第12話 疑問

 7月。

 いつものスーパー兼ホームセンターにて。

 

 買い物中にとても懐かしい顔発見。

 これは声かけとかなきゃでしょ!

 

「久しぶり。」

 

 手を振りながら近づくと、こちらに気付き、

 

「要?あんた全然変わらんね~。高校生んときのまんまやん。羨ましい~。」


 驚きと嬉しさに満ち溢れた表情になる。

 高校生は流石にぎょーらしー(訳:大袈裟)っちゃない?と思いつつも、超久々の再会。

 こちらも嬉しさ全開だ。


 離婚して半年とちょっと。

 実家に戻って初めて会った同級生(克洋を除く)。

 幼稚園から高校まで同じ学校で、結構仲がよかった幼馴染の一人。

 現在は結婚していて中二をアタマに3人の子供がいる。

 昔はキレイな顔立ちだったが、今となってはシワや白髪がチラホラと目立ちはじめ、生活感もガッツリ出て、年相応のおばちゃんといった感じ。

「羨まし~」がかなり重く、本気だ。


「あはは。これはこれで威厳とか無さ過ぎて。若いもんにエラそうなコト言わないかん時とか説得力無いもんね。」

 

「へぇ~。そげな苦労もあるんばいねぇ。」

 

「そぉばい。」

 

「で、どげしよんね?」


「ん?この前の冬、離婚した。」


「ウソ!マジで?」


「マジマジ。でたん悲しいっちゃき。子供と実家におるばい。」


「へ~。大変やん。」


「まーね。」


「んじゃ、こっちにおるっちゆーことなんやね?たまには飲みにいこ?」

 

「うん!いーね!」


「おっしゃ!マジで計画して連絡するき!」


「わかった!楽しみしちょく。んじゃね。」


「うん。バイバイ。」

 

 会話も終わり、手を振って去ってゆく。


 社交辞令じゃなかったらいーな。

 と思ったりもしたが、彼女のことだ。きっと計画してくれるはず。

 そんな期待ができる幼馴染なのである。

 

 僅かな時間会話しただけでこの暖かさ。

 でったん癒される。

 「やっぱ同級生っちゃいいもんやなぁ」と、心から思う要だった。





 少し離れたトコロから二人の様子を不思議そうに見ていた者がいる。


 母親と買い物に来ていた晴美だ。


 ん?あれっち笹本さんよね?


 葉月が意識している(と思われる)男の人だから、ついつい目に付いてしまうのだ。

 そして。


 なんであげな年上の女の人と知り合いなんやろか?


 という疑問を持ってしまう。

 しかし、要の童顔っぷりからして、このような疑問を持つのは考えられないことではない。


 今の会話が聞こえたのなら、すぐさま同級生と判断できたのだろうが、要のところまでは結構な距離がある。会話どころか声すら聞こえない。

 その光景だけ見ても、相手が同級生という考えに至はらない。




 一週間後の週末。

 またもや笹本さんと遭遇。

 場所はこの前と同じスーパー。

 小さな男の子を挟み、年上のキレイな女性と何やら深刻な雰囲気。

 女の人は涙を流している。

 昼ドラマのような大人の事情を想像してしまい、混乱。

 近距離での遭遇だったため、ついつい隠れてしまう。

 いよいよ意味が分からなくなってしまった。


 


 8月。

 課外の後、彼氏と街の方へ遊びに行った。


 帰り道。

 バスを降りて彼氏と並んで歩いていると、川には釣り人が二人。


 あれっち…。


 結構イケメンな30代前半と思われる男の人と、笹本さんだ。

 楽しそうに喋っている。




 それからも、スーパーや釣り場、走行中の自家用車の中などで、年上の知り合いと親しく喋っている光景を何度か目撃した。

 会話が聞こえることもあるが、その口調は全てタメ口。

 だから会社の上司なんかとは違うと思うけど、それらの人たちとの関係がよくわからない。

 妙な違和感が拭い去れない。


 葉月に伝えるべきなのでは?


 そう思ったりもしたが、この時はまだ葉月の気持ちが確定してなかったので、伝えることはしなかった。


 とりあえず、もうしばらく様子を見ることにした。




 そして9月。

 大気測定直後のコト。

 葉月の笹本さんへの「好き」が確実なものとなる。

「好き」とは言わなかったものの、態度を見れば一目瞭然だ。

 幼馴染としてとても嬉しく思った。




 しばらくは、嬉しくて思い出せなかったのだが…。


 家に帰り、一段落。部屋でボーっとしていると、嬉しさは一旦リセットされ、これまで見てきた笹本さんの周囲の人たちのことが頭に浮かんでくる。


 同い年の人と一緒におることがないけど、なんで?


 その理由を色々と考えているうちに、


 笹本さんと一緒おった人っち、もしかして全員同級生なんじゃないと?

 ということは笹本さんもアラフォー?


 そんな考えに辿り着く。

 この考え。

 何故だかわからないけど、やけにシックリくる。


 それもそのはず。

 正解だからである。


 が、この時点では単なる晴美の想像なので、無責任に口に出すことはできない。


 どうするべきかな?

 このまま手放しで喜んでいてよいのだろうか?

 一応、心の中に留めといた方がよいのでは?



 アラフォーだったと仮定して、今後起こり得ることについてシュミレーションしてみる。

 例えば両想いになったとしよう。

 付き合うとなると…。


 間違いなく葉月の親が反対するだろう。

 というか、親の反対以前に、葉月自身がホントの年齢を知った時、受け入れることができない可能性だってある。

 その場合、酷く傷つくことが容易に想像できてしまう。

 大切な幼馴染だ。

 絶対に傷ついてほしくない!



 今考えたことが単なる思い過ごしであって、見た目どおりの年齢で、何事もなく全てが上手くいってほしい。

 心の底からそう願った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る