に記していただいて、それに沿って私が判断します。もちろん、部長だけがそう仰るようであれば書面は効力を持ちません」
「お前、幹部のクセに朝霞の肩を持つのか」
「誰の味方でもないと申しましたが」
「生意気な」
「部長、文化会からマークされていることをお忘れですか。しばらくはお隠れになられた方が身のためかと。今の私が出来る最大限の助言です」
こんなクズを表に出すと、後々苦労するのは私なのよ。もう、いい加減にしてちょうだい。付きっきりで子守をしていられるほど私は暇じゃないのよ。
「では、ご養生を」
そのまま起きてこなくて結構よ。
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