うごめく花の季節
「ぶえっくしょーい! へっ、へっ、くしょいっ!」
「伊東、てめェはいつになったら学習しやがるんだ。花粉症ならマスクくらいしろ」
「ごめっ、……えっくしょい!」
緑ヶ丘大学放送サークルMBCCの部室にこだまする大きなくしゃみ。花粉症を患ういっちー先輩が発信源。緑ヶ丘大学は山を切り開いた広大な土地にあるマンモス校。そう、山の中。だからなのか、花粉に敏感な人には辛いみたいで。
現在MBCCでは新入生の勧誘活動をしていて、中旬までは曜日関係なく誰かがサークル室にいていつ誰が見学に来ても大丈夫な状態にしてある。使える物は使えということで、佐藤ゼミのラジオブースにもポスターを掲示してある。
佐藤ゼミというのは学内にラジオブースを持ってる社会学部メディア文化学科のゼミで、同じくラジオをメインとするサークルであるMBCCとは相性がいい。佐藤教授……別称・ヒゲはMBCCの名前だけの顧問だったりする。
ちなみにアタシこと千葉果林も佐藤ゼミに在籍しているんだけど、本格的な活動はこれから。ヒゲはあからさまに「ミキサーじゃないの」とか「胸も色気もない」とか言ってくるので差別ですよねー!
「こんな調子で人なんか来るか?」
「来てくれたらいいよね」
今年のMBCCは、この2人の先輩を中心に活動していくことになっている。一人は、さっきからくしゃみを飛ばしている機材部長のいっちー先輩。フルネームは伊東一徳。もう一人は実質的トップのアナウンス部長、高ピー先輩。フルネームは高崎悠哉。
「あの、こんにちは」
「おータカシ、よく来た! っくしょい!」
「うーす。どこでも好きなとこ座れ」
「おはよータカちゃん」
「おはようございます」
ひょっこりと顔を出した黒縁メガネの男の子は、昨日MBCCに加入したタカちゃん。パートはミキサー、機材担当。今のところまだまだ大人しめだけど、秘めたポテンシャルは高そうだとは3年生談。
ちなみに今さっきから先輩たちが言っているのはタカちゃんに引き続いて1年生が来ないかな、という話でした。ただ、タカちゃんは学部オリエンテーションのヒゲゼミで釣れた根っからのメディアっ子だし、他にはどうかなって。
「高木、お前の知り合いでMBCCに興味ありそうな奴はいねえのか。メディ文だろ」
「えーと、友達は美術部に興味があるみたくて」
「隣かよ」
「まあ、その子は現社科ですし」
「高ピー、この時期にそうたくさん友達なんてまだ出来ないよ。ねえタカシ」
「友達はまだ少なめです」
「気長に待とうよ。まだ花粉もたくさん飛んでるし」
「お前が外に出たくないだけじゃねえか」
いっちー先輩はマイ保湿ティッシュでちーんと鼻をかんで、仕上げのひとすすり。病院が嫌いで民間療法だけで済ませようとするのがいっちー先輩のダメなところだって先輩の彼女さんが嘆いてるって高ピー先輩も呆れてる。
いっちー先輩がこんな調子じゃタカちゃんに対するミキサー指導なんかもグダグダになるだろうし、早く花粉おさまらないかな。救いはいっちー先輩の花粉症が春だけってところだから。
「あのー、こんにちはー」
「わー、女の子ですよ高ピー先輩! こんにちはー、見学ー?」
「はい、見学ですー。いいですかー?」
「どうぞどうぞ、汚いところだけど!」
「本当に汚いですね、しょぼーん」
でもまあ、サークル室が狭くて汚いのはしょうがないよね、ヒゲゼミからお下がりでもらった機材が圧迫してるんだから。とにかく、お花のカチューシャをつけたちっちゃいその子を通せば昨日の繰り返し。まずは高ピー先輩の面談から始まる。
「名前は」
「射水ハナです」
「学部は」
「情報科学部のメディア情報学科ですー」
「おっ、Lと同じか。自宅か下宿か」
「下宿です」
「出身は」
「緑風です」
「おっ」
これは今のところ好調、なのかな? よーし、この調子でどんどんいきましょー!
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