第26話 クルマいじり。

 この度、愛車となったクラウンステーションワゴン。

 見た目から、「現金輸送車」とか「霊柩車」とか、とてもよく言われる。

 まぁ、実際そのような用途で使用されているから、しょうがないのだが。

 他人の意見は別にどうでもいいが、只今バリバリのフルノーマル。

 ハッキシ言って地味なのだ。

 銀というボディカラーがまた…地味さに拍車をかける。

 それなりに上品な見た目だから、このままでも決して悪くはないのだが。


 ちょっとオシャレさせてあげたいな。


 そう考えた瞬間、


 よし!ドレスアップしてみよ!


 いじりたい気持ちが爆発的に膨らんでゆく。




 早速本屋へ。

 クルマ雑誌のコーナーへ直行。

 しばらく見ない間に種類がものすごく増えている。

 ドレスアップ関係だけでも決めるのが困難なほど多い。


 こげ多かったら、どれ買えばいいか分らんやん。

 なら…前、読みよったヤツ探そ。っち、まだあるんかな?


 当時、ドレスアップの参考にする為、欠かさず読んでいた「カスタムカー」

 再度、端の方から探していく。

 すると、


 あった!


 水着のオネイサンが、ド派手なクルマと一緒に写っている表紙。字体とか全く変わってなくて、懐かしい気分になる。

 手に取って斜め読み。

 流行こそ変わっているものの、芸風は変わってない。


 これにしよ。




 帰ってジックリと読んでみる。

 改めて、ぶっ飛んだ改造に感心。

 ベースとなっているクルマの面影すらないヤツ、殆ど接地したヤツ、激しいオーディオ、族車チックなヤツ、走り屋チックなヤツ等々。


 目立つが勝ち。


 快適さなんかこれっぽっちもなさそうな潔さが、なんとゆーか…ミョーに心地良い。

 心の病んだ部分に直接響いてくるようだ。

 一台一台に書かれたコメントも、当時と全く同じノリ。クルマいじりにハマっていた日々を思い出し、懐かしい気分になってくる。


 そーいえば。


 読んでいるうちに思い出す。


 最後に買ったときは、ハイエースⅠ型一色やったなあ。


 今回欲しくて断念したクルマ。

 100系から200系へとフルモデルチェンジした直後だった。

 にもかかわらず、いきなしの大ブレイク。

 その本、丸ごとハイエースと言ってもいいくらい。

 たかが商用車なのに、猛烈な流行り具合。

 衝撃的だった。


 今でもそげな感じなんかな?


 更に読み進めるが。

 今回買ったのは、全然そんなことない。

 ハイエースも取り上げられ、盛り上がってはいるものの、他の分野も結構万遍なく賑わっている。



 パーツの通販ページを見ていると、いきなりクラウンステーションワゴン用エアロのフルキット発見。

 ソッコー電話して問い合わせてみると、今乗っている型のもあるという(130系クラウンのワゴンとセダンは超長寿モデル。形式が同じでも初期と中期以降だと顔がまるで違う)。

 価格は5万円(送料は別)。

 この値段で塗装までしてくれるという。

 ハッキシ言って安い!

 躊躇なく飛び付いた。


 後日、届いたので知り合いのクルマ屋さんに持ち込み、取り付けてもらう。

 派手なデザインのエアロなので、ちょっとした暴走族のクルマみたいになった。

 でも。

 かなり気に入った。

 ガラが悪くなりついでに、ダウンサスキットも購入し、車高もベッタベタに落した。



 次はアルミ。

 全国チェーンの中古パーツ店に行くと、着けてくれ!と言わんばかりに17インチの極太スピードスターマークⅠが展示してある。キレイな品だったので店員に試着をお願いすると、快く引き受けてくれた。

 ボディのどこにも干渉しないため、買うことにした。

 エッセとお揃いだ。


 この時点で、外装はほぼ完成。



 他に何か無ないかと店内を彷徨ってみると、ステアリングが目に留まる。

 20数年前は定番のオシャレアイテム。

 その頃のクルマは、エアバッグなんか着いちゃいないから、簡単に交換できるし、交換するのが当たり前だった。このクラウンも当時のクルマなので、勿論着いてない。


 それならば、交換するしかないでしょ!



 ステアリングには大まかに、ウッドとレザーの二種類がある。


 高級車にはウッドかな?


 その線で探すことにした。


 フックに掛けられた中古ステアリング。

 一つ一つ見ていくうち、イメージ通りの品に辿り着く。


 MOMO・インディ。


 手に取ってみる。

 ニスも剥げてなく、割れもない。ホーンボタンも付いている。

 キレイな品で値段は5千円。

 ボスは1980円で新品があったため、これに決める。


 帰って早速取り付ける。

 そのために、純正ステアリングを外すのだが…。

 センターのナットはすぐに緩んだが、ステアリング自体、20数年間一度も外してないから固渋していて外れない。

 ステアリングホイールを叩きまくって頑張ること10分。

 なんとか外れた。

 そこからは早い。

 ボスを組んで、接点にグリスを塗り「TOP」の印を合わせ、センターのナットを締める。

 六角レンチでビスを6本閉め、ステアリングを固定。

 ホーンボタンを取り付け、鳴らしてみる。

 鳴った。

 ウィンカーは?

 左右共にキックされ、戻る。

 完成だ!

 青一色の内装に、木目の茶色がなかなかいいアクセントになった。



 あとは…ホーン。

 純正のでも悪くはないが、やっぱし換えてみたい。

 全国チェーンの店舗へ向かうことにする。

 ホーンのコーナーにて。


 マルコホーン。


 ハイウェイホーンクロームと呼ばれるヤツで、ビンビン!といった感じの大音量。

 CDほどの直径で、メッキされた本体。

 昔のヤン車定番アイテム。

 これに決定。

 取り付け用のステーも買った。


 帰って取り付け。

 配線は2本。リレー無しで接続できるから簡単だ。

 クラウンなどのグリルがデカいクルマには、あえてホーン本体が見えるよう、グリルの裏側に取り付けるのがお約束。

 当然そこにセットする。



 あとは…。

 荷物を車内に放置しているトコロはあまり見られたくない。


 ガラスにスモーク!


 近所のホームセンター兼スーパーで、透過率5%のスーパーブラックを買うことにした。

 手に取り見ていると、


「要くん!」


 特徴のある元気な声。

 葉月さんの登場だ。

 近頃、買い物についてきた時は、必ずカー用品のコーナーに立ち寄ることにしている。


「お~!葉月ちゃん。」


「今日は何買いよん?」


「ん?スモーク。今度買ったクルマに貼る。」


「ウチも手伝いたい!いー?」


「お願いできる?」


「いーよ。いつするん?」


「ん?これから帰って。」


「じゃ、お昼ご飯食べたら家行くね!」


「わかった。」


 スモーク貼りの助手確保。

 昼飯を済ませ、ガラスをきれいに磨いていると、


「要くん!」


 葉月が到着する。


「おっきいクルマやね。」


「まーね。これで釣りにも行きやすくなる。」


「乗ってみていい?」


「いーよ。」


 早速乗り込む。


「なんか、でったん豪華やね。」


「うん。イチオーこれ、クラウンやし。」


「え?これ、クラウンなん?」


「そーばい。」


 クラウンは、グリルにこれ見よがしの王冠エンブレムがついているため、クルマにあまり興味のない女の子でも結構知っている。でも、このクルマは葉月よりもだいぶ年上で、そこらへんで大量に見かけるクラウンとはずいぶん雰囲気が違うし、そもそもワゴン車だ。分らなくても当然だったりする。

 前に回り、


「あ。ホント。」


 納得する。




 ガラスも磨き終わり、作業開始。


 今日は風が強いので、スモークを貼る作業にはあまり向かないけど、手伝ってくれる人もいるし、なんとかなるでしょ。


 まずは型紙の作成から。

 新聞紙でガラスの形をできるだけ正確に再現する。

 作るのは、後のドアとカーゴルームとハッチバック。

 片側を葉月に持ってもらい、鉛筆で模ってゆく。

 模り終ると切り抜く。



 次は、この型紙をスモークに貼り付け、切り抜く。

 外で焼肉なんかをする為のテーブルの上に、リフォームした時に出た、いらなくなったガラスを敷く。洗剤を薄めた水を霧吹きで噴霧。表裏を間違えないよう、スモークをその上に貼り付ける。

 貼り付けたスモークに型紙を貼る。

 よく切れるカッターで切り抜いてゆく。

 これを、貼るガラスの枚数分繰り返す。



 そして、ガラスに貼り付ける作業。

 切り抜いたスモークの裏側の角にセロテープを貼り、剥離フィルムをちょっとだけ剥がす。

 そこに薄めた洗剤を噴霧する。

 剥離フィルム側を葉月に持ってもらい、スモーク側を要が持って、境界に洗剤を噴霧。

 噴霧を繰り返しながら、シワにならないよう、徐々に剥がしてゆく。


 剥がれたら、ガラスに洗剤を噴霧。

 スモークをガラスに合わせる。

 位置を決めると、室内側からスモークに噴霧。

 附属のヘラで水を追いだしてゆく。

 追いだし終わると作業終了だ。



 何枚目かのフィルムに取りかかった時、葉月がやらかす。

 突風でスカートがめくれ上がり、くまモンのパンツがモロ見えになる。

 本日のノルマ達成。


「うわ!」


 叫んで、剥がしている最中のフィルムを手放してしまい…。


「あ!ちょっ!」


 見事、クシャクシャになってしまうのだった。


「あ!ごめんなさい!」


 猛烈に謝る。


「いや…いーけど。」


 もう笑うしかない。


「ホントにごめんなさい!これ、治る?」


「ううん。洗剤してない面が一回引っ付いたら取れん。もし取れてもシワが残る。だき、もぉこれは使えんね。」


「………ホントごめん。」


 落ち込んでしまう。


「大丈夫。まだ予備はある。それでも足りんくなったら、また買いに行けばいーし。」


 優しさが痛い。


 この後どうなったかとゆーと…。

 突風の度、くまモン。

 その度に手を離し、ほぼ一本分のフィルムをダメにした。

 クルマの脇には丸まったスモークの山。


 どうにか作業完了。


「終わった~。ん~。なかなかの出来!」


 伸びをする。


「…ごめんなさい。ウチのせいでいっぱいダメにした。」


 ダメになったスモークの山を見て落ち込む。


「いーくさ。ちゃんと全部貼れたし。風が強かったき、しょーがないよ。」


「………。」


 なんともビミョーな顔。


「そげ落ち込まんと。できあがったき、お茶で乾杯しよ?ちょっと走ってみよーや?まだコレ乗ったことないやろ?」


「うん。」


 乗り込んで、あえてちょっと遠いコンビニまでドライブ。

 しばらく走っている間になんとか立ち直る。

 そして、真上のカーテンに気付き、


「これ、開けてみてもいい?」


「うん。いーよ。」


 開けてみる。


「わー。屋根開くん?」


「ううん。開かんけど持ち上がる。」


 サンルーフを開けると僅かに風の音。


「なんか新鮮。クルマの中、明るいね。ウチ、この感じ好きかも。」


 気に入ってくれたようだ。


 そんな話をしている間に、目的地であるコンビニに到着。

 駐車場でお茶して帰ることにした。




 今、思いつくところは大体弄った。

 ひとまず完成。


 いい年こいて大人気無いな。


 とも思ったりはするが、大満足な仕上がりだ。

 あとは、気付く度にいじればいいかな。




 久々にやった、結構本格的なクルマいじり。

 純粋に楽しいから、精神的にも大変よろしい。

 離婚で負った心の傷も、一段と回復したようだ。

 そしてこの回復には、葉月とのやり取りも大きく貢献していたりする。


 まだまだ完全な状態に戻れたとは言えない。


 はやく周りの人たちに、心配を掛けなくなる日が来るといいな。


 心の底からそう思った。



 というわけで。

 今回のクルマ購入。

 踏み切ってみてホントよかった。

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