第8話
≪男子校舎、教室≫
男子生徒A「え、なんで!?」
男子生徒B「寮へ帰る途中の会長を、偶然、見かけたんだって」
男子生徒C「男子寮じゃなくって、第一体育館に向かっていた途中で見つけたんだって」
≪女子校舎、一年教室≫
女子生徒E「燕倉さんは、補習授業の準備をされていたそうですの」
女子生徒F「覚えておりますわ。確かあの日は、器械体操の補習が」
女子生徒G「わたしも受けましたわ。……準備は、係じゃないからしていませんでしたけど」
≪男子校舎、三年教室≫
男子生徒D「でもさ、珍しいよね」
男子生徒E「うん。かなり、珍しい。……あの完全無欠の会長が、弱っているのも」
男子生徒D「しかもその姿を、女子に見せているのも」
男子生徒F「保健室に送っただけじゃなく、簡単な看病もしたらしいぜ?」
男子生徒E「それってさぁ」
―――なんだ。結構あっさり心許してんじゃん。
噂話を一通り聞き終えた俺は、静かな気持ちで授業を受けていた。ちょっと面倒くさい数式を、なんとか解いていく。
統志郎の風邪は、大したことないらしい。もともと、季節の変わり目に体調を崩しやすいけど、規則正しい生活をしていれば、熱が出たり、倒れたりしないらしい。治す方法は、ひたすらに安静にしていること、らしい。
噂話だけしか、俺には分からない。
なぜって、まあ、今の俺とあいつは―――この間やっと、お友達になれただけなので。
心苦しさと心配とがある。
統志郎が風邪ひいたのって、半分くらいは俺のせいだろうなー。野外ステージに来るまで待っていたってことだし。そんで、いつものように他人に気取らせずにこっそり抜け出していたんだろうなー。俺でさえ気づけなかったもんなー。あーあーあー。
楽しそうにしていたのに、実は無理してたって、ずるいよな。
問題を解き終えた俺は、ペンケースから付箋を取り出す。
***
≪連休の烏丸家・昼休憩の厨房≫
キッチンメイド「え。早くない?」
掃除メイド「むしろ普通だって」
洗濯メイド「えー? でも、お嬢さまってまだ高校生でしょ?」
掃除メイド「お金持ちって、結構早いもんよ。人によっては子供の頃にいるから」
シェフ「そうね。昔と違って、今は歳の釣り合いもちょうどよくしているし」
キッチンメイド「でもさ、気が合わなかったらどうすんの?」
久しぶりの実家。久しぶりの父さんと母さん。そして、懐かしのハヤシライスを食べながら、実に衝撃的なことを告げられた。
「お見合い?」
聞き違えかな、と思って復唱すると、父さんは邪気のない笑顔で頷いた。
「伊澄と歳の近い子でね。先方が是非に、と言ってきているんだ」
「はあ」
「なんでも、学校での伊澄の評判を聞いて、興味を持ったらしい」
「へえ」
せっかくの父さんの説明も、俺はなんだかぼんやりと聞いていた。老舗ホテルでお茶会をする、ということは何とか頭に叩き込んだけど、それ以外の相手の情報は、ぼーっと聞き流していた。
お見合いかあ。
父さんや母さんみたいに、想いあっている人がいれば、断れた。
でも、俺にはもう、断る理由がなかった。
かなり消極的な気持ちで、俺はお見合いを引き受けることにした。
それ以外は普通に家族のだんらんを過ごし、俺は学校へ戻った。
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