夢と幻想のエターナルラブ

「ノサカ見ろ、圭斗の薬指がお留守じゃなくなってる」

「ナ、ナンダッテー!?」


 薬指がお留守になってる、というのは圭斗先輩に特定のパートナーがいらっしゃらないという意味。つまりその逆、お留守じゃなくなっているというのはそういうことなんだけども。


「いよっ! スケコマシ!」

「お相手はどんな方なのでしょう」

「次はいつまで続くと思う。うちはクリスマスまでもたないと思う」

「圭斗先輩の永遠の愛……崇高過ぎてこの身に受けるにはあまりに耐えられない…! ですので90日で」

「ん、僕がいつお前を永遠に愛すると言ったのかな?」


 菜月先輩クラスになると茶々を入れたりボロクソに言うことも出来るんだろうけど、俺には圭斗先輩を冷やかすだなんてとんでもない。祝福と言うより衝撃の方が今は強いけれどもだ。

 いや、だって考えてみろよ。圭斗先輩から愛されるだなんてとんでもないことだぞ。圭斗先輩は好きになったお方を基本的に自分から落としに行くタイプだそうだから、それはもう獲物を狙う獣だったワケだろ。

 そうか、俺に足りないのはそれか。そのアグレッシブさか。……などと、圭斗先輩をボロクソに冷やかす彼女に思うワケで。俺には圭斗先輩のような美しさやスマートさもないし、少しずつ信頼を積み重ねるしかないんだと言い張る。


「いえ、圭斗先輩からの愛を一身に受け続けるだなんて体に悪いので謹んで辞退したく……」

「僕を何だと思ってるんだ」

「ノサカの圭斗愛みたいな物も大概じゃないか」

「いえ、俺のそれは尊敬の念であって愛とは少し違うと言いますか」

「まあ、ノサカはどうでもいいや。後学のために圭斗さんの愛に溢れる生活のことを聞いてみよう」

「あっ、そうです俺の事などどうでもいいです! 圭斗先輩のお話をぜひ聞かせてください!」

「彼女との馴れ初めかい? それともデートコースなどかな?」

「吐くだけ吐いてもらおう。え、いつから?」

「かれこれ3週間ほど前かな」


 後学のためにしっかり聞いておこうとしたんだけど、圭斗先輩のお話は何から何まで俺とは次元が違って何一つ参考にならなかったとだけは言っておこう。だって俺には車もアパートの部屋もないし。

 何て言うか、圭斗先輩からあれこれ引き出そうとする菜月先輩が可愛らしいとしか言いようがありませんね! 圭斗先輩も勝利者の余裕か帝王の貫禄なのか菜月先輩からの問いにきちんと答えていらっしゃるし…!


「はわ……はわわわ……」

「野坂、どうしたんだい」

「うわっ、耳まで赤いぞ!」

「圭斗先輩のお話を想像しながら聞いていたら恥ずかしさが…!」

「えっ、圭斗とデートしてる妄想でそんなんなってるとか引く」

「ん、僕とお前がデートをした後に部屋で一夜を共にするのかい?」

「そっ、それはいけません圭斗先輩! そんな、一夜を共にだなんてそんな」

「お前と一夜を共にするならゲームかジブリマラソンで完徹だな。麻雀でもいいけど」

「それは実に楽しそうですのでいつの日か実現させていただければと」


 圭斗先輩が「一夜を共に」と言うとロマンチックだとかセクシャルな印象を持ってしまいがちなんだけど、野郎仕様にも出来るだなんてさすが圭斗先輩だぜ!

 だけど、よくよく考えると疚しいことを何もしなくたって一夜を明かすことは出来るワケで。それがオッケーなら俺だって菜月先輩と一夜を共にしたことがまあまあありますしー。


「ところで野坂」

「はい」

「彼女が野球に熱狂的でいろいろ話して来る子なんだけど、野球に興味のない僕はそれにどう接すればいいかな」

「……彼女もなく、野球が好きな俺に聞くのはいろいろ間違っているかと」

「ん、確かに」

「圭斗、それこそ趣味には相互不干渉のルールがある伊東に聞けばいいんじゃないか」

「あそこは互いにぶっ飛びすぎてるから理解が及んでるけれど、僕のところはそうでもないからね」


 そう考えると、贔屓球団こそ違うけど菜月先輩も野球がお好きだし俺は恵まれているのかもしれない。まあ、付き合ってませんけどね!?


「ノサカ」

「はい、何でしょうか」

「野球が原因で別れるにカルピスをかけてやろう」

「随分強気に出られましたね」

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