つめこみ過ぎはよろしくない

 さて、どうしたものか。夏合宿の班が決まって、今は顔合わせが行われている。俺が率いることになった5班は3年生枠に圭斗先輩がいらっしゃって、2年アナが1人と1年生の女子が3人で編成されている。

 2年アナは緑ヶ丘だし星大のミキサーの子は星大だし初心者講習会にも出てるから何の問題もない。何が困ったって、星ヶ丘の浦和さん、それから青敬の諏訪さんという子は初心者講習会に出ていない。ラジオのことを1から教えなければならないのだ。


「――って、どうして待ち合わせが外なんですか?」

「まあまあ」


 今回の顔合わせ会場である(対策委員的には)いつものカフェに行く前に、みんなでやってきたのはランドマークビルの前。買い物をする人たちがごった返す花栄(はなえ)という街の中心だ。

 6時ちょうど、始まったラジオ番組。このランドマークビルの1階にはガラス張りのスタジオがあって、ここからラジオの公開生放送なんかをよくやっているのだ。

 インターフェイスでやっているラジオのことを説明するには、必ずしも同じでなくていいからラジオをやっている現場を見せることだと思った。初心者講習会なんかの映像があれば最高だったけど、ないし。


「イメージとしては、あれだな」

「わっ、始まったです!」

「です」

「さすがにあそこまではカッコよくないかもしれない。だけど、俺たち6人でひとつの番組を作っていきたいと思って。それじゃあ、改めてカフェで座って話そうか」


 改めて自己紹介をして、5班はこういう方針で行きますよと基本的なことを説明する。1年生には、番組のことにしてもそうだし、それ以外のことにしてもインターフェイスで困ったら相談してくれと。

 圭斗先輩は定例会議長であられるけれど、班長は俺なのだからとあくまでも自分は向島大学から出ているただのアナウンサーであるというスタンスだ。ここまでの進行に関しても、いつも通りの笑みを浮かべて見守って下さっているという印象。


「えーと、DJネームを決めよう。星ヶ丘と青敬は決める習慣ないはずだし。浦和さん、諏訪さん、何かあだ名とかこう呼んでほしいっていう希望はある?」

「特にないです」

「です」

「じゃあ、大喜利か」

「野坂先輩のDJネームは何て言うですか」

「ですか」

「俺はマーシー。名前がマサフミで、その誤読が由来。名前に関係ある人もいるし、圭斗先輩みたく名前に関係しない人もいるから何でもアリっちゃアリ」


 浦和さんと諏訪さんが2人して俺に詰め寄る様がまあ何と言うか。浦和さんはグイグイ来るタイプなんだろうなって印象だったけど、諏訪さんだ。口数も少ないし大人しそうに見えて案外がっついて来てるぞ、と。あ、降って来た。


「よし、浦和さんはマリンで行こう」

「えっ、急です! 何でそうなるですか!」

「名前が茉莉奈だし、服ボーダーだし、さっき誕生日の話してたけど海の日近いから。嫌なら別に考えるけど」

「嫌ではないです。割と可愛い部類ですし」

「じゃあ次諏訪さんなー。圭斗先輩、どうしましょう」

「ん、降って来ないなら無理にいじらなくても大丈夫じゃないかい? “あやめ”は花の名前で可愛らしいし」

「諏訪さん、そういうことでいいかな」

「大丈夫です」


 無事に……無事に? とにかくマリンとあやめのDJネームが決まったところでペアを決める。まだ今日やろうとしてたことの半分も終わってないのにめっちゃ疲れた。班長業って大変だ。何かもうてんやわんやで頭が追い付かない。


「あやめ、私の顔に何かついてる?」

「マリンが、私の姉に少し似てるなと思ったんです」

「へー、お姉さんいるんだ」

「双子の姉です。マリンと雰囲気が少し似てるので、勝手に親近感を覚えて安心してたんです」

「あやめも私の弟にちょっと似てるよ、雰囲気」

「へえ、弟さん」

「親の都合で姉弟になった義理の弟だけど。大人しそうに見えて結構ガツガツしてたり作品に貪欲だったりするところが。あ、弟美術部なんだけどさ」


 何はともあれ、班は打ち解けられそうでよかった。番組に関する具体的な話は次回でいいかな。あまり1回にたくさん詰めすぎてもダメだ。今日はみんなのことを知る日にしよう、そうしよう。

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