第34話 進路

 今まで無かったものが現れる。

 今まであったものが消える。

 混ぜると色が変わる。

 加熱すると、全く別の性質のモノに変化する。

 等々。


 なんだか不思議。


 化学っち、魔法みたいやな。


 小っちゃい頃から、テレビで放映されている子供向けの実験番組を見ながら、そんなことを思っていた。



 小学校の授業でやった理科の実験。

 テレビで見たまんまの出来事が、今まさに目の前で起こっている!

 強烈に感動したことを思い出す。


 中学に入ると、小学校よりもさらに深く掘り下げる。

 例として挙げられた身近な事柄が、化学で説明できるコトを知った。

 知ってしまうと、その先が知りたくなる。


 将来は、化学に関する仕事がしたいな。


 おぼろげだけど、そんなことを考えるようになっていた。




 そんな夢を叶えるべく、現役で希望する大学へと進学できるレベルの高校を選ぶ。

 一生懸命頑張ったので、なんとか合格を勝ち取ることができた。


 この学校は、入学直後より、進路をある程度明確にさせられる。

 選択するのは勿論理系。


 化学系の学科に進みたい!


 大まかな方向性が決まる。




 高校生活が始まって、割と早い段階での出来事。

 学校の敷地の片隅に、謎の小屋を発見した。

 金属でできた小屋。

 アンテナが立っていて、てっぺんには風向風速計。

 窓はあるけどブラインドを閉めてあるので、中が見えない。

 エアコンの室外機が常に動いている。

 ハイテクな雰囲気を醸しだしていて、妙に気になる。


 それから数日。

 謎の小屋の横にクルマ。

 戸が開けられていた。


 中が見れるかも!

 これは、是非とも見に行かなきゃでしょ!


 好奇心が爆発した。


 覗いてみると、見たこともない機械がギッシリ。

 まるで秘密基地。

 中には作業員が二人。

 声をかけてみる。


 指導的立場と思われる人が振り向いた瞬間。


 ズキューン!


 そんな音がして、胸を撃ち抜かれた…気がした。

 今まで味わったことのない感覚。

 鼓動が一気に跳ねあがる。


 でったん胸がキュンキュンする!


 一目惚れしてしまっていた。



 その人の名前は笹本要くん。

 可愛らしい顔で、華奢な身体。

 ゴムで纏めた後ろ髪が尻尾みたい。

 とても優しくて、説明上手。

 環境関係の会社に勤めていて、機器分析を担当しているという。

 この小屋には、月一で大気のサンプリングに来ているらしい。

 憧れている化学系の技術者だ。




 大気のサンプリングは月一の楽しみ。

 見学するのは勿論、ちょっとしたことは手伝うようになっていた。

 おかげで、要くんとの距離がどんどん近くなってゆく。


 知り合って約半年。

 結構仲良くなれたと実感してきた頃。

 でったんショッキングな出来事が起こる

 ハナシの流れで、ホントの年齢を知ってしまったのだ。

 考えてみれば、これまで年齢のハナシなんかしたことがなかった。

 見た目から、勝手に自分より少し年上と決めつけていたのだ。

 が、違った。

 まさか、親とそんなに変わらない年齢だったとは。

 かなり激しく打ちのめされた。

 それでもなんとか立ち直る。


 といった出来事を経験してから一カ月。

 今度は子供と一緒にいるトコロに遭遇。

 バツイチ子持ちであることを知り、再び打ちのめされた。


 泣きまくった。

 落ち込んだ。

 でも。

 好きな気持ちは変わらない。

 全てを受け入れると心に誓う。




 学校では、勉強が盛り沢山。

 通常授業の他に課外。

 定期考査に実力考査。

 ちょいちょい土曜の放課後に実施される業者による模試と、試験も多い。

 キツイとは思うけど、やりたいことがあるから努力は怠らない。


 どれも難しくて、思うような点数は取れないのだけれど、目標があるから頑張れる。

 努力の甲斐あって、模試では志望する全ての大学の判定が合格圏内になった。

 進路相談でも、「この調子で頑張るように」とのお言葉を頂くことができた。


 本番まで、このまま気を抜かずに頑張らなくては!



 学年が進むとともに、大学受験が徐々に現実味を帯びてくる。

 もっと具体的に進路を考える。


 環境関係に力を入れた化学科のある学校に行きたい!


 方向性が確実なものとなった。




 そして、三年生。

 幸いなことに、大きく成績を落すこともなく、ここまで来ることができた。

 三者面談でも「このままの成績をキープできていれば、志望している大学は全て合格できるだろう」と言われている。

 成績を維持するのはなかなか難しいけれど、頑張ってなんとか合格を勝ち取りたい。



 最初の模試の結果で、受験する大学を決定した。

 学びたい内容を最優先したら、シックリくる学校が関東にしか無い。

 関東行きが、ほぼ確実になった瞬間。


 ということは…。


 要くんと、あまり会えなくなる。

 少しショック。


 でも!


 考え方を切り替える。

 目標を「要くんの会社に就職する!」、ということにした。




 そして受験。

 まずは推薦試験。

 これで決まれば、年末年始はゆっくり過ごすことができる。

 是非とも合格したいものだ。

 願書を取寄せる。

 記入して送ると、数日後、受験票が届く。

 いよいよ実感が湧いてきた。


 要くんに報告。


「そっか。頑張らんとね!応援するき!」


 応援してもらえる!

 でったん嬉しい。

 でも…。

 合格するというコトは、離れ離れになるというコト。

 考え方を切り替えたとはいえ、やはり寂しい。




 ついに迎えた試験当日。

 遠いため、地方での受験となっている。

 九州地区は、福岡市内にある大学が試験会場だ。


 指定の場所へと向かう。

 同校からの受験者はいない。

 不安だが、自分の進路のためだ。


 頑張らなくては!


 会場に到着。

 緊張しつつ、席に着く。

 直前まで、教科書や問題集を読んで、気持ちを落ち着かせる。


 問題用紙が配られ、いよいよ試験開始。

 筆記試験は化学のみ。 

 見ると…想像していたよりも簡単だ。

 半分ほどの時間で解き終わり、見直すこと数回。

 満点に近い自信がある。


 筆記試験は無事クリア。

 あとは面接だけ。

 学校でやった面接の練習を思い出しながら、自分の番を待つ。


 ついに自分の順番が回ってきた。

 緊張がピークに達する。

 恐る恐る、しかし、練習したとおりに挨拶をして部屋へと入る。

 お約束の志望動機や、趣味について質問された。

 思っていたよりも上手く答えることができたと思う。


 合格したかも!


 そう直感した。

 あとは合格発表を待つのみ。




 二週間後。

 合格発表当日。

 もし不合格ならば、推薦試験を受けた学校も含め、一般で何校か受験しなければならない。

 受験勉強続行が決定してしまう。


 どーか、うかっていますよーに!


 昼休み、進路相談室に呼ばれる。


 結果は…無事合格!


 担任から聞かされて、


「よかったぁ~…。」


 思わず口走ってしまう。


 一気に力が抜けた。

 受験勉強が終わった瞬間だ。


 相談室を出てすぐ。


 要くんに連絡せんと!


 スマホを取り出して、すぐさま報告。

 仕事中なので、返信はない。

 三時休憩らしき時間になって、


 おめでとう!よかったね!なんかお祝いせないかんね。鍋がいい?それとも焼肉?


 お祝いの言葉を貰った。


 嬉し過ぎ!


 寒い時期なので、


 鍋がいい!


 そう、リクエスト。

 このあと数回のやり取り。

 本気で喜んでくれているのが伝わってきて、温かい気分になる。



 帰ると合格通知が届いていて、いよいよ大学生になるのだと実感。




 要くんにガッカリされないよう、頑張らないと!

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