盤石のセルフコントロール

「ァんだー、やんのかー!」

「いやー、そんなに怒る~?」


 今日はインターフェイスで出ていたファンタジックフェスタの打ち上げ。その最中、不穏な空気がチラリと漂う。


「ちょっと、マズいでしょでしょ~」

「外で問題を起こされるのは非常によろしくないね。ん、山口君、止めに行くかい?」

「出来れば近付きたくないけど~、しょうがないよネ~」


 不穏な空気の発信源は、三井と朝霞君だ。見た感じ朝霞君はちょっと出来上がってるし、三井も明らかに酔っている。酔っぱらいの喧嘩の仲裁とか、山口君の言うように近付きたくない。

 と言うか、山口君は居酒屋バイトで本職なんだから喧嘩なんてよく見るだろうに。だけど、彼が近付きたくないのは喧嘩の現場ではなく怒り狂う(しかも酔って見境のない)朝霞君だと言うのだから、それはご尤も。


「おい、三井。飲み過ぎだ。自制してくれないか」

「朝霞ク~ン、どうしたの~?」

「山口ぃー! コイツが俺らのことバカにするんだ! ンだよふざけんなよ、誰がラジオの現場に遊びに来てるって? やるからにはガチだっつってんだろ!」

「あ~うん、俺らは全部ガチでやってるよね~、それこそ命がけだもんね~、うんうん。俺はわかってるよ~」

「お前はわかってて当然だろうが!」

「ぎゃんっ!」


 派手な音を立てて倒れた山口君は、そのまま床の上で悶絶している。朝霞君に張り倒されたのだ。星ヶ丘ではよくあることらしいんだけど、リアルラブピ怖すぎだろ。僕はもっとスマートに行きたいんだ。


「うわー、こわー。菜月のローキックも怖いけど、ロイも怖いなー」

「三井、やめろ」

「それ以上言うならお前はこれ以上の目に遭わせてもいいんだぞ」

「朝霞クンそれはアウト~! それやっちゃったら謹慎じゃ済まないし~、俺とつばちゃんはど~なるの!?」

「だって俺らだけじゃなくて水鈴さんのことまでディスってんだぞ! 星ヶ丘なのにプロになれるはずないとか、どっかの社長の愛人枠なんじゃないかーとか! ふざけんなよ」

「……ちょっと、事情が変わったよね」


 いよいよ終わりだな。星ヶ丘勢に対する暴言、女性蔑視の態度。その女性というのが自分の後輩のお姉さんだということを忘れているのではないかな。

 山口君の顔が明らかに変わっている。憧れの先輩をそんな風に言われたのが原因だろう。これは非常に由々しき事態だ。(前)対策委員はキレるとヤバイ奴しかいないとは聞いていたけど。

 朝霞君の他に山口君をコントロールできそうなのは……伊東は既に使い物にならないし、菜月、高崎……は、2人の世界を作ってる。ファンフェス不参加勢は来てないし大石君は論外。助けて村井おじちゃん! お麻里様! 越谷さん!


「うんうん。三井クン、とりあえずこれ飲もっか~。朝霞クンも~」


 そう言って山口君が差し出したのはジョッキ一杯の水。お冷だ。そして彼は三井と朝霞君の間で続ける。


「俺たちがガチだってわかってもらえてないのは、改善点があるってことだよね~。朝霞クン、俺たちはまだまだやれるよ~」

「あ、ああ」

「三井クン、ここに1年生がいなくてよかったね~。2・3年は今更三井クンの言うことなんて気にしないけど~先輩が悪酔いしてるってちょっとメンツ保てないし~。それに知ってるはずデショ? 水鈴さんの妹ちゃん。聞かなかったことにするし~、安心してして~」


 三井は「水鈴さんの妹ちゃん」という単語に一瞬ピンと来なかったようだけど、ようやく回路が繋がったのかマズいという顔をしている。と言うか、マズいという概念を知っていたのか。


「う~……山口ぃー、何だよマジふざけんなよ、早くステージやりてーよー!」

「うんうん、丸の池は枠もらえるように頑張ろうね~」

「朝霞君も泣き上戸の気があるのかな?」

「普段はこっしーさんの前でしか泣かないらしいけど、相当キてたみたいだネ」

「台本書きてーよー! 山口ぃ~、う~っ」

「うんうん、俺は何があっても、どんな本でも朝霞クンと一緒だよ~」


 保護者の存在って大事、でしょでしょ。

 一件落着に見えても火種が消えることもなく。床に伏せる三井を蔑む瞳がいくつか。果林、啓子さん、つばちゃん……それから、野坂。対策委員が相当キているようだね。いっそ、朝霞君にやっちゃってもらっていた方が、平和的な解決が……おっと、それ以上はやめておこう。

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