第3話 記憶

「お熱いですねぇ」


「冷やかすな」


 気を失ったキンシコウを膝枕していたら、リカオンがにやにやしながら私の傍に座り込む。自分でもらしくないことをしていることは分かっている。意識すると赤面してしまうので、私は咳払いで誤魔化した。


「……いつも助かるとは限らないんだ」


「分かりますよ。私だってセルリアンに群れを襲われて、昔の仲間とははぐれちゃいましたから。何人かはセルリアンに食べられて、すごく悔しい思いをしました」


「……それで、セルリアンハンターになったのか」


「他に行き場所も無かったですからね。私、誰かと群れてないとダメなんですよ」


 リカオンが寂しそうに笑っている。


「昔……オオカミ連盟ってのを結成してたんです。アードウルフとは仲良かったなぁ……あの子、元気にしてるかな。あの時ちゃんと逃げ切れたのかな」


「…………アードウルフ?」


 覚えのある名前だった。



『ありがとうございます、ヒグマさん! こ、この御恩は一生忘れません!』



 鳥肌が立った。


「会ったことあるぞ、そいつ」


「えっ!? 本当ですか!?」


「お前と出会う前だな……私はそいつを助けたことがあったんだ」


 リカオンが目を丸くする。それからみるみる涙が溢れ出した。


「そっかぁ……無事だったんですね」


「『さばんな』に帰りたいって、言ってたな。私もその後のことまでは分からないが」



 弱気な伏せ目と、真っ白な髪の毛が綺麗だった。



 弱々しいくせに、けれど誰かが困っていれば必ず助けに入るような、そんな心優しい奴だった。そういうところは少しキンシコウに似ている。


 キンシコウの髪を無意識に撫でる。キンシコウは気持ちよさそうに口をちゃぷちゃぷさせていた。普段は真面目くさっているくせに、今は完全に気が抜けている。私は少し笑い、彼女が少しでも早く目を覚まし、私の名を呼ぶことを祈った。

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ヒグマのフレンズ 砂塚一口 @sunazuka

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