あの日の僕が繰り返す

公式学年+2年


++++


「シノ、ちょっと来てくれる?」

「はーい!」

「そしたら、順に説明していくね。MBCCで使う機材とはまたちょっと違うから気をつけてもらって」

「はいっ!」


 4月2日、日曜日。……そう、日曜日なんだよなあ。日曜日にも関わらず、大学に出てこなければならない事情というのが存在した。それは、新入生ガイダンスのリハーサル。

 社会学部ガイダンスでは、佐藤ゼミのラジオブースも案内ルートの中に入っている。一応、学部の花形だからということらしい。ここで佐藤ゼミ生が簡単な番組や新入生に対するラジオ体験なんかをやることになっている。

 毎年そんな入念なリハーサルなんかやってたかなあって気がするけど、先生に言われたんだからしょうがない。一緒にリハ要員に指名された鵠さんや安曇野さんには例によって疫病神だって怒られた。


「高木先輩、これは何ですか!」

「これはボタンを押すと音を差し込めるヤツ」

「へー! やってみていいですか!」

「ブースだけ音を出すにはこのスイッチを押してもらって」


 この好奇心旺盛な子は篠木智也(ささき・ともや)という2年生で、MBCCの後輩でもある。ミキサーということで例年より倍率の高かった佐藤ゼミの面談や書類選考も軽くパスしてきた。俺もああだったんだなあ。ミキサーというそれだけで。

 余談だけど、MBCCの2年生には3人のササキがいて、それぞれ漢字が違う。篠木はシノ。佐々木はササ。それと、佐崎はサキという風に、少しずつ呼び方を変えて区別している。サキは理系の子だけど、実はササも佐藤ゼミにいる。


「高木、やってっか?」

「あ、鵠さん」

「そろそろ飯にしようぜ。さっきからササがうっせーじゃん?」

「そうだね。シノ、ご飯にしようか」

「はーい!」


 ササは鵠さんと安曇野さんについてブースの外での仕事を教えてもらっていた。シノはミキサーだから必然的にブースの中だけど、それ以外の仕事もたくさんある。スピーカーのセットだとか、新入生の列がはみ出さないようにするとか。

 ただ、俺も基本的にブースの中にいるから、そういうのは鵠さんとカメラマンの安曇野さんにお願いすることになる。先生からも「鵠沼君と安曇野君でしっかり頼むよ!」と指名されて、何故か俺が睨まれた。


「鵠沼先輩ゴチです!」

「ゴチっす!」

「おう、食え食え。どーせ日曜日で人なんかいねーじゃん?」


 学食でバイトをしている鵠さんの社割的な物で、通常Mサイズの値段でLサイズのラーメンを食べられて2年生たちはとても満足しているようだ。俺は揚げ鶏丼単品の値段で味噌汁をつけてもらった。本当にありがとう鵠さん。


「て言うか安曇野さんは?」

「用事あるとかで帰った。カメラの準備は完璧だし! とか何とか」

「まあ、安曇野さんは巻き添えだしね」

「つか俺も巻き添えじゃん?」

「鵠さんは家が近いじゃない。俺片道45分だしさ」

「まあな」

「その点で言えばシノも羨ましいよ」

「2年から一人暮らし始めたんだろ? 贅沢だよな」

「お金は自分である程度貯めました! でも真上がL先輩の部屋とかびっくりですよね! 自分の部屋、ムギワンの102だと思ってたんで!」

「つーか俺はあと2年いるじゃん? 勝手に立ち退かせるな」


 そう、何がびっくりってシノの部屋は高崎先輩が住んでいたコムギハイツⅡの102号室。シノ本人よりMBCCの現3年以上の方が驚いてたからね。特にL先輩が。その高崎先輩も今は卒業して星港市の職員。すごいよなあ、独学でパスしちゃうなんて。


「高崎先輩は伝説ですよ。でも何がヤバいって、去年ゼミのブースでやってた番組ですよ、高木先輩とやってた番組。何となく佐藤ゼミに希望届出して通りましたけど、あれに衝撃を受けてめっちゃやる気出ましたし」

「じゃあ、ご飯食べたらゼミの機材で練習しないとね」

「はい! ご指導お願いします!」


 MBCCの機材部長として、それと佐藤ゼミのミキサーとしてシノに教えることはまだまだ多い。もしかしたらこのガイダンスを見てMBCCに興味を持ってくれる子がいるかもしれない。法外に果林先輩からビラをもらった2年前の俺みたいに。


「あっそうだシノ、後でブース前の掲示板にMBCCのポスター貼っといてくれる? 先生の許可は取ってあるし、ゼミの資料と一緒に渡すビラも刷ってあるから」

「暗躍ですね高木先輩!」

「ササ、腹黒い先輩がいて大変だな」

「使える物は使えがMBCCのやり方っす」

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