毎日毎日僕らは流刑地の
「とだいまー」
「つばちゃんとだえり~」
「たい焼き食べたい人ー!」
「は~い!」
「洋平、お前は無駄に元気だな。うん、全員だね」
あっ、意外に朝霞先輩も手が上がってる。つばめ先輩がブースにやって来るとおやつの時間になることが多々ある。それは本当にスナック菓子だったり、おだんごだったり、焼き鳥だったり。今日はたい焼きかあ。
紙袋の中から出てきたのは輪ゴムで留められた新聞紙の包み。昔ながらって感じでわくわくする。それをつばめ先輩が開いていくと、5匹のたい焼き。まだあったかいのがわかる。
「つばちゃんこれど~したの?」
「局でもらった。くれるのはいいんだけど毎回大量なんだよね」
「じゃ、ありがたくいただきま~す」
「食べて食べて。はい、朝霞サンも!」
「ん」
つばめ先輩はラジオ局でアルバイトをしているそうだ。コミュニティとかじゃなくて、大きなAMラジオ局。そこで実際に機材を扱ってたりするんだからすごいよなあ。
野暮用でここに来るまでの間にラジオ局に寄ったら、紙袋いっぱいのたい焼きをもらってしまったんだとか。まだまだあるけどこれでも少しは減った方。遠慮せずにおかわりしてねーと俺にも手渡される。あったかい。
「えっ、ちょっと待って朝霞サンどっから食べてんの!?」
「ん?」
「うわ~、斬新でしょでしょ~」
「確かにちょっと変わってますね。頭か尻尾かって論争はよくやりますけど、まさかの腹側」
周りで俺たちがわーわーと食べ方にいちゃもんを付けるのも素知らぬ顔で朝霞先輩はあんこがたっぷり詰まった腹側からたい焼きを食べ進めている。黙々と、淡々と。
「あんこが詰まってて美味い」
「それはわかるんだけど、そもそも朝霞サン好きな物最後にとっとく派じゃん。尻尾とかからだと一口が小さくてあんこに辿り着かないのがイヤ的なこと?」
「とっておいたら横取りされた話をしてやろうか」
「あ、いいわ。映像で再生できる」
「越谷班あるあるだネ~、懐かしいでしょでしょ~」
「えっ、どういうことですか」
「そっか、ゲンゴローはこっしー知らないっけ」
俺の前のミキサーだった越谷さんという4年生の先輩が、朝霞先輩の前にこの班の班長だったそうだ。全てのパートを通っているユーティリティープレイヤーで、今いる朝霞班の先輩はみんな越谷さんから技術指導を受けているらしい。
ステージに熱くて、かつ冷静。事情があって部ではいないもの扱いをされているそうだけど、能力は凄い。だけど、部の活動とは別に困ったことが。それは、一緒にご飯などを食べていると、横からひょいっと横取りをしてくるそうで。
「確かに俺は基本的に好きな物を最後までとっておく派だし、頭や尻尾からだと生地がちょっと分厚くてあんこに届かない。だけどな!? 越谷さんのあれは本当に見境ねーんだよ! 特に俺なんか食うのが遅くて何遍楽しみを奪われたことか! それさえなきゃ文武両道かつ人格者で完璧だよ! 思い出した、こないだ食った中華丼なんか最悪だ! あんかけ系で熱くてなかなか食えないのに楽しみにとっといたうずらの卵を食われてだなあ! ホントあれは泣くぞ。……というワケで、越谷さんと一緒にいるとき、それと越谷さんにやられたことのある物は大体好きな物を先に食ってる」
「そ、壮絶ですね……」
「朝霞クンは特に食べるのがゆっくりだから~」
「そもそも何でこっしーと食べるのにあんかけ系とかいう隙だらけになる物チョイスするかな、猫舌なのに」
「食いたかったんだよ。天津飯と悩んだんだ」
熱弁を終えた朝霞先輩は、また小さな一口でもぐもぐとたい焼きを食べ進めていく。確かに、成人男性とは思えないほどの一口の小ささ、それと咀嚼の長さもゆっくりの原因なんだろうなあ。猫舌もあるし。
「そしたら朝霞サンもうひと包みあげるわ。台本書く時期だし糖分いるっしょ?」
「ありがたく」
「梅雨だし悪くなる前に食べなね」
「ん」
「レッドブルよりゆっくり長く効きそうでしょでしょ~、腹もちもいいし~。うんうん、これでしばらくはスイッチ入っても平気そう~」
「えっ、それってどういう……」
「朝霞班あるある」
「でしょでしょ~」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます