不気味なモチベーション
初心者講習会が終わって初めての対策委員だ。珍しく課題を俺と同時に終わらせたヒロと一緒に乗り込むいつものコーヒーショップ。遅刻はたったの5分。どや! ……すみません。
それはそうと、初心者講習会が終わって一息つく間もなく対策委員は夏合宿に向けて動いていくことになる。対策委員の仕事の中で最も大きいそれは、言わば一大勝負。
「さあ夏合宿だ!」
「……どーしたの野坂。悪い物でも食べた?」
「ストレスで気が触れたのかも。つばめ、何か薬ある?」
「バカにつける薬はさすがにない」
「いや、久々に会議の序盤からいるから変なテンションになってて」
「って言うか、いつもいてもらわないと困るんですよねー」
「たまの5分遅刻くらいでドヤ顔されても」
「はー、これだから向島は」
「すみませんでした」
果林、啓子さん、それからつばめの女子勢にボコボコにされつつも、久々に会議の序盤からいるし、夏合宿の話だしで気合が入る。初心者講習会を乗り越えたということもある。
さて、夏合宿というのはその昔、インターフェイスでやっていたスキー場DJに行くための技術を身に付け、かつその資格の有無を振り分けるとてもシビアなイベントだった。
とは言え、スキー場に行っていたのも現3年生まで。その機会がなくなった俺たち2年生以下はと言うと、合宿を大学間の交流という意味で捉えている。もちろん、技術についての講習も重要だとは思っている。
「えーと、過去の資料を見る感じだと、この時点で考えることは合宿の日にち、それから参加費。各大学の参加申し込み用紙兼アンケートの作成ってトコだな」
「日にちは例によって8月末?」
「俺もそれが妥当じゃないかとは思ってる。その辺りで調整するのでいいかな」
合宿の日程は8月末、費用は去年と同じ7700円で調整していく方向に決まった。参加申し込み用紙兼アンケートに関しては、去年の物が残っているのでそれを参考にしながら啓子さんが作ってくれることに。
必要な情報は大学、名前(DJネーム)、学年、アナミキのパート。アンケートの項目は合宿に望むこと、それからアイスは好きかということ。これが地味に大事。
「ねえ野坂、一応聞いとくけど」
「どうした果林」
「あの人って夏に向けたモチベーションどうなの」
あの人というのが三井先輩のことであろうとは、聞かなくともわかる。果林の表情が苦虫を噛み潰したみたいになっているから。初心者講習会を荒らすだけ荒らして音沙汰が無くなった三井先輩だ。夏合宿に出てきたらどうしようと思うのも仕方がない。
ただ、三井先輩の夏に向けたモチベーションというのが俺にもヒロにもさっぱりわからないのだ。何故なら、初心者講習会の1週間ほど前からその姿を見ていないから。講習会前日にメールこそ送られてきたけど、合宿についてはさっぱり。
「最近三井先輩サークルにも来とらんし、やる気あるんかないんかもわからんわ」
「菜月先輩によれば、授業でも見ないらしい。2人とも出席率が高くないから目撃情報としてはさほど当てにならないけど」
「えっ、逆に不気味なんだけど!」
「やめてよ、いきなり夏合宿の講師連れてきたとか」
「大丈夫だつばめ。今度はしっかり拒否らせてもらうから。前科が出来たから俺たちも断りやすい」
もしも三井先輩がまた何かを仕掛けてくるようであれば、こっちは定例会に訴える準備もある。今度こそ、俺たちは自分たちの信じた道を行くと決めたのだ。
「夏は一歩突っ込んだ講習だし、初心者講習会でやってもらったことをまとめておかないと。啓子さん、アナウンサー講習の資料をもらえると嬉しい。全体講習用のレジュメとミキサー講習の資料はあるけど、アナ用のはなくて」
「わかった」
「って言うか講師のこと考えとかなきゃねー」
「ちょっと、次の会議までに少し考えてみようか」
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