夢を喰う少女
いずみ まいか
第1話 prologue
体中の細胞が、とめどなく満ちる絶望の海に興奮していた。
また一つ負の感情が生まれて、ひとりの人間の魂が消滅した。
声にならない叫びは、いつしか怨恨の中に消え、
何も変わらないまま焦燥感へと褪せていく。
『私』はそれらをただぼおーとみていた。
なにも手助けなんてしない。
もがき苦しんでいるものほど、珊瑚の宝石くらいの価値がある。
師匠が教えてくれた言葉だ。
けれどその師匠はもういない。
まるではじめから存在していないものとなった。
ある掟を破ったから。
『私』はそれらをぼおーと見ていた。
何も考えられずに、
傍観を貫き通して。
夢敗れたものは、挫折を無かったことにしたいらしい。
それも最近知った。
いともたやすく、命の灯を、命の限りを、
なかったものにしてしまうのだから。
今日もたくさんの人間が疲労し、死んでいく。
故意を除けば、そのほとんどが自殺だ。
数値化された自殺志願者の数を、
師匠は過去に優しく教えてくれた。
『私』は師匠の言葉巧みな話術が好きだった。
死ぬ行為そのものに躊躇いを、
見い出せないものがふえたことは異常だとも言った。
『私』はますます分らなくなっていった。
この世界は実質的平和であるが、不幸の雨は止むことはない。
この世界は戦場なのだ。
終戦をむかえても、生を全うする上で戦いからは逃れられないというのは、
単なる綺麗ごとだ。
この世界に飢餓が増えても、富を手にする者が増えても、
仏頂面をして
振りかぶって
平和に溶けようと
する政治家は所詮、怠け者で。
なんてことを『私』
は思ってみたりした。
再び、この世界は共存率の低い戦場だ。
どれだけ自分に【価値】を見出せるかが大事で、それが正義だ。
その【価値】は〘夢〙と繋がっている。
夢幻、いやそれは無限なのだ。
しょうもない語呂合わせを考えていられるほど、『私』は平静で。
少しやるせなさを覚える、人間としての気質をまだ失っちゃいない奴だ‥‥。
複雑極まりないけれど、確実につながっている訳だ。
【価値】は自分が何者であるかの度数を、
年から年中割り出している。
何者でない人間は、
ただひたすら、
夢に縋りついて、
じぶんが何者であるかのように
振舞う。
何者になれない時の懺悔を
知る由もなく。
何者でなくとも、
夢にぴったり体を寄せて、
タコの吸盤よりも強い、力で、
自分の世間一般的価値を高めようとするものがほとんどだ。
夢は、クリーンで、アイと同等だ。
夢は、挫折と、焦燥とで
垂直分布図がじゅうぶん描ける。
『私』は夢を叶えたものこそが有意義な余暇を過ごすものだと
知識の中に丸めこんだ。
『私』は
夢を実現させることに意味があると
思って生きていた。
『私』は
矛盾だらけで残酷な
世界の中心で
夢をまっとうできるものこそが
偉いと
ばかり思って、
その一宗教的な意向に沿って、
セブンスターのソフトパックに依存するように
生きていた。
夢を喰う少女 いずみ まいか @mini1006
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