第32話 進級

 新学期が始まった。


 三年生。


 というコトは。


 受験生!なのである。




 教室へと入る前にまず一つ、確認すべきことがある。

 それはクラス替えで、何組になっているか。

 到着するとすぐ、掲示板のところまで行く。

 既に、かなりの人だかりとなっていた。


 通っている高校は、三年生に進級すると、さらに細かく分けられる。

 その内訳は、1組が国立文系受験クラス、2組が国立理系受験クラス。

 クラスを決める時、最大限、生徒の希望は優先するのだが、一応この二つのクラスは特進っぽい扱いとなるため、あまりに成績が悪いと、聞き入れてもらえないこともある。


 それ以外は私立文系受験クラス、私立理系受験クラスとなっており、前者が4クラス、後者が3クラスと、文系の方が多い。

 この学校でも理系離れが進んでいるのだ。


 葉月が希望を出したのは、国立理系受験クラス。

 頑張った甲斐あって、無事、希望どおりになっていた。



 ちなみに晴美とは、またまた同じクラス。

 中学校よりもクラス数が多いというのに、3年間同じクラスとは。

 中学時代からだと、5年連続で同じクラスということになる。


 参考までに、幼稚園と小学校は一クラスしかなかったので、8年間一緒だった。

 中一の時、初めて別々になったものの、二、三年ではまた同じクラス。


 なかなかの腐れ縁だったりする。






 新学期が始まって二週間後の週末。

 早速、模試が行われる。


 業者のヤツで、土曜日の午後に実施される、イヤなイヤなアレだ。



 帰りのホームルームにて。

 担任から、


「今日は模擬試験があります。このクラスは国立理系なので、必ず受けなければなりません。間違って帰ってしまうことの無いように。」


 念を押される。


 予定表を貰っているから分かってはいた。

 とはいえ、改めて口にされると、テンションダダ下がり。


「あ~あ。今日、遅くなるね~。言いよる意味は分かるっちゃけど…やっぱイヤよね。帰ってゆっくりしたかった。」


「うん。はよ受験終ればいいのに。」


 後の席の晴美と不満をタレながら、憂鬱さいっぱいの中、三年生になって初めての模試に臨むのだった。




 学食で昼食をとり、休憩。

 開始時間になると共に、担任が問題用紙と回答用紙、志望大学のコード一覧を持って、教室に入ってくる。

 何度受けていても、慣れることはない。

 イヤな瞬間だ。


 解答用紙とコード一覧が配られる。

 そして説明。


「漏れや記入間違いの無いよう、充分注意してください。」


 全てを記入し、確認が終った後、問題用紙が配られ、


「では、時間になりました。始めてください。」


 試験開始。

 解き始めて思うこと。

 相変わらずというか、なんというか…業者が実施する模試の問題は全て難しく、思うように解けない。

 これは、どの教科に於いても言えており、例外はない。

 ホント、嫌になってくる。


 なんとか、5教科耐え抜いた。

 終了した頃には6時を完全に回っていて、外はだいぶ暗くなってしまっている。


 いつも感じることだが、授業が終わった後での5教科はマジでツラい。

 毎回心が折れそうになる。


 ホームルームの時よりも、さらにテンションは下がり、グッタリして帰宅。




 帰り道。

 晴美と二人、駄弁りながら歩いていると、


 パッパッ!


 信号待ちのクルマから、小さくクラクションを鳴らされる。

 反射的にそちらを見ると、銀色の古いクラウンワゴン。


 助手席側の窓が開き、後部座席を指さし、


「二人とも、乗って行かんね?」


 疲れ果てていたトコロに大好きな人登場!


「うんっ!乗る!」


 爆発的に上がるテンション。

 現金なものだ、と思わず苦笑。


「信号変わるき、あっこのバス停に入るよ?」


「わかった!」


 直後、信号が青になり、動き出す。

 少し先のバス停に入って停車。ハザードが上がる。

 二人してダッシュ。

 後部座席に乗り込むと、


「お疲れ。土曜日なんに遅いね。模試?」


「うん。キチかったー。あんまし解けんやったし。あ~あ、はよ受験終ればいーのに。」


 ついつい愚痴が飛び出してしまう。


「大変やね。」


「うん。課外やら模試やら盛りだくさん。もう今の時点で心折れそぉばい。」


「オレらん時も、そーやったなー。今年度いっぱいは頑張らなて。応援しよくね。」


「ありがと。」


 大好きな人から応援してもらえる!

 何が何でも頑張らなくては!


 ふと目線を移すと、後部座席の背もたれには、カーゴルーム側からサオ数本が立てかけてある。

 釣れたかどうか、気になるところ。


「要くんはどこ行っちょったん?」


「ん?力丸ダム。出したらいかんのにボート出しちょーヤツおって、今日も厳しかった。マス亭(マス釣り場の名前)んトコまで入って行って、でったん粘ってやっと一本。」


「ふーん。今度ウチも連れてってね?」


「そやね。息抜きもせな、タマランもんね。」


「それっちゃ。まだ買ったサオで釣れちょらんし。で、陽くんは?」


「アイツ、友達んとこ遊び行っちょー。」


「そっか。会いたかったのに。残念。」


 などと喋っている間に到着。


「ありがと!じゃーね!」


「ありがとうございます!」


 二人、降りて元気よく礼を言う。


「はーい。じゃーまたね。バイバイ。」


 手を振って、クルマが見えなくなるまで見送った。



 数週間後、模試の結果が戻ってくる。

 結果はというと。

 とりあえず、最低である「E(A~Eの5段階評価でAがいちばん高い)」は一つも無かった。

 第一志望(この時点ではまだおぼろげ)である、関東の学校は「B」と、まずまず。

 その他も「A」~「C」であり、どうにか安心できた。


 これからも、今の成績を落さないよう、気を引き締めて頑張らなきゃだ!



 というワケで。


 本格的に、受験勉強が始まる。

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