第2話 セルリアン

 食われた奴を何度も見てきた。


 動物の姿に戻り、言葉を交わすことすらできなくなる。サンドスターでフレンズの姿に戻れても、記憶も何も失ってしまっていて、以前のそいつはどこにもいなくなってしまう。


 死ぬことはないなんて言うけれど、記憶を無くしてしまうなんてのは、死ぬよりもっと惨いこともあるんじゃないだろうか。自分が大切にしている楽しい思い出や嬉しかった出来事、自分が好きだった友達も何もかもをいっぺんに無くしてしまうのだ。


 セルリアンに喰われたいやつなんてどこにもいないし、戦えない奴は尻尾を巻いて逃げたらいいんだ。セルリアンを倒せないくらいに弱いからって、食べられるよりはずっといい。


 少しでもフレンズたちが逃げられるように、だから私たちみたいなセルリアンハンターが必要なんだ。


「ヒグマさん!」


 至近距離の無機質な目玉が、私を真っ直ぐに捕らえていた。


「っ……!」


 私は慌てて熊の手を振るい、セルリアンを弾き飛ばす。戦闘中に物思いに耽るなんて私は馬鹿か!?


 リカオンが追撃を与え、キンシコウがさらにセルリアンを弾き飛ばす。私は熊の手をセルリアンの脳天に打ち下ろした。


 手応えアリ。


 唇の端を釣り上げ、勝利を確信した。コアが露出している。後はもう一度――


「ひゃっ」


 思わず声が漏れた。セルリアンから触手が放たれている。私はびっくりして熊の手を取り落としてしまう。キンシコウの顔色が変わる。


「ヒグマさん! 下がってください! 早く!」


「う……」


 私はすぐには動けなかった。セルリアンから伸びる幾枝もの触手に怯み、力が入らない。頭ではすぐに対処すべきだと分かっている。しかしセルリアンの触手の先端が裂け、私に向けて唾液を垂らし、蛇のように鎌首をもたげている。


 形状に対する本能的な恐怖が私を縛り上げていた。


「ヒグマさん!」


 衝撃とともに視界が回転する。キンシコウが私を突き飛ばし、触手の前に転がり込んでいた。あぎとを開いた触手がキンシコウの肩へと噛み付き、キンシコウの表情が苦悶に歪む。


「うぁ……っ!」


 血相を変えたリカオンがセルリアンの目を狙って突進。それを嫌がったセルリアンが僅かに後退した。


「やめろぉぉぉおお!」


 心臓が爆発しそうだった。食われていった者たちの顔が走馬灯のように脳裏によぎる。瞬時に野生開放を行い、キンシコウを取り込もうとする触手に熊の手を叩き込む。白熱した光を放つ一線が触手を叩き折り、キンシコウの体が吐き出される。私は空中で落下するキンシコウを必死に受け止めた。


「フレンズを……守るのが……私の使命、ですから……」


「自分の身も守れ馬鹿野郎!」


 分かっている。悪いのは私だ。それでも叫ばずにはいられない。


 キンシコウを失うところだったのだ。


 私の全身から陽炎が立ち上る。リカオンが輝きに目を奪われて息を飲んでいた。


「すぐに息の根を止めてやる」


 地面を爆発させてセルリアンへと飛びかかる。闘争心で恐怖を押し殺し、私は触手の蠢く合間を縫って、セルリアンの後頭部にあるコアを破壊した。

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