班長代理の逆襲

「と言うか、本当に話通りだな」

「つばちゃんがキレるのも納得でしょでしょ~」


 夏合宿2日目夜。これまで作ってきた番組のモニターが始まり、今日は1班から3班までの番組が発表された。俺をはじめとした前対策委員(合宿参加者の菜月と帰省中の長野を除く)はそのモニターのために青年自然の家に足を伸ばした。

 モニター終了後、俺と石川、それと山口は喫煙所に陣取った。そして、これまで見た限りでの率直な感想をぽつり、ぽつりと吐き出していく。行きの車の中でも話していたが、俺たちの印象に残ったのは三井のイタさだ。

 三井は先々代……俺らが1年の時まで主流だったプロ志向の生き残りみたいな奴だ。それが今のインターフェイスにそぐわないということはお構いなしに、自分の考えを周りに押しつける。

 1・2年は3年である自分の言うことを聞くべきだ。俺が一番上手いんだから俺の言う通りにしろ、その程度の技術で俺とやろうとしてるのか。……などなど、聞いていると殴りたくなるような文言が普通に飛び交っているそうだ。


「あっ、いたいた。洋平ー」

「あっ、つばちゃん。班はいいの?」

「他の子たちはみんなお風呂に行ったよ。あーもうしんどいわ。ダイさんが三井を止めてくんなかったら徹夜で反省会だったね」

「戸田さん、心の底からお疲れさま。よかったらチョコ食べる?」

「石川サン乙ありでーす。いただきまーす」

「どうした性悪、お前が心の底からお疲れとか」

「いや、彼の相手はしんどいだろ実際」

「まあな」


 三井の暴走と戦い続けたつばめは疲弊した様子で喫煙所に入ってきた。山口同様喫煙の習慣はないらしいが、人の来ない場所で羽を伸ばしたいようだ。1・2年に喫煙者はほとんどいないという事情もあるだろう。


「って言うかさ洋平、アンタさっきのモニターマジで怖かったんだけど。あれ誰?」

「え~、俺だよ~?」

「確かにな。三井もまさかお前にキツいトコ突かれるとは思ってなかったような感じだったじゃねえか」

「間違いないな」


 つばめ率いる3班のモニターでは、星ヶ丘繋がりで山口が講評を求められた。そこで山口は、三井とペアを組みミスをしてしまったミキサーをフォローしつつ、奴のトークを……そしてアナウンサーとしての資質にダメ出しをした。

 山口の間延びした喋り方や言葉の選び方がマイルドなだけにあまり重苦しくは聞こえないのだが、内容が辛辣にも程があった。意味の分かる人間だけが凍り付き、目をひんむいて、お前マジかよと山口を見たのだ。


「確かに俺は普段ステージだけど、ステージって人があることだからね。人をないがしろにするようなアナウンサーはそりゃ、見てらんないよネ。だってそうデショ? ラジオにだって人はいるんだから」

「まあ、そうだけどな」

「それに、班長のいないときは俺が班員を守らないと」

「えっ、洋平お前朝霞サンのつもりだった!?」

「朝霞クンならあそこは物理でしょ~? 俺だからあそこまで平和的でマイルドなやり方になってるんだよ~。向島風に言うとラブ&ピースってヤツ~?」

「……高崎、向島のそれって確か「抹殺」って意味じゃなかったか」

「確かそうだったはずだ」

「余計性質悪いわ! いや、どっちにしたって三井潰すっつってんじゃんな!」

「だって~、夏合宿が終わるまでは彼とやり合っても怒られないんでしょ~?」


 山口は山口なりに、積もり積もる事情があったらしい。潰すだの潰されるだの、星ヶ丘は物騒だなと俺と石川は引いている。そんな俺たちに山口とつばめはきょとんとして、だってやらなきゃ殺されるしと真顔で言うのだ。


「な~んちゃって!」

「山口、てめェ」

「部活で殺されるなんて、そんな~。……ねぇえ~」

「いや、普通ねえぞ」

「でも、それっくらいウチはガチだってこと~。ステージメインだからってラジオの人にバカにされる理由はどこにもないよ。それに、つばちゃんだけで言えばラジオ局で働いてるからミキサーだって上手だし」


 番組のこと、今日に至るまでの対策委員のことなどを話しているうちに、どれだけ時間が経っただろうか。福島さんがこの部屋のドアをノックするまで話に夢中で、全く周りの状況に気がつかなかった。


「つばめちゃん、Kちゃんがそろそろお風呂入ったらって」

「あっ、忘れてた! 紗希サンどーもです!」

「俺たちもそろそろ帰るか」

「だな」

「また明日~、だネ」


 去年は最前線にいた夏合宿、それを今年は一歩外から見ている。イキった3年に現役のストレス、その年々で状況は違って面白味も違う。さて、明日のモニターは9時から、まずは4班か。問題は、朝早く起きられるかだ。

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