うちの子にはより厳しい

「はい、それじゃあ今日はリクエスト番組とインフォメーション放送の練習をします」

「はーい」


 今日は1班の班練習の日。お盆も過ぎていよいよ夏合宿までの日が無くなって来た。ペアでの打ち合わせもそれぞれやってるけど、班で通しての練習は数が少ない分もっと大事になって来る。

 リクエスト番組とインフォメーション放送については初心者講習会でも少し触れたけど、実際にやってみるのは夏合宿で初めて。うちが見る感じ誰よりもそわそわしているのはホッシーだなあ。


「あーもうあの地獄の扱きはしょぼんだった!」

「おハナ、顔が死んでる」

「だって奈々聞いて! 高崎先輩が鬼なんだよ!」

「緑ヶ丘は厳しそうだよねッ」

「カズ先輩、緑ヶ丘はもうやってるような感じですか?」

「あ、そうだね。ウチは毎年個別に練習の日を設けてる。あ、でもちゃんと他の子にはゼロベースで教えるから安心してね」


 おハナは緑ヶ丘でやった練習を思い出してブルブルと震えているし、相当しんどかった様子。向島でも軽く触れる程度の講習があったけど、うちへの技術指導と言うよりは野坂先輩が班の子に教えるための練習って感じだった。

 自分が理解していないとちゃんと教えることは出来ないからと、野坂先輩は菜月先輩にアナウンサーさんが気を付けるべきことやなんかを繰り返し質問していて、5班って確か圭斗先輩いなかったっけと疑問に思ったのは内緒。


「うう、緊張するんだ。怖いんだ」

「大丈夫だよホッシー」


 星ヶ丘のホッシーは、うちやおハナと違って普段からラジオをやってるってワケじゃないから何もかもが本当にまっさら。番組でペアを組むカズ先輩が手取り足取りって感じでやってくれている。

 これから始まるのはインフォメーションとリクエストの練習。それぞれがどういう性質を持っていて、どんな風に捌いて行けばいいのかという座学から。


「まずインフォメーションは、ショッピングモールとかでよくある迷子や落とし物の放送って言ったらイメージが付きやすいかな。それを番組の中に挟んでいく感じ」

「うわあ、急に来たら怖いんだ」

「インフォメーションもリクエストも最初にミキサーに渡されて、ミキサーはそれを見ながらいつどこでそれを挟むかを考える感じ。もちろんインフォメーションならトークを切って入れることもあるね」

「どこまで喋ったかわからなくなりそうなんだ」


 ホッシーは両頬をバチンと自分で叩いて、違う違うそうじゃないんだと自分に言い聞かせている。

 それはホッシーがよくやる仕草。部活の班長さんの口癖がうつっちゃって、違うんだと自分の喋り方を取り戻そうとするときなんかに。だけど今は、班長さんみたく前向きになりたいんだとバチバチ叩いている。


「Kちゃん、夏合宿中にも練習の時間はあるでしょ?」

「そうですね。1日目の夜の時間がリク番練習です」

「ホッシー、今日は本当に触りだけだからね。予習みたいなモンだから安心して」

「今日はまだ出来なくて大丈夫ですか」

「1回じゃ難しいから合宿前に触っとくんだよ」

「カズ先輩うちもお願いしますッ!」

「えっ、奈々ちゃんは向島でやってるんじゃ」

「MMPでやってたのは野坂先輩が教えるための練習なんですッ! 他の先輩たちもまあなるようになるっしょってうちのことは結局スルーだったんですッ!」


 それじゃあ実際にちょっとやってみようかと練習に入っていく。うちもちゃんとした練習は実質的に始めてだから緊張する。おハナはスパルタ指導に疲弊したまんまで、今日はもういいでーすって。


「ハナちゃん、ホッシーいるしお手本としてやろうか」

「お手本お願いするんだ」

「えー! Kちゃん先輩もいるのにー!」

「でも今日は1年生の練習だからね」

「ハナこないだめっちゃやったんでー」

「それがちゃんと身についてるかは見ないといけないでしょ?」

「そうですけどぉー、しょぼーん」

「はい、じゃあやろう」

「カズ先輩も鬼ー! L先輩の言う通りだー!」


 緑ヶ丘には緑ヶ丘なりの苦労があるのかな。どこの学校にもそれなりの事情がありそうだ。夏合宿の中のリク番講習だけじゃ足りなさそうだからとこういう風にやってもらえるのが絶対じゃないみたいだしッ!


「Kちゃん、テル、インフォとリク用紙出来た?」

「出来てますよー」

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