一周回って振り幅上がる

公式学年+2年


++++


「それじゃあ、今年もバーベキューの幹事は鵠沼君、お願いね。君、去年の網奉行っぷりが板に付きすぎてたから。よろしくね」


 ――ということで、今日のゼミは来るゼミバーベキューに向けた話し合いに少し時間を取ることになった。こういう話し合いの現場に先生が首を突っ込むことは少ない。奥の防音スタジオに籠もってるか、ネサフをしてるか。今は前者。


「珍しいし! 高木経由じゃなくて直接のご指名とか!」

「今回は高木の疫病神パワーじゃないのか」

「俺の所為ではないと思うよ」

「佐竹、書記頼む。えー、っつーことで、昨年に引き続きバーベキューの幹事になりました鵠沼です。よろしくお願いします。食いたいモンとか飲みたいモン。希望があれば挙手してもらって」

「はい」

「はい高木」

「3年生になったっていうことは、お酒解禁だよね?」


 しまった。率直に思ったことを発言したらみんなからの視線が突き刺さってる。いや、でも俺がお酒をちょっと飲むっていうのはゼミの3年生の中でも知れ渡ってるし、今更だとは思うけど。うーん、しまった。

 思い起こされたのは、肉を焼きながら缶ビールを煽っていた果林先輩の姿。あれが本当に楽しそうで。来年は絶対飲みながらバーベキューを楽しむんだって思ってたから、ついうっかり。ビールも飲めるようになったしね。


「ちょっとしか飲まないしさ、検討していただけると……今の4年生も飲んでたしさ、ちょっとくらいは~……ねえ」

「じゃあ、全体に挙手取ります。高木の“ちょっと”が“ちょっと”だと思う人」

「えっ、ちょっと待って何その質問」

「はい、ゼロ。じゃあ、ちょっとくらいなら自分も飲みたいなーって人。 あー、これは上がって来るのな。じゃあ、酒にちょっと予算割くか」


 ホワイトボードにはご丁寧に「節度ある飲酒を」と書かれている。明らかに俺に向けたお言葉だろうなあ。いいか、自費で持ち込もう。人様のお金で肉を食べられることには変わりないんだから。

 去年のバーベキューでは肉や焼きそばの麺が結構余ったという反省を踏まえ、何がどのくらい必要になってくるのかをみんなで考えていく。去年好評だったフランクフルトは倍くらいにしても大丈夫そうかな、とか。


「つか今年焼きそばどうする」

「焼きそばやるならソースは大事だよ!」

「まーたお前か高木。それ去年も聞いたじゃん?」

「言っても焼きそばなら美味しく作る自信あるからね」

「あー、そういやそーだな。学祭で出してるMBCCの焼きそばは確かに美味い」

「というワケで焼きそばの材料としての缶ビールを予算に計上してください」

「結局酒に戻ってくるんじゃん?」

「いや、でも本当なんだってビール使うと美味しく出来るんだって!」


 網奉行を差し置いて焼きそばについて語っていると、隣からはちょっと冷ややかな視線が。安曇野さんだ。ちなみに安曇野さんはカメラマンという安定のポジションをいただいている。


「って言うかさ、高木のテンションがいつもと違い過ぎて気持ち悪いし」

「それな。俺も思ってたじゃん?」

「まず口数が多いし」

「多分あれだ、酒が絡んでるからだ」

「あー、それだし。疫病神へのお供え物的な?」

「え、だって自腹切らずに肉が食べれるって嬉しくない?」

「まあ、わからないでもないけどだな」

「高木、アンタ貧乏神でもあった? そのうちキングボンビーとかになる?」

「あ、えーと……ミニボンビーくらいでお願いします」


 結局、実際に食べるであろう肉や野菜、焼きそばなどの費用を計算していくと、お酒とデザートなどに結構費やせることがわかった。あとはそのときにならないと値段なんかはわからないけど、買い出しの現場で臨機応変にやっていくらしい。

 もし食品が足りなくなったとしても、去年の自分たちと同じように今年の2年生が余らせるだろうから食べる物には困らないだろうという予測。ただ、それは4年生の動向次第ではあるのだけど。


「じゃ、バーベキューの後の打ち上げについてまた今度連絡するんでお願いします」

「そっか、3年生になったってことは飲み屋での打ち上げも解禁なんだ!」

「コホン。高木、お前は安定の酒豪すぎる」

「……っと、うるさくしてすみません」

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