機材搬出トライアル

「よし、目標5分! 行くよ!」


 つばめの号令で、俺たちはわーっと例のビルに駆け込んでいく。ガラス張りのエレベーターで6階まで上がったら、俺は企業サマの担当者に挨拶をして機材を運び出す。

 今日は合宿前日と言うことで、対策委員はギリギリまで打ち合わせ。そして青年自然の家に持っていく機材を、定例会でお世話になっているビルの物置から搬出するという大事な仕事があった。

 近くに駐車場はない。あってもクソ高い。だから路駐にならないようドライバーの啓子さんとゴティは車内で待機。スーパーDのつばめがいるとは言え、男手が一人いないのはちょっと痛い。


「けほっけほっ。まーたこの部屋埃っぽくなっとるよー」

「いいからさっさと運べヒロ」

「ウルサイよノサカのクセに」

「うっさい向島! 口じゃなくて手と足を動かせ!」


 つばめからのお叱りにすみませーんと平謝りして、俺はミキサーを運び出す。

 極力男が重い物を……というつもりだったけど、ヒロとツカサの持っていた物がとにかく細かい。と言うかつばめと果林の機動力マジパねえ。((c)真司)

 俺たちがごちゃごちゃやっている間にアンプをつばめが、MDストックを果林が既に運び出してたンすわァー、ハハァー、男の出る幕がないスわァー。((c)律)


 はい。


「ありがとうございました! また31日に参りますのでよろしくお願いします」

「野坂早く!」

「あーっ、もうちょっと待って」


 エライ人に挨拶をしたら、つばめが止めるエレベーターに滑り込むように乗り込んで下の階へ。一応ここまでの所要時間は7分。ちょっと時間がかかったけど、エレベーターの待ち時間を考慮するのをすっかり忘れていた。

 ビルから出ると、啓子さんとゴティが車のドアを開いて待っていてくれた。トランクに乗るだけ乗せて、トランクに乗らない分は後部座席へ。今年は車が2台あるからスペースにも余裕がある。

 去年は石川先輩の車しかなく、機材を全部乗せて、さらに現地集合だった長野先輩を除く5人の先輩方がぎゅうぎゅうになって乗っていたそうだ。自分は助手席だったからまだマシだったけど、後部座席はしんどかっただろうとは菜月先輩談。


「よし、オッケー! とりあえず全員適当な方乗って! 退散しよう!」


 これ以上の長居は無用。俺は目の前に止まるゴティの青い車に乗り込むことに。


「――って何でハンドル!? 助手席は!?」

「野坂ゴティの車左ハンドルだから!」

「わりーわりー、進行方向の関係で上手く止めれんかったんだわ」

「野坂さっさと後ろ乗って!」

「あ、はいスイマセン」


 果林とつばめに無理矢理後部座席に押し込まれる。車線の都合で助手席に乗るのはなかなか難しかったから、3人で後部座席に。男3人とかだったら悲惨だったかもしれないけど、果林とつばめでよかった。ちょっと広い。


「野坂、これってここで解散の体?」

「ああ。一応解散した体」

「そしたら全員方角違うし俺はどこに向かって走らせようかね」

「あー、何気に全員方角が違うのか」


 俺は青浪だからここから北に、つばめは星港市内のまま。果林は緑ヶ丘方面だから東へ。ゴティはエリア越え。なんということでしょう。目的地が決まらない。


「つか何か小腹空いたし甘いもんでも食わね?」

「何か食べに行くのは賛成。果林、つばめ、どうする」

「アタシが何か食べに行くのに反対する理由はないですよねー」

「じゃあ、アタシもアンタらに愚痴でも聞いてもらおうかな」

「じゃどっか適当な寿さし屋でも行くかー。牛乳寒天食べたい」


 機材を乗せて、青い車は行く。いよいよ合宿は明日に迫っている。これからどうなるかはわからないけど、ただひたすら頑張るだけだ。

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