Longing for spring
「ゲッティング・ガール、G・G!」
円陣の中心から上がる声は、それはもう気合いに満ちていた。向島大学では今日から新入生ガイダンスが行われ、それと同時にサークルや部活の新歓活動が最盛期を迎える。それは放送サークルMMP、Mukaijima Media Parkも例外ではなく。
男だらけの輪の中でゲッティングガールと言うのは正直イタイ物がある。だけど、それが許されるのは輪の中心で声を上げるのが女性だからだろう。彼女は燃えている。とにかくサークルに女子を入れるのだと。
「ポスターよし、ビラよし! 偽善者のスマイルよし! 胡散臭い笑みよし!」
「ん、菜月。指さし確認はいいけど最後の2つが気になった。偽善者と胡散臭い笑みでどうして僕を指さした」
「圭斗、今年の新歓のテーマは?」
「“ゲッティング☆ガール”だね」
「そう、“ゲッティング☆ガール”だ。つまり春風の似合うぽわぽわして癒される可愛い女の子を獲得しにいく戦争だぞ!? 世間的に美形だのイケメンだのと呼ばれる顔を使わずしてどうなる! 女子を手の上で転がすのはお手の物だろ? 夜の帝王、愛の伝道師」
「ん、何かが引っかかるな」
さっきから気合い十分なこの人が、MMP総務の奥村菜月さん。赤いチェックのスカートに、ニーハイのブーツは当然のようにピンヒール。少々口が悪いのが玉に瑕だけど、厳しくも優しい先輩であると言っておかなくては俺の命がない。
菜月先輩が新歓のテーマであるゲッティングガールの提唱者でもあり、現状のMMPにおける唯一の女性だ。ちなみに、男ばかりで胡散臭いというのが女子を欲しがる理由で、それに関してはすみませんとしか言えない。
そして菜月先輩からやんやと言われていた美しい方がMMPの代表会計、松岡圭斗さん。圭斗先輩は素晴らしい美形で紳士だ。この新歓で俺は正直どこの馬の骨かカボチャかわからない女子よりは圭斗先輩に匹敵するイケメンを発掘したいと思っている。
「ノサカ、発声練習は済んでるか?」
「は、発声ですか?」
「お前の武器は声だろ。当然ベストコンディションだよな?」
「あの、ベストでなきゃいけない理由がどこに」
「このヘンクツ理系男が!」
「いって!」
バシッと重い音が立つ。伝家の宝刀ローキックだ。俺は事あるごとに菜月先輩に殴られ、蹴られ、罵られるという後輩だ。だけど考えて見ろ。野坂雅史というのはただのミキサーの2年生で、機材を扱うのに声が武器である必要はどこにもないんだよなあ。
「突然蹴られる意味が分かりません!」
「いいか、お前は確かに人の気持ちなんかちーっともわからないヘンクツ理系男だ。だけど、お前の声で落ちる女子は絶対にいる! 騙せ、欺け、化けの皮をかぶれ! 顔だってちょっとはいいんだから春風の似合う(略)女子を引っ張ってこい!」
「うう……大学の男女比から見てもイケメンの方が確率は高いのに……」
「男はもういい! 春風の似合うぽわぽわして癒される可愛い男がいるか!?」
「さ、探せばいるかもしれません…!」
女子の獲得にかける菜月先輩の気合いが怖い。と言うか菜月先輩も自分で女子を引っ張ってくればいいのに、などと言おうものなら俺の命はない。当然、菜月先輩も騙し、欺き、化けの皮をかぶる支度は出来ているだろうから。
それでなくても放送サークルという場所はどこの大学も男の方が多い傾向にある。男は何もしなくたって来るというのが菜月先輩の持論のようだ。だけど俺はどこのカボチャかわからない女子よりはイケメンを発掘したい。イケメンは目の保養になるし。
「ん、菜月、野坂。お前たち、自分の趣味に走るのはいいけどある程度は平等にビラを配れよ」
「検討する」
「善処します」
「……可愛い女子とイケメン以外に興味がないことはよーくわかった」
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