第19話 釣り(準備編)
年明け。
正月休みも終わり、業務も始まった最初の週末。
いつものスーパー兼ホームセンターにて買い物中。
カー用品のコーナーにて。
「要くん!久しぶり!」
お馴染みのハスキーボイス。
葉月だ。
洗車以来だから、半月ぶりぐらいか。
ホント、毎回似たようなシチュエーションで出くわす。
「お!葉月ちゃん。おめでとうございます。今年もよろしくね。」
「こちらこそ!」
相変わらず元気。
「陽くんは?」
いきなり懐いてくれた陽が可愛いくてお気に入りなのだ。
「さぁ?お菓子かオモチャやろ。」
「そっか…残念。今日は?またクルマのなんか買いよん?」
「ううん。陽待っちょーだけ。戻ってきたら晩飯の食材買って帰る。」
「そーなんて。あ!そうそう!あんね要くん。」
「ん?」
「今度、バス釣り連れてって?」
「いきなし、どげしたん?」
「この前、夕方釣り番組ありよって。見よったら要くんしよるの思い出して。おしえてほしいなっち。」
「あ~。あれ見たん?いいけど、この時期テレビみたいには釣れんよ?サブいし。」
「大丈夫!いっぱい着込んでくるき!」
「わかった。んじゃ今度の週末、土日どっちかで行ってみよっかね。必ず、ズボン穿いてこなばい!」
「必ず」に力を込めて、念を押したところで
「葉月~。行くばーい。」
母親に呼ばれる。
「は~い。分かった。じゃーね。」
手を振り去ってゆく。
というわけで、釣行が決定した。
当日。
天気は曇り。
断続的に吹く強い北風。気温が低いため、体感温度はさらに低い。底冷えがして、身を切るような冷たさだ。
時折雪も舞っている。
初めて釣りをする人には、絶望的に厳しいコンディション。
朝、目が覚めてそのことを伝えたのだが、そんなことは全く気にしちゃいなかった。
超やる気満々で、午前中から行く勢い。
気持ちは分からなくもない。しかし、※水温の関係もあり、午後から行くことで納得してもらった。釣れない条件の中頑張って、心が折れて釣りが嫌になることだけはどうしても避けたかったのだ。
行くからには釣ってもらいたい、というのがガイドする側の本音。
少しでも可能性が高い条件で体験させてあげたい。
※)自然界における水温というのは、太陽の高度と完全にはシンクロしていない。その日の天候などの条件にもよるが、2~4時間遅れで最高値に達する。これは、水は温まりにくく冷めにくい、という性質に由来するもの。よって、夕方前くらいに上がりきる。それに応じて魚の活性も上がってくる。
昼食をとった後、ゆっくりしていると「来たよ!」と連絡が入る。
玄関に出てみると、真ん丸に着込んだ葉月が立っていた。
「よし。それだけ着込んだら多分さぶくない。とりあえず上がり?」
「は~い。お邪魔します。」
部屋に入ると用意を始める。
好きな人と部屋で二人きり。ちょっと(でったん?)嬉しい葉月であった。「このままえっちもありかも!」とか勝手に思っていたりする。しかし、そういった展開はあるわけもなく。
「今日葉月ちゃんが使うのはこれ。」
準備が始まるのだった。
いっぱいあるサオの中から取り出したのはスピニングロッド。
ABUホーネット・デビルスナイパーHDS-671MLPE。
5/16オンスまで背負えて、結構バットのパワーがある硬いサオだ。
語尾のPEはPEライン仕様であるということ。
PEとはプラスチックの一種であるポリエチレンの頭文字。ポリエチレンの極細繊維を複数本合わせて作ってあり、伸びが少なく引張り強度が高い。一方で、傷には弱く、擦れたりすると極端に弱くなる。見た目は裁縫に使う糸みたいだ。コシがなくて軽いから、ナイロンやフロロよりも風に流されやすく、弛みやすい。だから、ガイド間の糸が弛み、サオを動かした瞬間、ガイドに絡むことがある。
このような現象を軽減するため、先端から2、3番目のガイドにLDBガイド(傾斜していて絡みにくい)を使用してある。
入門者が次の一歩を踏み出したときに使用する…みたいな説明がカタログではしてあったと思うが、これがなかなかの高性能で、ベテランがメインとして使っても充分満足できるレベル。
リールはダイワカルディアKIX2506。
中間よりちょっと下くらいの価格帯の機種で、プロがメインとして使えるほどの性能。
ドラグ、回転性能共にかなりのレベルである。
リアルフォーと呼ばれるシステムで、様々なオプションの設定あり。
糸はナイロン6ポンド。
使用ルアーはイモグラブ。
4インチグラブのテールが切れたモノの再利用で、ハリの直前に小さなスプリットショットを付けてある。
大きさの割に重いので、投げる楽しみを知ってもらいたいと思い、このルアーにした。
決して初心者だからどーでもいーといった選択ではない。むしろ、本気で一本狙う時の選択だ。フォール時、不規則に起こるスライドアクションが、スレたバスにとんでもなく効くコトがある。
「前ん時使いよったのとは違うね?」
早速気付く。結構鋭い。
「うん。あれは初心者じゃちょっと難しい。糸がもつれるき、これから先興味があって続けることが分ったら、そん時改めておしえる。」
「わかった。」
「持ち方はこうね。」
持って見せる。
そして、左巻きのままわたす。
「ここを中指と薬指の間に挟めばいーんね?」
「うん。そげな感じ。んじゃちょっとこのまんまハンドル回してみて?」
「はーい。」
回してみて、
「なんか、カクンカクンする。」
スピニングは巻く力が弱いため、利き手でサオを持つのが一般的だが、初心者はそれがなかなか馴染めない場合がある。
葉月は右利き。初めてリールのハンドルを回してみたのだが、やりにくかったらしい。
カルディアKIXは、ハンドルの付け替えが工具無しでできる。
すぐさま左右を入れ替える。
右巻きになったリールをわたし、ハンドルを回させてみる。
「うん。こっちのがいい。」
右巻きに決定だ。
「あとこれ。偏光グラス。」
葉月のことだ。
きっとやらかす。
自分の服に引っ掛けてしまうくらいなら笑い話で済むけど、根掛かり外してぶっ飛んできたプラグやリグが目にでも当たったら大変だ。保護メガネ的に使うことにした。
「水面のギラギラがカットされて水中が見える。」
本来の性能を説明。
「へへへ。似合う?」
子供が悪戯でお父さんのサングラスをかけたのと同じノリ。
変ではないが、背伸びした感がハンパなく、なんか微笑ましい。
「うん!いーね!」
大袈裟にサムズアップすると、
「あー!今、絶対似合ってないっち思ったやろ?」
ソッコー見抜かれる。
「バレた?でも、しちょって?目にルアー当たったら大変やき。」
「ウチ、そげんドジ?」
「うん。まさか気付いてないと?」
意地悪く笑うと、
「…バカ。」
ふて腐れるフリをする。
「実際、オレらでも危ないときあるよ?それに、女の子やき、できるだけ…ね?」
「わかった。」
大事に思ってもらえていることが分ったので、ちょっと嬉しい。
「とにかく引っかかったら無理して外さんごと。引っかかったらすぐにおしえて?オレが外すき。」
「はーい。」
葉月のタックルは用意できたので、今度は自分。
選んだのはダイワブラックレーベルPF701MFB。
ブラックレーベルの中でも名竿と呼ばれる一本で、PF(ピッチン&フリッピンの略。撃ちに特化したモデル)シリーズのデビュー当初からある。
先調子(サオの先だけが柔らかい)で、かなり感度が優れており、少し軽いリグから総重量10gちょっとくらいまでを得意とする。出番が多い。
フィネス寄りなので、バットパワーはそんなに強くなく、大きいのが掛かると結構スリリング。
価格はそこまで高くないが、トッププロも使っている高性能なサオだったりする。
リールはダイワアルファスSV105HS。
ギヤ比7.2:1、ドラグ力4kgで、ソルト(海)までカバーできる軽量コンパクトなベイトリール。
SVとはストレスフリーバーサタイルの頭文字。T3 AIRやSS AIRに採用してあるエアブレーキが搭載してある。ただし、スプールは肉抜き無しで、軽いもの(ベイトフィネスは流石にちょっと厳しい)からビッグベイトのような重いものまで対応できる優れもの。
価格はブラックレーベル同様、そこまで高価ではないが、トッププロも使っている。
少し前、フィネス専用機であるアルファスAIRが追加された。
そして!なんといっても信頼のメイドインジャパン!!
といった説明はさておき。
糸はフロロ10ポンド。
使用ルアーはOSPドライブスティック3.5インチ。ハリのシャンクには板オモリ。
それに加え、スピニング。
行くからにはどうしても釣りたい。
葉月に生きた魚を見せてあげたいのだ。
用意したのはダイコーギャレットディツアーエディション622L。
3/8まで背負えるバーサタイルロッド。
赤いブランクス(サオ本体のコト)が特徴で、パワーもソコソコあって使いやすい。
リールはダイワルビアス2506。
ザイオンというカーボン繊維含有プラスチックでできており、軽い。冬に使用する時は金属製リールみたいに冷たくならず、なかなか重宝する。
ギヤとドラグは最上位機種に匹敵するモノが搭載されている。
糸はフロロ5ポンド。
シャッドシェイプワームをストレートにセットし、スプリットショットをルアーの直前に打ってある。
準備完了。
今日は釣れるといいな。
そんな期待をしつつ、いざ釣り場へ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます