第6話 遭遇

 陽と近所のスーパー兼ホームセンターで買い物をしていた時のコト。

 

 スーパーのエリアで親から頼まれた食材を探していると、


「陽!」

 

 背後から女性に声をかけられた。

 聞き覚えのある声。

 

 まさか!

 

 振り向くと…

 元嫁だった。


 隣町が実家だから有り得ない話じゃない。むしろ今まで遭遇しなかったのが不思議なくらいだ。


 久しぶりに見る元嫁。

 綺麗だった。

 

 「お母さん?」

 

 「久しぶり!あんた大きくなったね!」

 

 感動でうっすら涙ぐんでいる。

 別れてもこんなところは母親なんだな、と思った。

 

 元嫁は陽の方ばかり見て、こちらには全く目を向けようとしない。

 改めて、自分に対しての嫌悪の大きさが分かってしまう。

 

 少し屈んで目線を合わせ、頭を撫でる。

 陽はというと…

 嬉しいとはとても言い難い表情。

 元嫁は、そんなことお構いなしに、頭を撫でたり抱きしめたりしている。

 スキンシップに満足すると、嫌々こちらを向いて話しかけてくる。

 こっちは向くが、決して目は合わせない。

 微妙にずれた視線のまま、冷めた調子で、

 

 「ねぇ?ちょっと陽と二人でその辺ドライブしてきていい?」

 

 提案してきた。


 余所の人間のクセして、断りもなく家族の間に割り込んできやがって!

 で、ゆーことがそれか?

 あまりにも勝手すぎじゃねぇか?

 

 かなりイラっときた。

 と、同時に不安に襲われる。

 

 もしもこのまま連れて行かれてしまったら?

 

 そんな考えが頭をよぎる。


 それは絶対にイヤだ!


 断ろうと思った。

 しかし、陽はお母さんのコトが大好きなはず。

 母親を思う気持ちをないがしろにはしたくない。

 連れ去られた時は、相手の名前も実家の住所も分かっているから、その時は警察に通報すればいいか。

 

 落ち着くために深呼吸。

 そして、数瞬の間を空け


「陽が…いいっちゆうなら…いいよ。」

 

 なんとか応える。

 そして、


「陽?」


「な~ん?」

 

 呼ぶと目を見つめてくる。


「あんね。お母さんが、お前とちょっとドライブしたいっち。行ってくるか?」

 

 聞いてみると、

 

「いや!」


 バッサリと断った。

 

「へ?なんでか?」


 自分でハナシを振っておきながら、驚いてしまう。

 

「ん?『知らん人について行ったらダメ』っち、幼稚園の先生から言われちょーき。」

 

 完全に予想外の反応。


 知らん人っち…

 再会した直後、「お母さん」っち言ってなかったか?

 

 ついていくものとばかり思っていた。

 

 もしかしてオレに気を遣ったか?


 そうだとすると…子供に気を遣わせるとか、つくづくダメな父親だ。

 自己嫌悪に陥りそうになる。

 

 

 元嫁はというと。

 人目もあるというのに、さっきとは別の意味で大粒の涙を溢しだす。

 ついて来てくれる自信があったのだろう。が、この結末。

 茫然と立ちすくんでいた。

「知らん人」扱いされたのが、よほどショックだったと見える。

 しばらくその状態が続いた後、

 

「そっか…んじゃ…バイバイ…元気で…。」

 

 やっとのことで口を開いた。

 震えながら、泣きながら、寂しそうに手を振り去ってゆく。

 何回も何回も名残惜しそうに振り返る。

 その後ろ姿を見て、自らが犯した罪の大きさを改めて実感したのだと思った。


 陽はその様子を無表情でじっと見ているだけ。

 手は振り返さない。


 陽はオレに気を遣ったんじゃなかった。

 あの言葉は自分の意思だったんだ。

 母親から裏切られた、捨てられたという事実。

 それに対する様々な負の感情。

 オレが思っているよりもはるかに強いのだと、その表情と態度を見て分かってしまう。

 

 「家族とは何か」、「親子とは何か」について、改めて考えさせられる出来事だった。

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