意地とプライドと学ぶべきこと

「それじゃあロイド君、明後日なー!」

「おう、サンキュー」


 向舞祭が終わって1日。野暮用で向舞祭に来ていたという高校の同級生、シンこと飯野晋哉と一緒に戻って来た地元。シンは自分の車で帰ると言うから、それに便乗して山羽駅まで乗せて来てもらったのだ。

 駅まで着けば、そこからは俺の兄貴(潤兄さん)が迎えに来てくれると言うから連絡を入れてしばらく待っていることに。兄貴は4コ上で、中学校の先生(教科は数学)になって3年目だ。


「薫、おかえり」

「ただいま」


 しばらくして、ロータリーに滑り込んで来た1台の車。兄貴だ。助手席側の窓が開いて、声を掛けられる。久し振りに会うほっこりとした雰囲気にさっそく車に乗り込むと、後ろから突き刺すような人の気配。

 例えるなら、ガキにしてトゲだらけの萩さんと言った雰囲気だろうか。エリート臭はあるけれど、萩さんのように多くを受け入れるような器があるでもなく、自分以下の人間をひたすら見下す選民意識。


「相変わらずフリーターは自由だな」

「渚、お前誰がフリーターだ」

「フリーターも同然だろう。ニートと言われないだけいいと思え。名もないDラン大学で遊び呆けている癖に」


 実際Dラン大学であることには違いない星ヶ丘大学だけど、実際にDランクなのは理系の学部で、文系になると当然のようにFランだろう。ただ、反論するのも面倒なのでここは苦虫を噛み潰した顔をして黙っておく。

 俺の存在を認識するやいなや喧嘩を売るようなことを言ってきたのは弟の渚だ。3コ下で、最高学府への進学を目指すエリート。東都大学と西京大学以外は大学と見なしていないような奴で、俺の事は虫けらを見るような目で見て来る。当然仲は悪い。

 昔から仲の悪い俺と渚の間を取り持って来たのはいつだって兄貴だ。今にしても、弟2人の間に流れる険悪な空気をどうにかしようと適当な会話で散らしてくれる。


「薫、いつまでこっちにいるの?」

「えーと、来月の中頃かな」

「バイトとかは?」

「エリア登録し直したから、単発でちょこちょこ入るつもり。兄貴、原付ある?」

「うん、あるよ。久し振りだし家の前で練習しなね」

「仮にも大学生を名乗るなら、休みの期間は研究などに充てる物なのではないか。これだからフリーターなんだ」


 いくらでも反論は出来るが、敢えてするほどでもないから苦虫を噛み潰した顔で腕を組む。せっかく兄貴が何でもない話を振ってくれていたのに、相変わらず渚は人の顔や空気を読むことをしないクソガキだ。

 大体、渚は「東都大学に入る」というところをゴールにしていて、その先どうするのかの展望を全く聞いたことがない。お前が現時点で何を成し遂げた。それなのに俺をフリーターだの何だのとよく言ってくれるなと。

 それを言ったら兄貴だって山羽大の教育学部を出ているけれど、山羽大の教育学部は偏差値で言えば57、8で渚の言うところの“大学”には程遠い。それなのに兄貴に毒づいているのを見たことはない。結局、俺の事が気に入らないだけなのだ。


「渚、聞く価値もないだろう忠告をしてやるよ。今のうちに人との接し方を学んでおいた方がいいぞ。コミュニケーションのやり方なんてモンは、歳を食う度に人から教えてもらえなくなる」

「チッ。本当に聞くまでもなかったな」

「言ってろ。お前からどう見られてようと、俺には揺るぎない繋がりがいくつも出来てんだ」

「そんな物が何になる」

「お前には想像も付かないだろうな」

「その得意気な顔が不愉快だ」


 コイツが俺の何を気に入らないかと言えば、勉学以外のところで能力を発揮してしまうところだという話は兄貴から聞いたことがある。課外活動に熱を入れた結果、勉学を疎かにして成績を落としたことなどが気に入らないと。

 だけど、俺からすれば勉強だけが学生生活ではない。部活や行事に一生懸命になっていろんな人とひとつの物を作り上げたりするのが最高に楽しいと思っている。その価値観を押し付けるつもりはないが、お前の価値観を押し付けるなと。


「つーか、俺の顔を見たくないならどうしてついて来たんだ」

「チッ」

「渚、高校の文化祭の準備があるんだって。それで送っていく途中なんだよ」

「文化祭とか。最高じゃねーか」

「そんなことで時間を取られるのが不愉快だ」

「うーん……薫と渚、その辺の熱を足して2で割ればちょうどなんだろうけど」


 コイツとは足されたくない、と揃う声に兄貴が苦笑したのは言うまでもなく。

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