第37話 自動車学校(ここでもやらかす葉月さん)
そろそろ自動車学校にも慣れてきた頃。
バス停で待つこと暫し。
スクールバス(200系ハイエース4型前期コミューターDX、15人乗り)の姿が見えた。
手を挙げると停車。
とまぁ、ここまでは普段通り。
が、しかし。
ここからが違った。
スライドドアを開け、乗り込むと同時に、結構な違和感。
車内を見渡すと、原因はすぐに判明。
あれ?あいつら休み?
昨日、何もそげなこと言いよねかったばってんが…なしかの? ←訳:昨日、何も言ってなかったけど…なんで?
いつも先に乗っているはずの友達が、今日に限って一人もいないのだ。
「なんか変やな」とは思ったものの、
ま、別に約束しちょったワケでもないし。
学校の用事とかで、間に合わんやったっちゃろ。
という考えに落ち着き、これ以上深く考えることはしなかった。
シートに腰をおろし、ボーっと外を眺めていると…
ん?
いつものルートとは違う。
なんだか自動車学校から離れていっているような気がする。
なのに、
別ルートで向かうパターンもあるんやね。
そう決めつけていた。
既に寒い季節である。
車内には暖房。
人が結構乗っているため、決していい空気とは言えないが、この暖かさはなんとも気持ちいい。
まだまだ、学校は平常授業。
ソコソコ早起きである。
話し相手もおらず、ボーっと座っていると、やっぱし睡魔が襲ってくる。
やることもないので、素直に襲われることにした。
しばらくいい気分で舟を漕いでいると、停車して人が降りる気配。
着いたみたいやね。
ん~…と伸びをし、視線を外に移すと、
へ?ここ…どこ?
いつもとは違う景色。
唖然とした。
余所の自動車学校だった。
葉月の住んでいる地区では、5校のスクールバスが巡回している。
5校のうち、4校が200系ハイエースで、1校がNV350キャラバンだ。
それぞれの学校で話し合い、乗り間違い対策してあって、色や模様を大きく変えてある。
しかし、隣町にある自動車学校のスクールバスだけは、ベースの色が同じで、校名を入れてある位置もほぼ同じ。
パッと見、似てなくもない。
という理由で、やっちまっていた。
時間を見る。
どう足掻いても、完全に間に合わない時間だ。
キャンセルの連絡を入れとかないと、一時間分損してしまうことになる。
究極に焦りまくりながら電話した。
時刻表を見てみると、幸いなことに、今いる自動車学校の前の道を巡回するバスがある。
しかもすぐに。
バス停で待っていると、間もなくやってきた。
乗り込むと、
「あれ?自分…なんで今日はここから?」
運転手から声をかけられた。
ビックリして顔を見ると、以前固定の教官が休みの時に習った、友達担当の教官だった。
顔を覚えられていた。
思わず、
「え?」
変な声が出た。
恥かしい!答えたくない!
そう思った途端、大赤面。
このリアクションを見て、
「あ。もしかして、ココの学校のバスと間違えて乗ったっちゃろ?」
呆気なく言い当てられる。
「いや、その…。」
余所の地区を巡回しているバスなので、知らない人しか乗っていない。
このことが、さらに恥ずかしさを加速させる。
モジモジしていると、
「結構あるんよね。ここのバス、結構似ちょーもんね。ちゃんとキャンセルの連絡した?」
心配されてしまう。
「はい…。」
消え入りそうな声で返事した。
大幅に遅れて到着。
今日は実技のみなので、是非とも乗っておきたい。
ソッコー配車係に行き、キャンセル待ちを調べてもらうと、運よく乗れることに。
よかった。
ホッと胸をなでおろし、待っているところに教習が終わった友達が戻ってくる。
姿を確認するなり、
「葉月!なんで今日バス乗ってなかったん?」
聞いてくる。
ヒジョーに言いたくない。
「いやね。ちょっと色々あって。」
恥かしくて、一気に顔が真っ赤になる。
このリアクションを見て、
「なん?男?」
全く別の方向にハナシが飛んだ。
「マジ?やるぅ~!っちゆーコトは、エロいコトしよったって。」
「んじゃ、まだ直後なんやん。穴から汁が出よるんやない?」
「へー。そらぁ羨ましいこって。」
情け容赦なく盛り上がられる。
「いやいや。そーじゃないでね。」
否定しようとするも、
「正直になろうや。」
「吐いて楽になろうじゃないか。」
聞く気0。
「いや…その…」
それにしても、恥ずかしい。
小さな声で、
「…間違えた。」
なんとかホントのことを言うと、
「は?何を?」
意味が分からない様子。
「いや、ね?えっと…バスにね…乗り間違えたと。」
「は?どーゆーコト?」
「いや…その…ね?…余所のスクールバスにね…間違って乗ったんよ。」
理解した途端、
「あ~っはっはっは!」
みんなから爆笑された。
「お前、まだそげなドジぶちかましよん?」
「うるせー!目が覚めたら全然知らんトコでから、でったん焦ったっちゃきの!」
ムキになるものの、
「ちゃんと確認して乗れよ。」
超基本的なことを言われてしまい、
「………。」
沈黙。
同じ乗り間違いは、卒業するまでに数回やらかした。
他にも色々やらかした。
例えばスカート。
近頃では、長いのも履くようになった。
それは、いいのだが。
穿き慣れないから、とにかくよく挟む。
雨の日、実技が終わって所定の位置に教習車を止め、降りた瞬間、脚にベットリとヘバり付き、
「うわっ!冷たっ!」
思わず声に出てしまう。
スカートを挟んだまんま、クルマに乗ってしまっていた。
外に出ていた部分がビショビショ。しかも泥まみれ。
雑巾みたいになってしまっていた。
あと、スカートといえばパンツ。
ミニスカートを穿いていて、強風にあおられ、捲れて見えることは、ココでも息をするくらいフツーに起こる。
チャックを閉め忘れて教官に見られることも、一度や二度じゃない。
ドアに挟んだことに気付かず歩きだし、コケて脱げてモロ見え、という荒技も数回やらかした。
さらに酷い時は、パンツまで脱げる。
ホント、なんでそんなコトになるのか、全く意味不明である。
フローシート作成不可能な、超常現象レベルの出来事が、ごく当たり前に起こるのだ。
なんかもう…ファンタジーとしか言い様がない。
他にも。
初めての、狭路通行実技の日。
S字&クランクでの出来事。
あまりの狭さ。
こげなん、通れるワケないやん!
イメージとしては綱渡りみたいな感じ。
―――場内での脱輪、ポールへの接触は、人身事故と思ってください。―――
学科や実技で何度も聞いた、脅しのような言葉が鮮明に甦る。
その瞬間、一気に緊張。
侵入した直後、緊張は頂点に達し、半クラッチが上手くいかず、スピードが出過ぎて脱輪しまくり。
激しく揺れる車体。
気分はまるでパリダカだ。
教官から、
「ほら。落ち着いて、半クラ。」
声を掛けられる。
が、まだそこまで用語にも馴染んでいない時期。
焦ると、無意識のうちに恥ずかしいことや、とんでもないことをやらかす。
過度な緊張のため、「半クラ」という言葉が、操作諸共頭の中から消し飛んだ。
直後。
プッ。
葉月さまは、そっとクラクションを鳴らしましたとさ。
教官、目が点。
「今、なんで鳴らした?」
の言葉でハッと我に返る。
「いや…あの…。」
途端に消し飛んでしまっていた言葉が甦り、顔が真っ赤になる。
教官は「プッ」の意味を理解し、意地悪い笑み。
「あ~。なるほど!半分のクラクションで半クラね。ウマい!山田くぅ~ん!座布団一枚持ってきて!」
続けて、
「オレ、教官生活長いけど、それ、ホントにする人初めて見た。ラジオのネタとばっかし思いよった。」
大爆笑。
この場から消えてしまいたくなった。
なんとか誤魔化そうと試みるものの、やること全てが空回る。
結局、調子悪いままで、この日の実技は終了となった。
後日、そのネタについて、さらに恥ずかしいことが起こる。
要に実技が上手くいかなかったことをぶちまけていた時のこと。
突如、会話のつながりを無視して、「半クラ」という言葉だけ送られてきた。
教官以外は誰も知らないはずの、恥ずかしワード。
なんで?なんで、要くんがそれ知っちょーん?
聞いてみると、
『葉月ちゃんの教官、オレの同級生で友達。今もちょいちょい一緒飲みに行ったりするよ。』
だと。
次の日、
「教官!なんで笹本さんに言ったんですか?」
教官に、やりっぱなし文句を言った。
またあるときは。
コース内のいちばん長い坂道を下っていて、スピードが出過ぎた。
このことにより、猛烈にテンパる。
そこで、
「エンジンブレーキ使おうか。」
教官からのアドバイス。
一速、シフトダウンする場面なのだが…緊張しまくったことにより、その操作と意味が、またもや完全に頭の中から消し飛んだ。
左手を伸ばし、シフトレバー…には手を掛けず、
ギッ!
ハンドブレーキを力いっぱい引いた。
瞬間、
キュ―――ッ!
猛烈な横G。
後輪から白煙を上げながら、半回転して停止。
うわ~!焦ったぁ~…
サイドターンをぶちかましていた。
この世のものとは思えないほど心臓が激しく脈打っている。
教官はというと、またもや目が点。
「危なぁ~…死ぬが!ここは、そげなパフォーマンスする場所やないよ?」
「ごめんなさい!ホント、すみませんでした…。」
オニのよーに謝った。
すると、
「なんで、こげラジオネタばっか繰り出すかなぁ…もしかして前村さん、RKBラジオのヘビーリスナー?」
呆れ顔。
「いえ…ラジオは聞いてませんよ?」
「ホントに?この前の半クラにしても、今日のエンブレにしても、両方「歌謡曲ヒット情報」で、あべちゃんとトシ坊が言いよったネタよ?聞きよったんやない?」
マジマジとそんなことを聞かれる始末。
クルマを降りると、
「あんた、さっき何の練習しよったん?」
「なんか、坂んとこでエレー激しいコトしよったやん。」
やっぱし複数の友達から目撃されていた。
言いたくない。
小さな声で
「エンジンブレーキ…。」
質問に答えると、
「はぁ?なんでそれでクルマ反対向くん?ウチ、一回もそげなふうになったことないよ?」
「いや…間違えてね…サイドブレーキ引いた。」
「は?」
「流石、葉月!」
大爆笑された。
仮免に合格すると、いよいよ路上教習が始まる。
流石にこの頃になると、だいぶクルマにも慣れてきて、半分クラクションや反対向いてしまうようなパフォーマンスはしなくなった。
実を言うと、路上での走行は結構得意だったりする。
路上教習を終え、コースに戻ってくると、ホッと一安心。
引き続き、車庫入れと縦列駐車の練習に移る。
最初のうちは、ポールに当てまくっていたが、それでもなんとかできるようになってきた。
何回も練習しているうち、偶然もっとうまくいく目印を見つけてしまう。
それは、生垣の飛び出た枝。
手入れして結構経っているため、アホ毛の如く飛び出ているのだ。
これが、車庫入れゾーンにも、縦列駐車ゾーンにもある。
どちらも、ポールを目印にするよりはるかにやりやすい。
なかなか上手くなってきたと思えるようになったある日。
生垣の剪定が行われ、キレイな真四角になっていた。
既にポールでのやり方は、きれいさっぱり忘れてしまっている。
おかげでこの日から、再び当てまくり。
教官からは、
「何で急にできんくなった?」
不審に思われる始末。
正直に、
「えっと…あの…目印にしちょった枝が…」
渋々理由をおしえると、
は~…。
溜息。
「ちゃんと教えた通りしようや。」
呆れられてしまう。
「はい。すいませんでした。」
謝った。
とまあ、こんな感じ。
参考までに、小さいやらかしは。
乗り込むときにAピラーで頭を打ったり、降りるとき、サイドシルに足を引っ掛け、コケたりはごく当たり前にやってのける。
シートベルトを外さずに降りようとして、首吊りになりかかったことも一度だけではない。
その度、友達に必ず見られており、戻ってくると笑われる。
自動車学校でも、「一作業一やらかし」は欠かさない、律儀な葉月さん。
既に、知らない人にまで、これらのハナシが浸透しつつある今日この頃。
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