第36話 自動車学校(違いが分かる女)
今日も、ツラいツラい半クラッチの修業。
とはいえ、エンストの回数はそれなりに減ってきた。
そんな中、
「明日、自分休みやき、別の教官につくごとなっちょーもんね。配車係行って指示受けてね。」
というコトになった。
固定の教官は、シフトの都合により休みなのである。
次の日。
配車係にて指示を受ける。
担当になったのは、鈍いくせにミッション初日からエンストしなかった友達の教官。
早速乗り込み、エンジンをかけようとすると、
「これ、ディーゼル車やき、焼いてかけてね。」
初めて聞く言葉。
「へ?『焼く』っち…何を焼くんですか?」
意味が分からない。
聞き返すと、
「あれ?ディーゼル車について、授業でまだ習ってない?」
「はい。」
「そっか。んじゃ、分からんでもしょーがないね。そしたら…まず、キーを刺して。」
「はい。」
「そして、ONまで回すとここらへんにね、クルクルっとした黄色い警告灯あるんよね。」
指さしながら説明。
「グローランプっちゆーっちゃけど、これが消えるまで待ってセルを回す。」
「はい。」
言われた通りに実行。
カチャカチャ
ONまで回すと、グローランプ点灯。
消えて、スタート。
キュキュキュカラカラカラ…
一発始動。
さらに説明。
「これを無視してセル回しても、かからんことはない。でも、かかりにくい。何回もやると、バッテリーの負担がデカいき、早目に寿命が来る。」
のだそうだ。
試しに一度エンジンを切って、無視してセルを回すと、
キュキュキュキュキュカラカラカラ…
たしかにかかりにくい。先程よりもセルモーターを長めに回さないと始動しないのだ。
エンジンの説明も終わり、
「んじゃ、行ってみよっか。」
クラッチを踏み、ギヤをローに入れ、サイドブレーキをおろし、クラッチをつないだ瞬間、
!!!
大きな力で一気に押し出される感じがした。
何これ?クラッチ、全然楽勝やん!
思わず感動。
教習中。
発進と停止を繰り返すワケだが、何度やってもエンストしない。
多少「あっ!」と思うことがあっても、エンジンは何事もなかったかの如く、回り続けてくれるのである。
結局、この日は一度もエンストせず、何もかもがうまくいった。
ここまでうまくいくと、
将来クルマ持つとき、このエンジンの載ったクルマなら、ミッションでもいーかな。
そんなことを考える余裕さえ出てくる。
運転している間に分かったコトがある。
それは、鈍いアイツのコト。
エンストなんかしないと言っていたので、不思議に思っていたのだが…。
上手いんやないで、このクルマに助けられちょったんやん。
やっと、その意味を理解した。
戻ってくると、今乗ったクルマで実技を受けている友達がいた。
早速、
「あんたの教習車、羨まし過ぎ!全然エンストせんやん!なんか、ウチの乗りよーのとは大違いやったばい。」
不満をタレると、
「マジで?そげ違うん?」
驚いた顔をする。
「違う違う。あんたもキャンセル待ちしよんやろ?そのうち別のに乗る機会あるやろーき、そん時は注意しとき。でったんエンストしやすいき。」
脅すような口調で言うと、
「それ、ヤベーね。ウチ、しきらんかもしれん。」
ちょっぴり引き攣っていた。
後日。
その友達が、キャンセル待ちしていると、ガス車に乗る機会がやってきた。
終了の時間。
待合室にいると、友達は半泣きで降りてきた。
聞くと、クラッチを全くつなぐことができず、心がボキボキに折れたのだそうだ。
次の日、自分の教習車の有難味を痛感したという。
それから数日。
キャンセル待ちして、もう一時間乗った時のこと。
当然、別の教官が担当となる。
その教官の教習車は数日前、クラッチ板を交換したばかりらしい。
「自分の、クラッチ変えたばっかで、変なクセ出ちょーもんね。だき、ちょっと乗りにくいかもやき。」
クルマに向かうとき、そのような説明をされたのだが、ガッツリ素人である。
言っている意味が、イマイチよく分からないでいた。
が、しかし…。
運転席に座り、クラッチを踏むと、
ん?
素人でも分かるほど、ハッキリとした違和感。
踏むときはそんなに変わらないが、戻す時、何かがおかしい。
この時点では、何がおかしいのか分からなかったのだけれど…。
いざ発進しようと、クラッチペダルを戻す時、半クラ手前で引っ掛かる感触。
一旦足から離れるような感じがして、直後、一気につながる。
乗りにくいとか、そんなレベルではなかった。
スムーズな発進ができなくて、完全に調子を崩す。
この日は、全くいいところが無く終わってしまい、評価も最悪だった。
卒業までに、色んな教官のクルマに乗ったのだが。
クラッチに関しては、浅い位置でつながるのや深い位置でつながるの、実にさまざまなクセがある。
その度に、調子を崩す。
見た目は同じなんに、何でこげ違うんかな?
ホント、謎である。
同じ部品で構成されているはずなのに…。
不思議でたまらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます