第31話 ベイトを買いに
三月末。
今は春休み。
貯めていたお小遣いが、目標額に達した。
これからベイトタックルを買いに行く。
釣りをおしえてもらって一年ちょっと。
まだまだ初心者の域は脱していないから、どんなのを買えばよいのか、イマイチよくわからない。
「ちょっといいかも」程度のタックルはあるが、もしかしたらそれ以上のモノもあるかもしれないので、ベテランの人について来てもらい、意見を参考にしながら決めることにする。
ベテランというのは勿論要くん。
嬉し恥ずかしツーショットでのお出かけ。
どう思われているか分からないけど、自分的には「今日はデート!」と勝手に決めている。
と、ゆーワケで土曜日のお昼前。
隣町の中古釣具店にて。
さてさて。どんなのに決まるかな?でったん楽しみ!
とはいえ、何でも選べるというわけではない。
身体的な理由で、選択の幅がちょっぴり狭くなってしまう。
どんな理由かというと。
成長期真っ只中とはいえ、まだまだ背が小さくて、身体のパーツ全てが小さい。
当然、掌も。
なので、小さくてしっかりと握ることができるモノが望ましい。
となると、ロープロファイルタイプか100番クラスの丸型。
自然とそういうことになってくる。
腕力は女子の平均程度なので、重いのも却下。
例えばリョウガ2020。
前に要くんから借りたことがあるけど、タックルに振り回された。
投げれなくはないかもだけど、多分数投で疲れ果てるはず。
それじゃダメだ。
以上のような理由から、候補としては、ダイワならT3シリーズ、アルファスシリーズ、リベルトピクシー(PX68含む)、安いのがあればスティーズ。
丸型だとミリオネア(CV-X、Z共に可)103、105かな。
シマノならスコーピオンシリーズ、アルデバラン、メタニウムシリーズ。
丸型はカルカッタ(コンクエスト含む)の100。
ABUならレボシリーズ。
丸型はアンバサダー1500C、2500C。
と、いうことになりそう。
ちなみに左巻きはイケる!(←ちょっと自慢)
上に挙げた機種だとT3は、初めて使ってなおかつ魚と出会わせてくれたので、ちょこっと思い入れがある。というか、単純にブレーキ性能がいいので、初心者にはいいなと思う。
幅は少し広めだが、サムバーが低いので、手が小さくても割としっかりパーミングできる。
評判が良くなくて不人気。程度の良い品が安く手に入る可能性が高いのも狙っている理由の一つ。
プラスチック製なので、極端に冷たくならないから、冬には重宝するというのも高ポイント。
サオは…分からない。
意見を聞いて素直に従うつもり。
なんにでも使えるM(ミディアム)~MH(ミディアムヘビー)程度のパワー、というのだけは決めている。
さあて!買い物開始!
早速、リールのショーケースへ。
最上段の上級グレードは、ほぼ入れ替わっていない。
高いから当たり前か。
本命が置いてある中段と下段。
今回もガラリと入れ替わっていた。
目を付けていたアルファス103 TYPE-Fは、やはり売り切れ。
残念。
やっぱT3かな。
見てみると…あるある。
ノーマルの1016H TW(ギヤ比6.3:1)と1016SH TW(ギヤ比7.1:1)の右ハンドルがそれぞれ2台ずつある。
他にはSVとMX。
こちらは左ハンドル。
どれも1万円前後で中には6千円台も。
いつ見てもあるし、種類も豊富で安い。
ひとまず安心。
他を見てみると…タトゥーラ、初代ジリオンがある。
シマノはスコーピオンとメタニウムが多い。比較的きれいなモノもある。
ABUはレボエリートのノーマルが結構ある。
どれも魅力的。
目移りするなぁ…決めるの大変。
意見を聞きながら徐々に絞ってゆく。
と、T3を並べてある場所の一番隅っこ。
1016H TWの箱のみがある。
ん?何これ?なんで箱だけ?
値段を見てみると、他のよりもだいぶ高い。
他のは現物が箱の上に展示してあったり、直に置いてあったりで、全て1万円前後なのだが、これだけは1万9千円もする。
「ねぇねぇ要くん?あれだけ、なんであげ高いっちゃか?」
指さすと、
「あ~…多分型落ちの新品やないやか?っち、ほらあっこ。見えにくいけど書いちゃーやん。」
座り込んでよーく見てみると、「新品!処分特価50%OFF」の札がある。
未開封の品だ。
もしかして、お買い得なのでは?
そんな考えが湧いてきて、
「んじゃウチ、これにする!」
リールが決まった。
次はサオ。
前に貸してもらったサイラスが、長さも重さも強さもちょうどいい感じだったのだが…無い。
前、晴美たちと来た時はあったのに…それじゃ、別のサオは?
気になるヤツを片っ端から手に取り、振ってみるものの…リールよりもはるかに特徴が無い。というか、昨日今日始めたような素人に、サオの弾力の僅かな違いなんか分かるわけない。
聞こうとして振り向くと、いない。
あれ?要くん、どこ行った?
見回してみると、ルアーのコーナーで何やら探し物。
終わったら聞いてみよ。
自分で探してみることにする。
再度、サオのコーナーへと視線を戻すと、ひときわ目立つ赤のブランクスが目に飛び込んできた。
これっち…。
手に取って見てみる。
グリップはベイトなのだが、このデザインにはものすごく見覚えがある。
名前を見てみると、
やっぱし!
ギャレットディツアーエディションGDEC-622M。
今、使っているスピニングロッドのベイト版。
いつの間にか要は戻ってきていて、横でサオを手に取り見ていたので、
「ねぇ要くん?これはどげ?」
手にしたものをわたし、聞いてみることに。
「お!今使いよーのとおんなしもんのベイトロッドやん。たしかこれ、カツが使いよったばってんが、使いやすいっち言いよったばい。塗りもキレイやし修復歴も無いき良いっちゃない?」
2ピースなので持ち運びも便利。
サオ袋もちゃんと付いている。
ワームもプラグもできる万能ザオ、との説明をしてもらった。
「んじゃ、これにする!」
思っていたよりも早く決まった。
あとは小物関係だが、リールが高かったため、あまりそちらには回せなくなった。
予定していたプラグの個数を減らし、ワームの割合を増やす。
4インチヤマセンコーは外せない。
5・3/4インチカットテール、スーパーグラブ、4インチシュリンプを買うことにした。
オフセットフックにバレットシンカー、糸なども買う。
お金を払って店の外へ。
クルマに乗り込むと、
「葉月ちゃん。これも使って?」
なにやら色々入った袋を頂いた。
「マイタックル購入記念にどーぞ。」
中を見てみる。
プラグとワームの詰め合わせ。
要くんからのプレゼント!
何か見よるっち思いよったけど、これ買いよったんやん!
おかげで、戦力が倍以上に増えた。
「え?ほんとにいーと?」
「勿論。いっぱい釣れたらいーね。」
「うん!ありがと!でも、こんなコトしてもらって…ごめんね。」
「こっちこそ。中古でゴメンね。」
「ううん。大事に使う!」
申し訳ない気持ちと共に、嬉しさが爆発した。
「昼もだいぶん過ぎたね。腹減ったやろ?何か食おうや。」
「うん!」
「何が食いたい?」
「ん~…ファミレスでハンバーグ!ジョイフルいこ?」
「いーね。ここからなら…あっこが近いね。」
帰り道とは逆方向。
一緒にいられる時間が長くなるので嬉しい。
店に入ると既に昼のピークは過ぎていて、ゴミゴミした感じはない。
窓際の席に向かい合って座る。
マジ、デート!
要くんはそんな風に思ってないだろうが、今日はそうだと最初から勝手に決めている。
ついついニヤケてしまう。
ハンバーグのセットとドリンクバーを注文し、お喋りタイムに突入!
学校であった面白い出来事や、進路のこと、大学時代の要のハナシ。
テンションMAXで喋りまくる。
大好きな人と過ごす、楽しい時間。
彼女とは思われていないが、今はこれでいい。
食事を済ませ、しばらく盛上った後、店を出た。
クルマの助手席にて。
今日は、でったん楽しかったな!
しみじみ思う。
そして、
また、二人でどこか行きたいな。
そんなことを考えているうちに、ボチボチ家。
その前に、一旦要の家に寄って、リールを使える状態にしてもらう。
レベルワインドの後ろにあるバーに、摩耗防止の金属プレートを貼って糸を巻く。
これで、いつでも使えるようになった。
はよ釣りに行きたい!ん~でもって、はよ魂込めれたらいーな!
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