パタパタパパとお買物

公式学年+2年


++++


「ねえ、財布誰持ってる!? まさか店長じゃないよね!?」

「大丈夫、俺が持ってるよ」

「ナイス小田ちゃん!」

「それじゃあ、回りますか」


 佐藤ゼミのバーベキュー前日にやることと言えば、当然買い出し。4年生のゼミは火曜4限にあるから、そのままついでに有志で買い物をすることに。4年にもなると就活もあって参加は任意になる。でも、せっかくだし出ますよね。

 買い出しのメンバーはアタシと桃華、小田ちゃんと、“店長”こと平田満ひらたみつる。店長は各種イベントで頼りになるんだけど、財布だけは持たせちゃいけないっていうのがこの学年の常識になってる。とにかく落とすんだよね、財布を。


「岡山さん、人数減ってる割に予算は変わんないし、どう割り振ろうか」

「果林がいる時点で食品に振らなきゃいけないから、いつもと同じでいいと思う」


 各学年に割り振られる予算は2万円。2・3年生は25人くらいいるからお金も結構必要になってくるけど、参加人数が10人にも満たない4年生だ。まあ、アタシがいるから食品にっていうのは間違ってないと思う。


「国産和牛ステーキ食べたかったなー」

「ダメダメ小田ちゃん、質より量だよ」

「岡山さん厳しいなあ」

「果林がいる時点でお酒にも振らなきゃいけないんだから」

「ひどーい! ねえヒドいよね店長!」

「千葉ちゃんが食べるのは事実やでなあ」


 店長の眉毛がハの字になったところで、畳みかけるのだ。桃華を陥とすのは難しい。だから可能性のある方を狙っていくのだ。言っちゃえば、アタシだって(自腹切らずに)いいお肉が食べたいですよねー!


「店長ー! パパー、高いお肉買ってー!」

「子供よ、よく聞きなさい。パパは雇われ店長だから給料も安いんだぞー。安いお肉で我慢しなさい」

「パパー、昇給しないのー」

「そう簡単には出来ないんだよー」

「パパー、じゃあ安い塊肉買ってー。桃華の部屋で下拵えして美味しくするから安い塊肉買ってー」

「それはパパも食べられるのかな?」

「ママー、パパにも食べさせてあげてー!」

「そうねえ、お姉ちゃんがいいって言えば食べさせてあげられるけど、お父さんの安月給じゃ厳しいかしらねえ、お姉ちゃん」

「て言うかどうして小田ちゃんがお母さんなの。それはいいとしてどうしてアタシが鬼姉みたいなことになってるの」


 わざとらしく「てへぺろー」と3人で鬼姉に反省のポーズ。ただ、塊肉を下拵えして安く済ませるという案は割と現実的。始めから味のついてるパックもあるけど、量の割に高いんですよねー。


「あれっ、果林どこ行った」

「パパー、焼きそば食べたい!」

「ちょっと、勝手にどこでも行かないで果林! パパ、手つないでて」

「ほらー、子供ー、おいでー」

「うへー」


 パパの分厚い手に動きを封じられてしまえば、好き勝手に食べたい物を探しに行くことも出来なくなってしまう。買い出しはママと鬼姉が中心となってああだこうだとシビアな計算をしつつ進んでいく。

 コスト計算なんかはアタシも割と得意なんですけどーとブーイングをしていると、店長がアタシの顔を覗きこんで諭してくれるのだ。桃華と小田ちゃんも、アタシの食べっぷりを信頼しているからこそシビアになるのだと。


「千葉ちゃんが食べるの見てたら楽しいでね。でも千葉ちゃんにばっか合わせると今度は俺らが死ぬで、絶妙な線引きが必要なんよ」

「線引きかあ」

「でも、俺らにばっか合わせても千葉ちゃんが死ぬでなあ。難しいよね。パパはいっぱい食べる娘が好きだぞー」


 ママと鬼姉が綿密な計算に基づいた買い物を続けるのを後ろから見つつ、雇われ店長のパパとお喋りをして。量に関しては後輩たちが余らせたので賄えんかね、などと心の声を漏らすパパには「ですよねー」と同意をする。


「パパー、そしたら高いお肉買ってー」

「それは無理です」

「ケチー」

「予算の中にはその後の飲み会のお金も入っとるでね」

「高いお肉我慢します」

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