どうせ越えるハードルならば

「それでは、対策委員を始めます」


 向島インターフェイス放送委員会の中には、技術向上対策委員会という組織が存在している。これは、在りし日のスキー場DJのためにラジオの技術を向上させるという目的で設立された物だそうだ。

 スキー場DJの廃止された今現在は、各大学の交流にも力を入れつつ大学間の情報交換や技術向上を目的として定期的にイベントを開いたりして活動を続けている。申し遅れましたが技術向上対策委員会議長の向島大学2年、野坂雅史です。


「野坂が遅刻してないとかいう奇跡…!」

「見たか果林! 俺だってやれば出来るんだ!」

「次1時間遅れてくるにアイスラテM」


 委員長は緑ヶ丘の千葉果林。遅刻魔として悪い方向に名を馳せてしまっている俺に変わって議事進行などの役割を毎回務めてくれているので割と真面目に頭が上がりません、はい。

 実質的まとめ役に青女の啓子さん、会計に星ヶ丘のつばめ、機材管理が緑ヶ丘のゴティ。あとは星大のツカサにウチのヒロという7人が今期の対策委員だ。任期は1年。ついこないだ始まったばかりで、まだまだ様子見の段階だ。


「えっと、まずは初心者講習会かな」

「ですね」


 初心者講習会というのは、その名の通り1年生を対象にした行事だ。インターフェイスのデビューということで、IFで言うところのラジオとはっていう概念の講習と、技術講習。それから講師の見本番組を見せてイメージを掴んでもらう目的がある。

 啓子さんの手元には、去年の対策委員がどうしたかという議事録や資料がある。俺たちはこれを参考にしてどういう講習にすればいいのかを煮詰めていくのだ。去年書いた参加者アンケートを参考にするのが自分たちだったとは、という気分だ。


「全体講習。インターフェイスのラジオとは。それから、ラジオステージ映像問わない放送のお話など」

「星ヶ丘って出てくんの? ファンフェスはそんな出てこなかったけど」

「知らね。でも、今回は対策の管轄だしちょっとは出るんじゃないの?」


 星ヶ丘の内情の話をつばめに振ると荒れるらしい。星ヶ丘は修羅の国とは聞くけれど、俺にはラブ&ピースの向島で平和ボケしているくらいがちょうどいいし想像出来ないなら出来ない方が幸せなのかもしれない。


「去年のアンケートを見てる感じでは、講習内容自体はそこまでああしろこうしろみたいなことは書いてないから、去年とベースは同じでいいと思う。あとは講師の人との打ち合わせ次第かなとは」

「あー、講師問題あったね。どうする、野坂」

「去年も今の4年生だったし、今年も今の3年生にお願いする形になるとは」


 初心者講習会の鍵を握るのが、講師選出だ。2代前から始まったこのイベントだけど、講師は代々1コ上の先輩方にお願いしていた。どういうことを講習して欲しいのかという打ち合わせを重ね、見本番組もお願いするのだ。

 やっぱり、お願いする立場になるので失礼があってはいけないし、どうしてその人にお願いするのかというポイントを明確にして行かなければならない。そして、最初にやるのは誰に講師をお願いするのかという候補を挙げること。


「まあ、ミキサーは伊東先輩がベストなんだろうけど」

「だね」

「問題はアナウンサーだよなあ。よりどりみどりで」

「やっぱ、行くなら最初から大本命を攻めるべきだと思いますよ。ということで野坂、高ピー先輩を倒しに行っていいですか!」


 果林のこの宣言に、歓声が上がる。全員異議はないらしい。インターフェイスの大スターにしてアナウンサーの双璧と呼ばれる高崎先輩が落とせたら。これはもうすごい講習になるぞ。果林にかかる期待は大きい。


「つか果林、倒しに行くって表現」

「高ピー先輩へのプレゼンは死闘だからね。ねえゴティ」

「だな」

「ぬるいことやってたって高ピー先輩はうんって言ってくれないから。こっちの事情を全部わかった上でばっさりやるからねあの人」


 6月に向けて戦いは始まったばかりだ。これからどうなるかはわからないけれど、今は俺たちが何をどうやりたいかを明確にして、講師となる先輩方にお願いしに行かなくては。うう、緊張する。

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