secret agent

「来たねマー」

「ダイさんお久し振りです~」

「さ、乗って」

「お邪魔しまーす」


 今日はサークルのOBの先輩と出かけることになってんだね。俺は村井博正、向島大学の4年。で、待ち合わせていたお相手の人が俺らから見て2コ上の先輩で、今は通信端末を売りながら司会業やDJをやってたりする水沢祐大さん。通称ダイさん。

 4年ともなると就活やら何やらでスケジュールがパッツパツ。だけど、綺麗なお姉さんがどこにいるかわからないから積極的に攻めますよね。ぶっちゃけモチベーションの占める割合はほとんどそれ。ダイさんの車に乗り込んで、さっそく始まるのは近況の話だ。


「マーお前サークル見に行く?」

「4年になってからはあんま行ってないっすねー。ファンフェスは一応見に行きましたけど」

「ああ本当。今って圭斗たちの学年だよね。みんな元気?」

「ファンフェスで見た限りでは元気そうでしたよ」


 ダイさんから見ると圭斗や菜月ら、今の3年生は4コ下。在学期間がカブってないから直接の面識はないけど、MMPは割とフランクにOBが遊びにくるサークルで、ダイさんもちょくちょく顔を出してくれていた。その結果、今の3年生くらいまでなら顔と名前が一致している。


「何か今ってインターフェイスでも初心者講習会ってのをやってるんだって?」

「麻里から聞きました?」

「いンや、馬場ちゃんから」

「馬場さん? 何でそんなトコから」


 馬場さんというのは、ダイさんから数えることさらに2コ上の先輩で、MMPの歴史で数えるなら3代目の大先輩になる。ちなみにダイさんは5代目で俺は7代、圭斗が代表の現在は8代目。歴史の浅いサークルであることがわかる。

 当時のMMP、と言うか向島放送界の空気はプロの放送人を目指すことが第一という感じだった。今でこそ楽しくやることがメインとなっているけれどもだ。馬場さんはそんな中でプロのラジオパーソナリティーとして飯を食っている人だ。


「何か、初心者講習会の講師を依頼されたーって相談されててー」

「いや、不自然っすよ。それマジな話ですかダイさん」

「本当だよ、こないだ馬場ちゃんと会った時に相談されたんだって。で、マーは何が不自然だと思う?」


 初心者講習会というのは俺が対策委員だった時から始めた行事で、講師は大体1コ上の学年に頼む。俺もそれで去年講師をやった。なのに、急に1コ上どころか今の2年からなら6コ上? ちょっとよくわからない。

 明らかに対策委員以外の手が入っている。そう率直に思ったのでそれをダイさんにぶつけると、ちょうど赤信号だったこともあってダイさんはニカッと笑ってパンと手を打つのだ。


「さすがマー、ご名答」

「まーた全部わかってて人のこと試したんすね。ダイさん人が悪いんすから~」

「馬場ちゃんへの依頼はミッツから出されたんだよ」

「はああ!? 何やってやがんだアイツは!」

「馬場ちゃん曰く、今の対策委員の子たちがどんな子かもわかんないのに依頼を受けて大丈夫なのかーって。ミッツは仲介は全部自分がやるから大丈夫だって聞かないらしいけど」

「いやそんな話あるかよアイツバカだろ」

「対策委員の子たちから何か聞いてる?」

「菜月か圭斗ならひょっとするかもしれないっすね」


 唐突に出てきた三井という名前だ。いや、これまでの言動を思えば別に唐突ではないのかもしれない。ナチュラルに空気が読めなさすぎるんだよなアイツは。悪意がない分余計めんどくさい。


「講習会、来月の3日だってね」

「あー、そうなんすね」

「マー、ちょっと現役の子たちの動き探ってみてよ」

「そしたら圭斗と菜月らへんから攻めてみます」

「頼むよ。マーのレポートで馬場ちゃんへの返答を決めるから」


 何か面白そうなミッションを受託しちゃいましたよね~。何か不穏なことになりそうな気もするけど、あくまで水面下で。ふざけた村井おじちゃんの顔で必要な情報を聞き出しますよ。

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