10月
秋の夜長にくぅくぅくぅ
「ふゎあ」
「眠そうだねタカちゃん」
「あ、果林先輩おはようございます」
月曜日は必修科目もあるし授業もカツカツ。長い夏休みの間に狂いに狂った生活リズムが戻り切っていない体には正直かなりしんどい。4限の講義を終えてサークル室に向かっていると、元気の象徴とも言える果林先輩に出会う。
とにかく果林先輩はいつでも元気そうだ。火曜と木曜、それから土曜は深夜帯にアルバイトをしている。にもかかわらず、大学で会う果林先輩はいつだって元気だし、俺みたいに間抜けな顔でアクビなんてしていない。
どうやったらそこまで元気でいられるんだろうと思う。果林先輩に聞いてみようにも、多分俺はご飯を食べなさすぎるからだとこの話は終わってしまうだろう。確かにご飯を食べる量は果林先輩より少ないし財政事情もあるからそこまで贅沢は出来ないけれども。
「朝、なかなか起きられなくて」
「タカちゃん夜遅いから~。昨日何時に寝たの?」
「昨日は気付いたら朝の5時でした」
「えっ、月曜って英語あるよね?」
「1限が英語ですね、中級ライティングの方です」
「あっ中級なんだ」
「英語は割と得意ですし好きなので」
「ってそうじゃないよ。5時に寝てどうやって1限に出るの!? タカちゃん家から大学まで45分でしょ?」
「ざっと睡眠時間は2時間くらいですかね」
「ええー……それはダメだよタカちゃん、ちゃんと寝ないと」
8時起きだと完全に間に合わないから、やっぱり7時には起きていたい。それでコーヒーを飲んでパンを焼いてってしてるとあっという間にデッドライン。じゃあオールでいいんじゃないかって思うけど、やっぱり寝たいとも思うわけで。
「果林先輩は普段どうしてるんですか、バイトの日なんて特に」
「バイト前と後に3時間くらい集中して、くーって寝てるよ」
「睡眠の質的なことですか」
「そうだね。高ピー先輩の影に隠れてて目立ってないけどアタシも何気にいつでもどこでも寝れるからね」
「まあ、高崎先輩と比べるのは酷かと」
バイトの前と後に3時間ほどくーっと集中して寝ればそれで体力が回復するというのだから果林先輩はすごい。朝の6時にバイトを終えて、それからくーっと寝ても10時40分からの2限に間に合うのがとにかくすごいとしか。俺なら睡眠時間が足りないし、6時から寝てたら2限にも間に合わない。
そもそも、長い夏休みに何をしていて生活リズムが乱れたって、特に何をしてたワケでもないけど主にネットとゲームだと思う。気が付いたら時間を忘れてやっちゃってる。特にうちは遮光カーテンを採用してるから外の様子が全然わからないし。
「今日の3限も気付いたら寝てたみたくて」
「でしょうね」
「それで、前からプリントが回って来てるのにも気付かなくて後ろにいた人に起こされました」
「タカちゃん、悪いことは言わないから少しずつ寝るの早めた方がいいよ。タカちゃんも実は寝たら起きないタイプでしょ?」
「そうですね、高崎先輩の影に隠れてるので目立ってませんけど」
食べることであれば果林先輩、寝ることであれば高崎先輩と比べるのはいろいろ酷だ。とりあえず、俺は寝る時間を1日1時間くらいずつ早めて行って、最終的には1時から2時くらいに落ちつけたいなあという目標を立てた。
果林先輩が言うには、1人暮らしをしていると寒いというだけの理由で堕落が進む人も多いんだそうだ。この調子で行くと間違いなく俺もその轍を踏むだろう。そうなったら……エイジに住んでもらおうかなあ。
「寝る時間を早めるには寝酒ですかねやっぱり」
「それはよくないって前から言ってるじゃん。集中して、くーって」
「それが出来なくて今に至ってるんですけど」
「ですよねー」
「どうしたらいいんですかね」
「やっぱさ、遮光カーテンだと思うよ」
「おはようカーテンを採用するべきですかね」
「何それ」
「スマホと連動させて、いい時間になったら自動でカーテンを開けてくれる装置です。4000円程なんですけど」
「採用すべきじゃない? お酒ちょっと我慢したら買えるじゃん」
起きるのも難しいけど寝るのも難しい。布団の中に潜っていても、すぐに落ちれるワケじゃない。寝ないのはよくないとはわかってるんだけど、やっぱりね。とりあえず、最低限必修の日はちゃんと起きなくっちゃ。緊張感が抜けてきた頃が怖いぞ。
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