豆がほしいぞ、それください

「あっ、“髭”の豆菓子だー! ねえタカティ見て、すっごいよ豆菓子の山!」

「えっ、これって豆菓子の袋なの?」


 とある日、サークル室に入ると何やら小袋が大量に入った袋がある。一緒に来たハナちゃんが目を輝かせて、豆菓子豆菓子とはしゃいでいるけど俺には何のことやらさっぱり。


「タカティ知らない? “髭”っていう珈琲店。元は向島ローカルだけど、最近全国にもたくさん出来てるでしょ?」

「紅社にも出来てるとは聞いたけど、行ったことはなくて」

「ドリンクを頼むと豆菓子がついてくるんだよ。その豆菓子だよこれ」

「こんなにいっぱい!?」


 ハナちゃんの実家近くにもこの“髭”という珈琲店が出来たらしく、ハナちゃんのお気に入りはグラタンだそうだ。きっと俺の今住んでいるマンションの近くにもあるはずだということで、今度近所の探検ついでに自転車で探してみることにしよう。

 ただ、ここで問題になるのはこの、ざっと100袋はあると思われる豆菓子の袋を誰がここに持ち込んだのかというところだ。と言うか100袋も食べられるのかなあ。もちろん一度に食べるワケじゃないだろうから、食べられるんだろうけど。


「これ美味しいんだよねー。1コくらいなくなってもバレないかな」

「えっ、勝手に取るのはマズいよ」

「そんなしょぼんなことしないって。バレないかなって思うくらいには好きなんだって」

「へえ、そんなに美味しいんだ」

「塩味の利いた普通の豆菓子なんだけどね」


 美味しいと言われるとちょっと気になってくる。確かに、これだけあるんだし一袋くらいなくなってもバレないかなと思ってしまう。ごく普通の豆菓子なんだろうけど、知らない土地の見知らぬ食べ物。気になってしょうがない。


「おはよー」

「あっ、カズ先輩! 質問なんですけど!」

「どうしたのハナちゃん」

「この豆菓子誰のですかー? ハナとタカティは豆菓子が食べたくって仕方ないんですよー」

「あー、俺じゃないなあ。でも、髭の豆菓子だから高ピーか、量を考えると果林。うん、どっちかじゃない?」

「じゃあ勝手に食べたら怒られますねー、しょぼーん」

「髭の豆菓子じゃないんだけど、俺今日クッキー持ってきてるから。それを食べながら持ち主が来るのを待ってようか。これだけあるの見たら俺も一袋くらいつまみたくなって来ちゃった」


 ――と、伊東先輩はクッキーの入った袋を俺とハナちゃんに手渡してくれる。きれいにラッピングもされているし、えっ、なにこれすごい。何でも伊東先輩は趣味でお菓子作りをするらしく、これもその一環だとか。

 星形に、白と茶色の渦巻きクッキー、市松模様などなどいろんなクッキーがある。今回は春らしく抹茶を入れてみたんだよと指さすのは、白と緑の市松模様。と言うか本当にスゴいなあ。


「カズ先輩クッキー美味しいです!」

「美味しいです」

「よかったー。今回ちょっと米粉もブレンドしてみたんだよね」

「米粉ってどう使うんですかー?」

「あのねー」


 伊東先輩がハナちゃんに米粉の使い方をレクチャーしていると、おはようございまーすと目に眩しい黄色のジャージ。果林先輩だ。果林先輩は俺の手元を見るやいなや、伊東先輩の真ん前に正座をして手を出している。


「いっちー先輩、ひもじい後輩にお恵みをー」

「ところで果林、この豆菓子誰のかわかる?」

「あっ、それはアタシと高ピー先輩が折半して買ったヤツなんで、程々になら食べていいですよー」

「だって。よかったねタカシ、ハナちゃん。1袋もらいなよ。タカシとハナちゃんが豆菓子気になってたんだって」

「なーんだ。そんなことなら高ピー先輩の分からどうぞー」

「はい。果林もクッキー」

「いただきます!」


 高崎先輩と果林先輩が折半して買ったという豆菓子の袋は、曰く100袋入り。果林先輩の分ではなく高崎先輩の分からいただくというのが若干気になりつつも封を切る。うん、塩味の利いたよくある豆菓子だ。でも美味しい。


「タカティ、今後一緒に髭に行ってみるー?」

「あっ、いいね」

「じゃあいつ行くか決めよー」

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