季節の雫でうれしそう
「Kちゃん、作って来たよー」
「わ、沙都子ありがとう」
沙都子から啓子に手渡される瓶。その中身は沙都子お手製の梅ジュース。梅の季節になると沙都子は自家製のジュースを作ってボクたちにも振る舞ってくれる。
どうやら今年は啓子が個人的に少し分けてもらったようで、なるべく長く保存するためのコツなんかをレクチャーされている。なんでも、その気になれば冷蔵庫で半年から1年は保存できるらしくて。
「うたちゃんにも梅のヘタを取るの手伝ってもらったのー」
「あ、本当。うたちゃんにもお礼言っといて」
「今度は赤しそでしそジュースを作るの。そっちも出来たらお裾分けするね」
「ありがとう」
梅ジュース、と言うか結構濃い原液らしいから梅シロップと言うのが適しているかもしれないそれは、水やソーダで薄めてもいいし、それこそお酒で割ってもいいそうだ。季節の物は体が欲しがる栄養にも優れていると思う。梅やシソにしても。
「う~、暑い~! どーにかなんないのもー!」
「うっさいよサドニナ、アンタ元気だね」
この暑さにやられているらしい1年生が疲れた表情でやってきた。7月に入ってテストも近付いているし、新しい環境に慣れてきたと思ったら別の新しいことがやってくるから疲れるんだろうね。
サドニナは暑い暑いと大騒ぎしているし、ユキちゃん本人もグロッキーな様子だけど頭に付けてる羽飾りも湿気でやられている気がする。あれ、ミラはどうしたのかな。
「ユキちゃん、ミラは?」
「ミラは最近のぐずぐずで体の調子あんま良くないっぽくて、今日は休むそうです」
「そっか。季節の変わり目だもんね。ユキちゃんも気を付けて」
「ありがとうございます~。ホント、さっきからサドニナがうるさくってしんどかったんですよ」
「こんなにかわいいサドニナと一緒に歩けて何が不満だって言うのユキ!」
「ウルサイし暑苦しい」
すると、2人の前にトンと置かれた紙コップ。ふわりと梅の香りが漂う中で沙都子がうふふと笑っていて、僕にも同じものが手渡される。コップの中ではプツプツと上がる気泡。
「よかったらこれ飲んでみて。ソーダで割ってみたんだけど」
「沙都子、ありがとう。いただきます。ん、いいね。美味しい」
「わー、梅のいい匂いー。いただきまーす」
「どうぞー」
「梅ソーダおいしい! さと先輩おかわり出来ますか?」
「あっユキ抜け駆け禁止! アタシももうちょっと欲しい!」
「今作るからちょっと待っててね」
はーいと1年生たちがおかわりを待っている様子を見れば、少し元気が戻ってきたかな。すぐに体に効果があったとかではないと思うけど、梅ソーダのさっぱり感が良かったんだと思う。
「サドニナ、ユキちゃん。これ、沙都子の自家製ジュースなんだよ」
「えー! さと先輩そんなことまで出来るんですかー!」
「梅を漬けるとかさとかーさんスゴすぎ!」
「うん、ホントおかーさんだよ」
「おかーさんって言う子にはソーダ作りませんよ!」
ごめんなさいーと2人が沙都子に謝っているのを見てボクと啓子は大笑い。言ったら怒るだろうけど沙都子は1年生たちの“お母さん”なんだろうなあって。
梅ソーダのおかわりを手にご機嫌の1年生を後目に、沙都子は残った梅シロップの量を慎重に見ている。3年生の先輩たちの分はこれくらいかな、などと。
「沙都子、しそジュースが出来たらまた飲ませて欲しいな」
「しそジュースはジュースを絞って残ったしそをゆかりにしておにぎりを作るまでが楽しいのー。ジュースと一緒におにぎりも食べてね直クン。定例会で向舞祭に出るって聞いたし」
「うん、ありがとう」
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