網々降れ降れ肉が降れ

公式学年+2年


++++


「……バーベキューって雨天決行だっけ」

「雨天っつーか、荒天じゃん?」

「さすが雨神様、外さないし!」


 さて、今日これから行われるのは佐藤ゼミのバーベキュー……って、会場まで来てて難だけど、出来るのかなあ。雨が激しく降り、雷も鳴っている。屋根があるから出来なくはないんだろうけど、ちょっとあんまりだ。


「あー! 降ってきた!」

「鵠沼先輩の言う通りになった! すげー!」


 突然降り出した雨に、ササとシノが慌ててレインコートを被る。どうやら鵠さんがササとシノに雨具を用意するように言っていたらしい。もちろん鵠さん本人も雨具は装備済み。心当たりがありすぎて何とも言えない。


「イベント+高木=雨じゃん?」

「3年生の先輩が準備万端だったのはそーゆーことだったんすね!」

「俺もシノも晴れ男のはずだったのに……イベントで初めて降られた……」

「ササ、俺も安曇野も晴れ男に晴れ女のはずだったんだよ。高木の雨力がハンパないだけだから諦めろ」


 バーベキューは決行するらしく、女性陣は受付のあるセンターの中で野菜なんかの下拵えをしてくれている。まさか会場に来てから降るとは思わなかったけど、俺たち男子は現場で出来る準備をしていく。

 ゼミのバーベキューは2年生から4年生までのみんなが集まって行われるイベントだ。4年生の参加は任意で、見る限り7~8人くらい。黄色いレインジャケットを着た果林先輩が紙皿や炭の準備をしている。


「つか高木先輩どんだけ降られるんすか」

「去年とか、フィールドワークに出ると絶対降られたなあ」

「それで疫病神っぷりに拍車がかかったんだよな」


 雨は激しく打ち続け、普通に喋っていたのでは声が通らないくらいの音がしている。ちょっとしたことを話すにも、近くに寄って声を張って。降っている物はしょうがない。風がないだけまだマシだ。これで風雨になると屋根の意味がなくなるし。

 下拵えが終わりそうだと連絡が入ると、炭に火をつける。いつでも焼き始められるようにコンディションを整えて。屋根の下では雨の音に負けないくらい、賑やかな声が響いている。どこの学年も楽しそうだ。


「よーし、食べるぞー! パパー、お肉焼いてー!」

「はいはい、待ってなさい」


 4年生の方では下味が付けられているらしい大量の肉が入ったビニール袋がお目見えしていた。明らかに7~8人の量ではないんだけど、消費する能力があることを3年生以上は知っているから驚かない。

 ササとシノ以外の2年生は驚いているようで、手が止まっている。雨神か疫病神か知らないけど神らしく予言させていただくと、大量に買ってきてる2年生の食材も、最終的には4年生の網で焼かれると思うよ。


「高木、お前肉ばっか睨んでないで野菜も食えよ」

「嫌だ。肉がいい」

「そろそろいい感じだし!」

「あっ、俺の肉」

「知らないし!」


 手元には缶ビールと白いままの紙皿。肉が焼けるのを待っては安曇野さんに横取りされること数回。なかなかいただきますが言えない状況。網奉行の鵠さんもそんな俺を見て苦笑い。うん、もっと肉を買えばよかったと思うよ。


「この調子じゃお前食いモンにありつく前に焼きそば焼くことになるぞ」

「鵠さんもっと豪快に肉を乗せていいと思うよ」

「ペース上げたら最後の方で肉がなくなるじゃん?」

「安曇野さんに盗られるんだよね」

「アイツそんな量食わないし、そのうち終わるだろ」

「うーん、そうかなあ」


 雨は降ってるけど屋根があるから平気だし、現場はとても楽しいから案外大丈夫だ。2年生はわざわざずぶ濡れになって遊んでる子もいるし、4年生は人数が少ないながらも和気藹々として楽しそうだし肉もたくさんあって羨ましい。


「弟よ、肉食べてる?」

「えっ、平田先輩。弟ってもしかして俺のことですか」

「姉ちゃんからの差し入れー。肉睨んでばっかで食えてないだろって」

「あっ、ありがとうございます」


 ちらりと4年生の方を窺えば、果林先輩がひらひらと手を振っている。ビールと肉が美味しそうだ。俺もそれにひらひらと手を振って応えれば、差し入れとしてもらった小さなビニール袋をじっと見る。


「肉だな」

「肉だね。……焼いていい?」

「いいんじゃん?」


 タレの味が染み込んだ肉が焼けるのを、今か今かと待ちつつ。この匂いでビールが飲めそうだけど、グッとこらえて。肉の焼ける音は雨音より強い。厳密には、肉に集中しすぎて雨音がどっか行った。よーし、早く焼けてー。

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