淀む力に滲む愛
「それでは、お疲れさまでしたー!」
「お疲れさまでーす」
今日は久々にコスプレイベントに出ることが出来て、その打ち上げの焼肉が始まったところ。前のイベントは丸の池ステージと日付がカブってて、さすがに無理だと断念したのもあってなんかもう、嬉しいですよね趣味の活動にも精が出せるって!
普段はゲンゴローだけど、今は九重ニウと名乗っている。コスプレもするけどどちらかと言えば衣装を作ったり小道具を作る方が好き。イベントや合わせではカメラマンとして写真を撮らせてもらうことの方が多い。
「暁(あきら)さんとニウさんて同級生だったんだねー!」
「そうなんですよ。高校の演劇部で。私は演者で、ニウは裏方で小道具とか作ってて。ねえ」
「そうなんですー」
「えー! 暁さん演劇部だったんだー! 今も続けてるの?」
「今はアーチェリーやってます」
「えっ、カッコイイ」
暁さんというのは高校の同級生で同じ部活だったゆかりんこと佐竹由香里さん。界隈では少し名前が通っている。趣味バレは割と早い段階だったかな。小道具作るのが上手すぎるって言われてあれよあれよと。
ゆかりんは現在緑ヶ丘大学に通っていて、アーチェリー部。部活でアーチェリーを始めたって聞いた時はビックリしたけど、趣味のためと弓を使えるようになりたいと聞いてさすがだなあって。弓道じゃないんだとは思ったけど。
俺とゆかりんと一緒の卓で肉を焼いているのは玉置アヤさん。そこに立つだけで世界をアヤさんの物にしてしまうような、そんな雰囲気とかオーラがある。写真を撮らせてもらうのも最初はすごく緊張した。どうしてあのアヤさんとこんなに仲良くなれてるんだろうって不思議でしょうがない。
「あっ、アヤさん暁さんさっき撮ったの見ます?」
「見る見る! あっニウさんお肉食べてね!」
「自分ももっと写ればいいのに」
「いやあ、俺は写るよりも撮る方が好きだし、小道具が写ってるからそれでいいかなって」
「ホント昔からそうだよね」
撮影したデータを2人が確認している間、俺は肉を焼いて2人の皿に取り分けて。アヤさんの素顔をまじまじと見て思うけど、やっぱりあの伝説的な人が目の前にいるということが信じられない。
俺が高校1年生の時、演劇のブロック大会で受けた衝撃。山羽代表だった山羽南高校の舞台が本当に圧巻で。台本からも圧倒的な力を感じたんだけど、そこで舞台を我が物にしていたのが目の前にいる玉置アヤさんこと綾瀬香菜子さん。あの時から、ずっと憧れの人だ。
まさかイベントで向こうから声をかけられたときにはビックリした。もちろんそれは素性がわかったときにビックリしたんだけど。以来、演劇の話もするし趣味の話もする間柄。オンでもオフでも仲良くしてもらっている。
「あれっ、この剣は?」
「あっ、これは部活の方で作った小道具です」
丸の池ステージで作った小道具の剣。いい感じに作れたから写真に撮っておいたんだった。不慮の事故で折れてしまったけど、折れた後の朽ちた姿もしっかりと記録してある。
「へー、やっぱり上手いなー。画像でも刀身の輝きとか、折れた後のは朽ちた感じがよくわかるよ」
「プロデューサーの先輩が本当に凄い人で、その人のイメージに少しでも沿うようにって必死だったんですよ。時間もお金もない中でやるのは腕を問われますし」
「わかる。私の高校の先輩、文芸部の人なんだけど演劇部に脚本書き下ろしてくれててさ。あっ、例の本書いた人ね。その人が本当~に! こだわる人で」
「やっぱりこだわる人はこだわるんですよね。本当に、鬼気迫るって感じですもん」
「わかる~! 先輩も鬼気迫ってた~! 厳しい中にも愛があるんだよ。話に対する愛、演者に対する愛、裏方に対する愛があってさ」
「わかります。うちのPも凄く厳しいですけど愛が見えます」
はー、例の本を書いた人はやっぱりそういう感じの人なんだなあ。近いところで言うと朝霞先輩みたいな感じでいいのかなあ。
朝霞先輩を見てると時々引いてしまいそうになるんだけど、やっぱりいるところにはいるし、ステージにしろ演劇にしろひとつの舞台を作り上げるには物凄いエネルギーが要るんだ。あとは大学祭か。圧倒的なエネルギーを一身で感じよう。
「ところでアヤさん、大学祭とかで舞台ありますか?」
「あるよー。今回はSFミュージカル的な感じかな。歌と踊りで魅せるよ。暁さんニウさん良かったら見に来てね!」
「うーわー、行きたい~……追加公演……追加公演はありませんか…! 俺はステージがあって抜けられないんです~!」
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