第7話 ドジっ娘
秋。
台風が来た。
今回の台風は長崎辺りへ上陸し、北部九州を横断するコースをとったため筑豊地区を直撃。そのまま中国地方を通過すると一旦日本海に抜け、再度東北地方に上陸。その後太平洋へと抜け消滅した。
雨風共に強烈で、結構な被害が出た。
昨日まで警報が出ていて、解除された今もまだその名残で時折強い風が吹いている。
今年は発生する個数も接近する個数も多い。
当たり年なのかな?
そんな中。
台風で延期になっていた9月分の大気測定が始まった。
社名が入った白いハイエースが局舎の横に止まる。
降りてきた要の姿を確認すると、
「要く~ん!」 ←前回の測定(夏休み中なのに見に来た)の時、本人から直接聞いた。年齢は聞いてない。見た目で勝手に判断し、20代前半と思っているため、君付け。
廊下のサッシを開け、大声で呼び手を振るとふり返る。
気付いたことが分り猛ダッシュ(葉月は典型的な文化系で、スポーツは大嫌い。なのに足は結構速い)。
「ちょー!あんた!そげんバタバタしよったら危ないちゃ!」
晴美から大声で警告されるものの、全く聞く耳なんか持っちゃいない。
行ってしまう。
制止しようとして、肩を掴もうと上げた右手がそのままになっている。
マズイと思い、追いかけたのだが速過ぎて全然間に合わない。
この先は階段!
「ちょ!待てちゃ!またコケ…」
叫ぶ晴美。
直後、
「ぅわっ!」
駆け下りていた葉月の体勢が突如崩れ、変な声とともに視界から消えた。
言葉が全部出終わる前に、言おうとしていた通りのコトになっていた。
あ~あ、また…言わんこっちゃない。
目を覆う。
廊下に設けてある出入り口の5段しかない階段。
一段抜かしで駆け下りたら、着地の際、目測を誤り膝カックンみたいになって崩れ落ちた。
これでもか!と言わんばかりに地べたにへばりついている。
校舎周辺では、昨日までの台風の名残であるビル風的な突風が時折吹いている。
その風にスカートがあおられ、捲れっ放しのままコケた。
よって今、パンツ丸出しになったまま這いつくばっている、といった状況だ。
「くまモン…。」
晴美は呟いた。
「いって~…」
掌や肘、膝を何カ所も擦りむいて悲惨な状態になっていた。
制服や傷口に付着した砂を払落しながら照れ笑い。
「ほらみろ。ば~か。いっつも人のゆーこと聞かんでいきなし動くきそげなろうが。」
呆れ果てる晴美。
前村葉月はかなりのドジっ娘である。
大声で呼ばれたため、反射的にふり返ったら起こったハプニング。
その一部始終を目撃してしまった。
うわ~思いっきしイッたな…痛そ。
顔をしかめる。
どうやら見られていたことが分っているらしい。
気まずそうに、少し頬を赤くしながら近寄ってくる。
「…こんにちは。」
恥かしさで、さっきまでの元気がない。
「こんにちは。さっき痛かったろ?」
「うっわ~…見られちょーき。で、どっから見た?」
「ん?全部。パンツまで。白やったね。」
「でったん恥ずかしいき…。」
真っ赤になる。
「あ~あ、ケガしちょーやんか。ま、顔やないでよかったね。どぉ。絆創膏貼ってやるき傷口洗っておいで。」
「は~い。」
晴美に付き添われながら蛇口のある場所へと向かう。
要はハイエースへ救急箱を取りに行く。
仕事中、ちょっとしたケガはしょっちゅうやらかす。なので、外仕事の時はみんな救急箱を持って出るのだ。
といった社内の事情はさておき。
そもそも保健室に行けよ!って話なのだが全てを目撃してしまっている。
要は我が子に近い年齢の子がケガなんかで苦しんでいると放ってはおけないタチ。既に処置してやることしか頭にない。
彼女も素直なのでその言葉に従う。
手を差し出す。
掌はザクザクになっていて痛々しい。
幸い砂なんかは入っていない様子。
しゃがんで救急箱から消毒薬を取出し噴霧する。
そのタイミングで突風。
スカートがまたもやモロに捲れ上がる。それもしゃがんでいる要の目の前で。
「ふぁっ!」
叫んだ時には完全に遅かった。
バッチシ目に焼き付くふっくらと優しい盛り上がり。
葉月はほんのちょっぴりモリマ●だ。
「おぉ~。いーね!」
笑ってサムズアップすると
「バカ!」
叫んで消毒中の手を振り切り、スカートを押さえ、真っ赤になって膨れっ面になる。
その動作が小動物チックなのでイチイチ可愛らしくて面白い。
横で晴美がお腹を抱え大爆笑している。
「あ~っはっはっは!くまモンパンツ!」
「うるさい!バカ!」
ムキになる。
「ほらほら。手ぇ出さんか。」
そのやり取りにはノーリアクションで処置再会。
両掌を消毒し終わり絆創膏を貼る。
手が終わったので次は肘と膝。
局舎の床は比較的キレイでしかも一段高くなっている。
パッパと払い、
「ほら。座って。」
消毒するためそこに座らせた。
前にしゃがむと、
「ぷっ!」
思わず吹き出してしまう。
モロ見えだった。
なんで笑われたのか分からないため、
「何?どげしたん?」
不思議な顔して聞いてくる。
股間を指さして、
「見えよるよ。」
おしえてあげると、
「あっ!もぉ!バカ!見るな!アンポンタン!」
前を押さえ、再び真っ赤になってプチ発狂。
晴美はさっきから笑いっぱなし。
「お前も!そげ笑うな!」
本人は至って真剣である。
「だって。葉月いっつもやん。あ~おかし。」
いっつもって…。
酷く恥ずかしがるくせに、どーも肝心なところが抜けていてガードが緩い。
はっきし言って、見ようと思えば見放題なのだ。
困ったものである。
恐らく知らん間に大勢の人に見せまくっているんだろうな、といった想像が容易にできてしまう。
そんなことを考えていると、
「そげなコトやきクラスの男子から『ロリミセコ』とか言われるんよ。」
やっぱし。
想像通りのコトを指摘されている。
心配になってきたので、
「スカートもぉちょい長くしたら?」
提案すると
「え~。可愛くないし。」
却下される。
見た目は大事らしい。
「でも、見えまくりなんやろ?」
晴美に聞くと、
「うん。教室とかでもちょいちょいやらかす。」
そんな答えが返ってくる。
「なら体操服のハーパン穿けば?」
「中学生やないんばい!」
またもやムキになる。
そんなリアクションが面白くてついついからかいたくなってしまう。
しかし、そんなことばっかりしていると仕事にまで辿り着かないため、消毒を再開する。
「どぉ。肘も。」
両方ともやらかしていた。
「はい。」
突き出してくる。
ここで一つ。
葉月はとにかく小さい。
身長は140cmちょいぐらい。
新入生ということもあり、まだまだ制服に着られてる感が強い。
結構ダボダボなのだ。
先ずは左腕を上げてきたのだが、ここでまたもやとんでもないミラクルが発生する。
袖の隙間からキレイなピンク色のポチッ!がチラチラと見え隠れしていた。
へ?
一瞬目を疑う。
まさか…。
再度確認。
見間違いじゃなかった。
おいおいおい!ノーブラやんか!どんだけミラクルなん?
透け防止効果の高い夏服に安心しきっているのだろうか?
たしかにまだまだ暑いから下に着たくないの分からなくもないけど。
これじゃ誰でも見放題でしょ。
先程のパンツの件から結構な恥ずかしがり屋さんだということは明確だ。
おしえると間違いなくパニックになるだろうから、言うべきなのか言わないべきなのか非常に悩ましい。
が、必要性があると判断した。
他の人に大サービスしないよう、おしえることに。
「もしもし?葉月さん?」
「今度は何?」
パンツの件もあり、すぐに警戒モードとなる。
「耳貸して?」
「ん?何?」
素直に聞く体勢へ。
耳に手を当て内緒話。
「なんでノーブラ?乳首がモロに見えてますけど。」
その言葉を聞いて固まった。
僅かな間の後。
「!!!」
一気に赤面し、フルフルと震えだし、言葉も出ない程猛烈に狼狽えだす。
うっすら涙を浮かべ、
「ヘンタイ!要くんのアホ!」
勢いよく腕を下ろす。
大笑いである。
しばし、真っ赤になってあっち向いていたが、
「ほらほら。手ぇ上げて。」
その声で我に返ると、今度は脇を押さえ差しだしてくる。
「お。いい考え!それで見えんくなった。いっときそげしちょきない。」
消毒していて気付く。
オレがするんやないで、本人にさせれば見えんやん。
完全に子供扱いしていたことを反省。
にしても。
何の抵抗も無しに要に消毒させている葉月も如何なものか、である。
まあそこはピュアということで大目に見るとして。
「自分で消毒すれば見えんやん。ほい。」
薬を差し出すと、
「!」
目からうろこ。
が、時すでに遅しである。
要に散々素敵なモノを見せまくってしまっていた。
「は~~~…なんでそれ、はよ気付かんかなぁ…」
ブツブツ言いながら、深い深いため息。
落ち込みながら薬を受け取り、
「肘、よーと見えんきしにくい。晴美やって?」
それを晴美にわたし、脇を押さえ、やってもらう。
まだまだ赤面が治まりそうにない涙目の葉月を見て疑問に思い、
「あんた、なんで涙目?今度は何があった?」
ニヤニヤしながらその原因を聞いた。
内緒話だったため赤面と涙の意味が分かってないのだ。
「要くんに…乳首…見られた…。」
涙声で答える。
「ばーか。っちゆーか、あんた入学してから今まで、ずっとノーブラで学校きよったんやなかろーね?」
驚く晴美。
「ううん。体育の時はしちょーばい。今日体育無いき…たまたますんの忘れてきた。」
「忘れんなっちゃ!毎日してこいっちゃ!ま~たクラスの男子にサービスするんか?」
笑いながら怒られる。
「だって暑いんやもん。それにウチ、家でしよないき忘れるんっちゃ。」
「そげなん理由になるか、アホ。今度からちゃんとしてこいよ?」
「わかった。努力する。」
「努力せないかんコトか?」
「うん。意識しちょかんと忘れる。」
「まぁいーや。明日からちゃんとしてこいよ。」
「うん。明日、朝電話して?」
「アホか!それくらい自分でせんか。」
そんなやり取りの間にやっと肘の消毒が終わる。
今は自分で膝を消毒している。
パンツが見えないよう、太ももでしっかりとスカートを挟んで。
なんとか終わると要から絆創膏を箱ごと貰い、全ての傷に貼った。
結構な面積と個所だったため殆ど使い果たしてしまう。
「要くんゴメ~ン。絆創膏もう無いよ?」
「いーよいーよ。会社戻ったら補充しとくき。それよりも慌て回らんごとね。またケガするよ?」
「はーい。」
返事したところで昼休み終了の予鈴。
「ありがとね。じゃ、戻るね。」
赤面もやっと治まりニコッと笑う。
こういった仕草はとても可愛い。
少し大人しくなり、バイバイしながら校舎へと戻っていった。
中断していた作業を再開し、なんとか次の局舎へと向かう。
こうして大騒ぎの大気測定一日目は終わった。
そして、次の日からは前日のコトがよっぽど懲りたのだろう。
毎日作業を見には来るのだが、ちゃんと歩いてくるようになっていた。
一安心…のはずだったが、今まさに何もないところでコケそうになり、晴美にしがみ付いていた。
歩くだけでも危なっかしいな。
その状況を見て思わず苦笑。
つくづく。
前村葉月はドジっ娘である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます