張り過ぎないのがちょうどいい

 インターフェイスの夏合宿が始まった。1日目はダイさんによる全体講習と親交を深めるための簡単なレクリエーションをやって、夕飯。それが終わればリク番講習が始まる。

 リクエスト番組の講習は前後半の入れ替わり制で行われる。前半組は2・5班と、3・6班。後半は1・4班と7班。講習をしていない班は番組の打ち合わせ。

 講習はレクリエーションルームを2つに分けて行われる。機材を使う方と使わずに理論を教えてくれる方。もちろん、時間が来たらそれらを入れ替えてみんな平等に機材を使う。


「――というワケですので、よろしくお願いします」

「まあ、3班には学生が講師なんざナメてんのかと言いかねない男がいるからな」

「大人の事情ってヤツでしょ? 大丈夫大丈夫」


 ダイさんは3・6班の講習を担当する。そして、2・5班の講習を担当するのは菜月先輩と伊東先輩だ。菜月先輩と伊東先輩は初心者講習会の講師も務めてくださったので箔がありますよね。

 当然、ダイさんと菜月先輩・伊東先輩の間で講習内容の擦り合わせは行われている。俺と果林もその打ち合わせには同席して、それで行きましょうと確認はしてある。


「ただ、3年の存在が非常にやりにくいとは言っておくぞ、圭斗」

「ん、僕の事はお気になさらず」

「ところで伊東、合宿のリク番講習ってどんな感じでやればいいんだ?」

「去年と同じような感じでいいんじゃない?」

「……えーと……うち、去年もその前もリク番講習は死んでたから、よく覚えてないんだ」

「そっか、そうだっけ。じゃあ俺が進めるし、なっちさんは補足をお願いしていい?」


 こそこそっと、講師の先輩方の間で話がなされる。伊東先輩が講習を進めてくださるのを、2班と5班の面々は真剣に聞いているのだ。ただ、俺はちょっと聞こえていた菜月先輩の「去年もその前も死んでた」というのが気になってしまったワケで。

 確かに、菜月先輩は去年合宿の最中に体調を崩されて少し休まれていたという話は聞いたけど、細かいことは聞けずじまいだったから。去年だけでなく、その前の合宿でも体調を崩されていたのかと。もしかすると今年も、と考えてしまいます。


「おい、ノサカ!」

「えっ、あっ、はいっ!」

「議長がお疲れなのはわかるけど、ボーっとするな」

「はい、申し訳ございません」

「まあ、技術的に問題ないとは言えだなあ。よし、ボーっとする暇をなくそう。伊東、お手本のミキサーはノサカにやらせてくれ」

「うん、わかったよー。それじゃあ野坂、ミキサー席来て」

「ええっ!? どうして俺が!」

「やーい、いいぞーイケメン詐欺ー」

「うるせーこーた! ウザドルめ、お前がやれ!」

「技術的にはこーたでもいいけど、なっちさんからのご指名だしね。講習会でもやってるし普段も相棒だから問題ないでしょ? はい、座った座った」


 否応なしにミキサー席に座らされると、伊東先輩からリクエスト用紙とMDが3セット手渡される。……って言うかなかなかの鬼畜仕様、さすがミキサー育成に関してはドSで知られる伊東先輩だぜ!

 どの曲をどのようにかけ、メッセージを捌くかなどを考えて番組構成を組み立てていく。余計なことを考える暇は全く与えられない。今は目の前の番組に集中。


「1曲目のイントロで挨拶程度のオープニングと曲を紹介して、サビ終わりでBGMレベルまで下げますのでコメント返しをお願いします。それから――」


 ふう、と菜月先輩が大きく息を吐いた。身内が多くて面倒やら気が楽で良かったやら、と。多分、この“気”というのが肝なんだろうなと思った。何となくですけど。


「それじゃあ、お手本番組やってもらうからみんなちゃんと見といてねー」

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