ケジメの菓子折り

 伏見に連絡をしたら、大学にいますと返信が来たので荷物を携え大学へ。ゼミ室は開いてなかったから(課題出してんなら開けとけよ)、クソ寒い学食で待ち合わせ。ある程度いるなら熱いお茶が必需品だ。


「朝霞クーン」

「悪い伏見、呼び出して」

「ううん、ちょうどキリ良しになったから。どうしたの?」

「ああ。これ、地元のお土産。よかったら」

「えっ、わざわざありがとう。でも、あたしと朝霞クンくらいの距離感の友達で、こんなにいいお土産もらっちゃって何か申し訳なさもあるんだけど」


 友達の距離感というのはともかく、丸の池ステージと向舞祭を終えて正気を取り戻した俺がゼミのラインを見て愕然としたことがひとつ。評価が思った以上に良すぎたのだ。

 成績がいいだけなら問題はない。問題はそれが伏見とのペア課題でつけられた評価だということだ。その時期の俺は課題に構うどころではなく、下調べもレジュメ制作も、発表も伏見に丸投げしてしまったのだ。

 伏見に対する感謝もあるけどそれより強いのは罪悪感だ。おんぶにだっこでいい評価をもらってしまうのはさすがに人としてどうなのか。しかし、もらってしまった物は如何ともし難い。今の俺に出来るのは伏見への感謝と謝罪だ。


「――という意味合いの菓子折りだと思ってもらえれば」

「そういうことならいただきます」

「ホント、悪かったな」

「いいえ~。でもまた始まるんでしょ?」

「ホントすみません、部活引退するまでお願いします」

「しょうがないなあ、もう」


 自分で言って気付く。部活の引退まで時間がない。残る作品制作はインターフェイスのラジドラと大学祭のステージ。宇部に聞いたら朝霞班の枠はあるって言ってたから、ラジドラが終わったら本腰を入れることに決めている。


「あ、夏のステージ、見に行ってたんだよ幼馴染みの子と一緒に」

「デートついでかよ」

「そんなんじゃないですー。朝霞クンを見るのに付き合ってもらっただけですー。だって、放送部怖いし。でも、凄かった。言葉にならないの。あっ、そう言えば幼馴染みの子が朝霞クンのこと知ってるって。このステージ書いてるPが友達だーって」

「えっ、マジか。誰だ?」

「えっと、大石千景ってわかる? 星大の」

「あー、幼馴染みって大石か! 確かにアイツは頼まれたら断らないな。お前に振り回されたんだろ」

「そんなんじゃないですー! ちーは優しいんだよ! でもビックリ。まさかちーと朝霞クンが友達なんて」


 思いがけず世間が狭かった。そういや大石も幼馴染みに誘われて見に来てた的なことを言ってたな。それが伏見のことだったのか。あー、繋がった繋がった。思わぬところで繋がると気分がいい。


「伏見、映研の作品はどうなんだ」

「今撮影してるよ。撮影自体は順調なんだけどさあ、朝霞クン聞いてよ~! エキストラの人がさ~!」

「まあ、それでも食って落ち着け。美味いぞ」


 俺が渡した蒸しケーキを食べながら、伏見は撮影に参加している困ったエキストラの愚痴をこぼす。俺は相槌を打ちながら、部の責任者に出てもらえとアドバイスを。台本のことなら具体的に言えるけど、エキストラの男にやたら絡まれるとか食事に誘われるっていうのはどうしようもない。


「大体あたしは好きな人いますし! どこの誰とも知らない男と軽々しくご飯なんて行きませんし! 友達でもないのに」

「そういやお前大石に惚れてんだったな」

「ちょっ、言ってないのに!」

「いや、言ってたぞ。アイツは誰にでも優しいし鈍いし、苦労すんなお前も」

「朝霞クンに言われたくないし。ちーに対する好きも前とは違うもん。幼馴染みの好きだもん」

「ふーん、恋愛の好きじゃないのか」

「ちょっと前まではそうだったんだよ。あっそうだ朝霞クン、今度ハルちゃんのお店で飲もう! 台本談義と恋バナしよう!」

「ハルちゃん?」

「ちーのお兄ちゃん! 西海駅前でお店やってんの」

「大石の兄貴ってだけでいい人なんだろうなって感じがプンプンする。人生観とか達観してそうだし、行ってみたい」

「よし決まりー!」


 ただ、飲みに行くなら日がもうない。俺はラジドラとステージに本腰を入れることになるし。……今日、これからか?

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