旅の仲間が揃わない!

 向島エリアの中心繁華街、花栄はなえのさらに真ん中にある某ビル6階にその部屋がある。ガラス張りのエレベーターで上って、中会議室と表札が掲げられた部屋。そこが、向島インターフェイス放送委員会の定例会が開かれる場所だ。

 コの字に並べられた座席の、僕は最も奥のど真ん中に陣取る。そこが議長席。両脇を委員長と副委員長が固める。早く来すぎたというわけでもないのにまだ人が少ない。会議が始まるのは午後6時、現在時刻はその15分前。


 向島インターフェイス放送委員会というのは、向島エリアの大学にある放送系の団体が集まってなる組織だ。

 現在加盟しているのは7校。ラジオメインの緑ヶ丘大学、向島大学、星港大学。ステージメインの青葉女学園大学、星ヶ丘大学。そして映像メインの青浪敬愛大学、桜貝大学というラインナップ。

 インターフェイスの活動の基本はラジオのイベントが多いから、モチベーションの点でも一枚岩とは言えない組織ではある。定例会が主動するイベントというのも現在はひと月後にある“ファンタジックフェスタ”に出すDJブースくらいで。

 2年前まではスキー場でDJをやらせてもらっていたんだけど、不景気やら暖冬やらの煽りでそのスキー場が営業停止に追い込まれてしまった。以来、スキー場DJに代わる場所を探すというのも定例会の大切な仕事になる。

 その定例会を僕、松岡圭斗が議長として回している。各校の代表と協力…? まあ、実際に出来ているかはともかくこれからほどほどに協力しつつ。技術向上対策委員会との連携も必要になる。


「おはよー圭斗」

「ん、おはようヒビキ。そろそろいい時間なのかな?」

「その割に人少なくない? 人いないならお菓子食べていい?」

「それはよろしくないね」


 僕の左隣に陣取るやいなや、鞄からじゃがりこを取り出したのが副委員長のヒビキこと加賀郷音。青葉女学園大学から出てきている。ピンク系茶髪のストレートヘアーがよく似合う今時の女子だ。


「あ、なんか星城せいじょう線人身で止まってるらしいよ」

「――と、朝霞君から今連絡が入ったね。とは言っても、星城線が止まって影響が出るのは朝霞君くらいだから、人が少ない理由にはならないね」

「だよねー」


 ……などと話していると、どたばたと騒々しい足音が聞こえてくる。勢いよくドアが開けば、駆け込み乗車のように突っ込んでくるのは。


「ゴメンおはよー! 事故渋滞に巻き込まれちゃったー……って、あれっ?」

「おはよう大石君。ごらんの通りだから、気にしなくていいよ」


 よく言えば天然とかナチュラル、悪く言えば鈍い大石千景。星港大学から出てきている。180センチ手前の長身に、水泳で培われた体が実に文化系とは思えない。争いごとを嫌う優しい、言い換えれば臆病な性格だ。


「あれっ、他の子は? カズはいつものだよね」

「伊東はいつもので、朝霞君は星城線の人身に巻き込まれてる」

「そっかー、朝霞も大変だねー」


 伊東が遅れてくるのはいつものことにしても、星ヶ丘と青敬、それと桜貝さんが揃わないことには会議を始めるのも少し躊躇われる。議題が議題だけに、桜貝と青敬はともかく星ヶ丘の朝霞君には来てもらわないと。

 各大学の2年生も揃っている。あとは少しの3年生だ。恥ずかしながら、定例会が時間通りに始まることはかなり少ない。人身事故のような不可抗力ならともかく、どこかの委員長サマが切り捨てられないくらいのプチ遅刻を毎回やらかしてくれるから。

 6時からは15分ほどが過ぎて、なお始まらない会議。時として、議長に必要な物は切り捨てる勇気だ。朝霞君に関しては連絡があったから穏やかに待つことが出来る。だけど、連絡もなく毎度毎度遅れてくる委員長だ。生憎、僕は気の長い方ではなくてね。


「ん、伊東を待ってても埒が開かないし、定例会を始めようか」

「そうしましょー」


 ただ、奴の性質の悪いところは数え切れないほどあるもので。


「わりー遅れた!」

「遅いぞ伊東!」

「地下で迷って、地上に出てからも迷ってさー」

「このド方向音痴が! お前の所為で15分押したんだ、さっさと会議始めるぞ!」

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