第21話 チョコ
バレンタインデー。
何かしら相手がいる人にとってはでったん楽しい日。
ワクワクドキドキする日。
いない人にとっては苦痛でしかない日。
精神的に追い詰められ、心が病む日。
お菓子屋の陰謀には負けない!今日だけは甘いものなんか嫌い!別にそんなイベント興味無いし。と、負け惜しみを言う日。
そして。
会社の休憩室で「お疲れ様!みなさんでどうぞ♥」と書かれたメッセージと共に、テーブルの上に置いてある大きめの箱に入ったチョコでトドメが刺さり、涙を流しながら食う日。
これほどまでに負け組と勝ち組がハッキリするイベントも珍しいのでは?
しかもその一カ月後、お返しのためにお金をむしり取られるという…。
なんとゆー理不尽!
勿論、筆者は…(涙)
そんなイベント、滅びればい(以下略)。
しまった!本音が!!
といった個人の感情はさておき。
そんな彼らにも、この日がやってくるのでありました。
葉月は手作りにするか、買ったヤツにするか考える。
手先は器用な方なので、手作りしたいなとは思っていたし、実際父親にはそうしたこともある。
今回は本命も本命、大本命の人がいるから是非とも手作りしたいのだが、作る段階の気合の入れようでバレてしまう。
とは言っても、バレることに関しては何ら問題無い。異性とのコトに関しては割と理解がある両親なのだ。
が、しかし、好きになってしまった人の条件があまりにもフル装備。というか過剰装備で、反対されること必至。
だから、どうしてもバレるわけにはいかない。
用心のため、買ったのをわたすことにしたのだった。
週末。
晴美と他数名で、隣町のショッピングモールへと繰り出す。
服や雑貨などを見てまわり、フードコートで食事を済ませたあと、チョコ選び。
わたそうとしている人はお父さんと要。
どちらも成人なので、洋酒の入ったヤツを選んだ。
帰宅して。
買ったチョコを見ながら考える。
う~ん…イマイチ物足らん。味気ないよねぇ~。
他に何か無いかな?
スーパーのカー用品売り場でよく会うき、カー用品?
その方向で、どんなのがいいか考えてみるけど、自分がまだクルマに乗れる年じゃないので興味が足りない。どんなグッズがあるのか考えつけない。カー用品の専門店があることすら知らない。
何一つ想像もつかないから選びようがないので諦めた。
となると、あとは…。
釣りに関するモノ?
この前、寒いのに無理言って連れてってもらったコトを思い出す。
そうだ!釣具!
ルアーならいいのでは?
これなら使えるし、喜んでもらえるはず!
早速次の日、隣町の釣具屋へ行ってみることにした。
釣具屋に到着。
中に入ると。
バレンタインフェアなるものが催されている。
レジにて申告すると、追加料金を支払うことでチョコが購入でき、それ用の包装をしてもらえる。
これだ!
というわけで、意気込んでバス用ルアーのコーナーへと向かう。
売り場を前にした葉月。
…うわ~…これ…どーやって選ぶよ?
おびただしい数のルアー達。
目が点になる。
何をどうやって選べばいいのか全く分からない。
早くも躓いた。
どーしたもんかな…何を基準に選ぶ?
一通り見てまわる。
値段にはかなりの差があることが分った。
プレゼントやき、あまりに安いモノは消去。
あとは…直感?
これまでは点で見てきた。
今度は広い視野で。
意識せず、なるべく広く視界に入れてみる。
真ん中の少し下辺り。
ひときわ目立つピンク色。
妙に気になったので、近寄って手に取ってみる。
ピンク色ベースに白のハートマーク多数。オメメの大きいコロンとした形のクランクベイト。
これ可愛いかも!
パッケージとルアーの背中に書いてある「YABAI BRAND」の文字。
見たことのあるブランド名。
名前はヤバイクランク・ダンプ。
ん?ヤバイブランド?これ…どっかで見たことあるよね?
…そーいえば!
要くんのクルマの後ろのガラスに貼ってあるドクロのステッカー!
あれと同じっちゆーことは、使うはず。
なかなかの名推理である。
よし!これにしよ!
ついに決まった!
さっそくレジへと持っていく。
「あの!チョコも!」
店員に告げると
「この中から選んでください。」
流石に大したものは無い。
フツーにスーパーで売っているヤツだ。
でも贅沢は言わない。
ルアーとそれ用の包装が目当てなのだから。
自分的には可愛らしいブツをゲットできた。
ホクホクしながら帰る。
ちょっと心配なのは、被っているかどうか。
「それ持っちょーよ。」とか言われたら、ちょっとショックかな。ま、被っちょっても喜んでくれるだろうけど。
当日。
休み時間メッセージを送ったら、帰って合うことになった。
要の帰宅後家に行くことに。
時間は夜の7時。
来たよ!
とメッセージ。
出迎えると、可愛らしいピンク色のリボンをした葉月が立っていた。お腹に何か隠し持っている。
まぁ、今日は2月14日。
何のことだか分かっているのだけれど、あえてそこにはツッコまない。
「ここじゃ家の人に聞こえて恥ずかしいき、ちょっと出ろ?」
「うん。分かった。」
葉月の言うままにクルマを出す。
裏手を走るバイパスの脇に、クルマを止められるスペースがある。
この町のショボイ夜景を見ることができるスポットだ。
そこに行くことにした。
クルマを止めるとすぐに、
「はい!チョコ。」
ガバッ!とばかりに両手で差しだしてくる。
照れ隠しなのだろう。
その仕草が大げさで、小さな子供っぽくて可愛らしい。
「ありがと。で、そのリボンは?可愛いね。」
普段リボンなんかしてないからイヤでも気付くし、ツッコまなくてはいけない気がした。
よかった!気づいてもらえた!
勇気を振り絞り、震えながら
「もう一つのプレゼントはね。わ・た・し!」
「ぷっ!お約束やな!でも、そのプレゼントが一番いーね。で、それも貰っていーと?」
「…うん。食べて…いーよ?」
自分から言ったくせに、超絶真っ赤になっているのがおかしいやら可愛いやら。
これは晴美からのミッション。
要の家に行く前「頑張ってこい!健闘を祈る!」と言われ、このリボンを結ばれ送り出された。
このミッションは点数制となっており、帰ったら結果を報告。
クリアした条件により点数をつけられることになっている。
条件の詳細は以下の通り。
キス:1点×n(n=実行した回数)
揉まれる:2点×m(m=挿入の回数。一挿入につき一揉みとする。万が一揉まずに挿入、発射された場合カウントしない。揉まれたが、えっちに至らなかった場合はカウントする。その場合m=1)
指入れられる:5点×m(m=同上。一挿入につき一ズボとする。万が一指ズボしなくて挿入、発射された場合カウントしない。ズボられたが、えっちに至らなかった場合はカウントする。その場合m=1)
ゴムしてえっち:10点×p(p=挿入し、発射した回数。ほぼp=mであるが、m=1の条件は含まないため、あえてmとはしなかった。汁を出してもらう個所は不問。ゴムをしたまま中、出る瞬間ゴムを外して顔面、口の中、胸、腹上など。なお、挿入中萎えたりして汁が出なかった場合は-2点とする。)
ナマでえっち:20点×p(p=同上。外だし。中以外。中に出す時のみゴム装着。出してもらう個所は同上。萎えた場合も同じ)
ナマで中だし:100点×p(p=同上。汁が出た時のみ有効。汁を出す個所はマ●コの中に限る。)
流石に最後の条件はハードル高過ぎなので、点数がアホのように高い。
晴美もここまで期待はしていない。ちなみに晴美は中だしされたことが数回ある。
「ゴムしてえっち」で10点以上がコンプリート(前戯無しで、いきなし入れられた場合は可。キス×10、「キス」「揉まれる」「指入れられる」の組合せで10点超える場合、いくら点数が高くても不可。とにかくチ●ポがマン●に入ることが必須条件)ということになっている。
もし、そうなれば、晴美からの豪華賞品(内容は秘密)が贈呈されることになっているのだ。
晴美からのミッションなので、彼女からゴムが3個支給されていて、只今財布の中に格納中。使用した個数は後程確認してもらわなければならない。足りなかった場合、別途ボーナスポイントが付くシステムだ(装着しようとして破れ、使用不能になり消費した分はカウントされない。挿入時、中で破れるのは可。カウントの対象となる)。
中だしの場合、証拠は無いけどウソついても見破る自信があるので問題無い。
とりあえずここまでは順調だ。
要はというと
「じゃ、包装剥がして頂こっかね。」
提案にのってやるフリ。
上着に手を掛けると、
ピクン!
ひときわ大きく身体が震え、固まった。
潤んだ目をして見つめてくる。
とんでもなく可愛いのだが、とても手なんか出す気にはなれない。
「ウソよ。」
ニヤッと笑うと、力が抜ける。
「え~。残念。えっちしてくれると思ったんに。」
赤面したまま冗談とも本気とも取れる口調。
「ははは。」
笑って誤魔化した。
知り合ってそろそろ一年。
彼女の気持ちはわかっているものの、いらんオプションのせいで、行動に移せない。
臆病なまま、変わることができないでいる。
卑怯だなとは思いつつも、話を切り替える。
「開けてみてもいい?」
「うん。」
片一方は思いっきりチョコだと分かるのだが、もう一つの包みは?
ゴトゴトカラカラ音がする。
ん?この音…
こちらを先に開けることにした。
封をしてあるシールを丁寧に剥がす。
包装紙を外すと…
「お!ダンプやん!これ、よー見っけったね?」
嬉しそうな顔。
「持っちょーのと被ってなかった?」
心配そうに聞くと、
「うん。持っちょらん。これ、欲しかったっちゃ。でも、デビューした時、忙しいで釣具屋行けんで。行けたときにはもう売り切れで。ゲーリーのプラグっち一回売切れたらなかなか入荷せんのよ。」
「そーなん?なら、よかった。」
ホッとした顔。
「ありがとね。」
「どーいたしまして!」
「晩御飯は終わった?」
「ううん。」
「んじゃ、ボチボチ帰らんとね。親、心配しよるよ?」
「うん。」
クルマを出す。
家の前まで送ると、
「そしたら。また近いうち釣り行こうね!」
「うん。分かった。今日はありがとね!」
「はーい。」
「んじゃね!」
いつもの笑顔で手を振って、中へと入っていった。
温かな気持ちになれたと共に、未だ変われないでいる自分を責めた。
その後、葉月はというと…。
帰宅後、夕飯が終わったタイミングで晴美から部屋に呼ばれ、結果報告。
「どげやった?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
見破られていることは一目瞭然だ。
それでも貰ったゴムを3個出しながら、
「………ナマで中だ…」
「ウソゆーな!」
最後まで喋らせてもらえず、ソッコー否定される。
「イヤ。ホントに。今もまダ、穴かラ精子出てきヨーもん。」
毎度の如く声が裏返り、目が泳ぎ、挙動不審になっていた。
「ウソゆーな!」
「イヤ、マジマ…」
「はいはい。で、どこまで?」
「ナマで中…」
「いーき!」
「ホントにナマで…」
「してもらえんやったっちゃろ?」
「………。」
「はい0点!思った通り。ダメやん。もうあの人のコト諦めたら?」
あえて絶対にできそうにないことを言ってあおる。
「イヤ!」
ムキになり、ここだけは強く否定した。
でも。
「ウチ、魅力無いんやろか?チビやし小学生みたいやし。」
「そーやない?女としての魅力無いき、手ぇ出されんっちゃろ。」
晴美は、落ち込んだりムキになっている葉月をいじるのが結構好き。
呆気なく肯定すると。
は~…。
大きな大きなため息。
徐々に暗いオーラが滲み出してくる。
それを敏感に察知し、
「ま、バツイチやし子持ちやしね。歳も離れちょーっちゆーコトで、なかなか行動に移しにくいんかもね。」
すぐにフォローを入れてやる。そうしないと泣いてしまうからだ。
「…うん。」
寂しそうに返事。
「まだまだ先は長そうやね。あんた待てる?」
「待つ!」
こういったトコロだけは言い切れる。
健気なのである。
感心する晴美なのであった。
まだまだ愛されるには程遠く、そんな気配すらない。
というか、愛される日は来ないのかもしれない。
そんなことを考えてしまい、少し落ち込んだりもした。
それでも。
今回のバレンタインでは生まれて初めて大本命の人にプレゼントできた。
しかも、ものすごく喜んでくれた。
その事実だけで今は大満足だ!
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