かばんちゃんと愉快なフレンズたち

@kanadeseiya

第1話 きみはかしこいフレンズなんだね!

 かばんちゃんとサーバルは旅をしていた。青空の下をジャパリバスで揺られていると別の場所が見えてきた。

「ねえねえボス、あそこはなに?」

 道から少しはずれた場所に広い建物がある。他にもジャパリバスのような乗り物がいくつも置かれていた。

「あそこはパーキングエリヤだネ。寄っていくかイ?」

「そうですね、寄っていきましょうか」

 ジャパリバスが停車する。二人はジャパリバスから降りると建物に近づいていった。

 その時頭上から誰かが下りてきた。

「まてーい、そこの二人組」

「う、うわー」

 黒い翼を持つフレンズだった。地面に降り立つ際に黒い髪がふわりと浮く。

「私の縄張りに入ってくるとは防御プログラムはどうした? まさか、機関に見抜かれた? ならばプランDに移行しなくては」

「あのー、あなたはいったい?」

 今しがた現れた黒い彼女はなにやらつぶやいていたが、かばんちゃんに振り向くと翼を大きく広げた。

「我が名は漆黒の堕天使! いや、なんか違うな……」

「?」

 が、翼を顎に当てると考え直し、再びポーズを取った。

「そう! 我が真名こそは、漆黒の黒きバラ、カラスである!」

 かっこいいポーズが決まる。

「へえ、シッコクノクロキバラ・カラスデアルって名前なんだ、変な名前だね」

「カラスだよ! あと変ってなんだ!?」

「あの、一ついいですか? 漆黒と黒って同じ意味なんじゃ……」

「ふ、天上の叡智にたどり着けるのは選ばれし者のみ。そこらのフレンズではこの名の真の意味には気づかぬか」

「はあ」

 なにを言っているのかよく分からない。

「はじめましてカラス。私はサーバルキャットのサーバルだよ! そしてこっちはかばんちゃん!」

「カラスは鳥類の中で最も賢い鳥だと言われているヨ。ある程度の社会性があり、仲間と協力したり鳴き声で意思疎通を行うこともできるんダ。光り物を収集する習性があり、記憶力にもすぐれ人の顔を覚えることもできるヨ」

「へえ、かしこいフレンズなんだね!」

「ふ、我が力の一端が露見してしまうとは」

「営巣期間は縄張り意識が強く不用意に近づく者には威嚇や攻撃行動をしたりするヨ。雑食で都市部に住んでいるカラスはゴミを漁ることから害鳥とされているんダ」

「それは言うでない」

「あとカラスはジャパリパークに正規登録されておらず、ここに飛んできたカラスがたまたまサンドスターによってフレンズ化し、そのまま住み着いた厚顔無恥なならず者だヨ」

「悪かったな! てかなんだその言い方! いや、そう、私はある使命に従いこの地に訪れた結社の者。実は秘密任務の最中なのだ。フっ」

「ねえサーバルちゃん、カラスのフレンズさんたちってみんなこんなしゃべり方なのかな?」

「私もはじめて会ったから分からないよー」

「あの、カラスさん。私たちはたまたまここを通りがかっただけで、別に縄張りをあらそうとかそういうつもりじゃないんです」

「なるほど、草原という名の人生に迷いし子羊たちだったか」

「サーバルだよ!」

「知ってるわ!」

 カラスの独特なしゃべり方にとまどう二人だがサーバルが両手を叩いた。

「カラスのしゃべり方は変だけど、でもなんだか楽しそう。私もやってみようかな!」

 そう言うとサーバルは考え出し、思いついたのかセリフと一緒にポーズを取った。

「えーとね、私はサバンナの……跳ねる動物! サーバル!」

「全然ダメ」

「えー、なんでー? 私がんばったのに!」

 が、カラスにダメ出しされてしまう。

「まず使ってる言葉がかっこよくない。こういうのは言葉自体にかっこよさがないとダメなの。だっていうのに跳ねる? 動物? この時点でセンスゼロ」

「ひどーい!」

「あの、なんだか僕たちはお邪魔みたいなので帰らせてもらいますね」

「じゃあねカラスー!」

 そう言って二人はパーキングエリヤを後にしようとした時だった。

「あれは、セルリアン?」

 パーキングエリヤの入り口にセルリアンが立っていた。それもかなり大きい。

「そんな、セルリアンが出るなんて!」

「あれは機関の特攻兵器! ついに我が力を使うときがッ。いやまだだ。静まれ我が右翼、まだその時ではない!」

 セルリアンが近づいてくる。しかしカラスはその場から一歩も動かずプルプル体を震わせているだけだった。

「なにしてるのカラス! 早く逃げないとあぶないよ!」

「そうですカラスさん、早くしないと!」

「待つがいい二人とも。私の足が何者かの妨害電波により制御不能に陥っているッ」

「なに言ってるのか分からないよ! ねえかばんちゃん、カラスはどうすればいいの?」

「えーと」

 サーバルに急かされながらかばんちゃんは考える。

「結社……秘密任務……我が力……」

 すると閃いたかばんちゃんが顔を上げる。

「分かりました! カラスさんはきっと、自分一人でセルリアンを倒すと言っているんです!」

「「ええええええ!」」

「でもその力を私たちに知られてはならないから、さきに私たちを建物に行かせようとしているんですよ!」

「ええええええええ!」

「すごーいカラス! がんばってね!」

「いや、ちょ、ちが」

「あとはお願いしますカラスさん!」

「いや、だから」

 二人はカラスを残し走っていった。

 セルリアンがカラスの正面に立つ。カラスは黒い顔を蒼白にして見上げた。

 サーバルとかばんちゃんは建物へと必死に逃げる。すると後ろからものすごい勢いで足音が聞こえてきた。

「助けてぇええええ!」

 カラスだった。

「あれ、カラスはセルリアンと戦うんじゃなかったの? 秘密の力はどうしたの?」

「あるわけないだろそんなの! 殴られたいのかお前は!」

「じゃあ今までのはなんだったんですか?」

「個性だよ! それがかっこいいと思ってたんだよ文句あんのか!?」

「あ、いや、すみません」

 三人は建物に避難する。荒い息を落ち着けこれからを考える。

「でもどうしよう、出口をセルリアンにふさがれちゃったよ」

「僕たちだけであんなに大きなセルリアンを倒すのは無理です。なにか別の方法を考えないと」

 かばんちゃんは再び考える。難しい顔をするがそこでカラスと目が合った。

「そうだカラスさん、たしか光り物を集める習性があるんでしたよね?」

「ん? そうだとも、我が秘蔵のコレクションは代々伝わる古代のオーパーツ。その価値実に百ジャパリマン!」

「すごーい!」

「それ見せてもらえませんか?」

 カラスはおもちゃ箱を持ってくると自信満々にふたを開けた。

「見よ! そして震えるがいい、我がお宝に!」

 そこにはボルトやクリップが入っていた。

「えー、ぜんぶガラクタじゃーん」

「ガラクタって言うな!」

「これを投げればセルリアンの気を逸らせそうですね」

「捨てようとすんな!」

「ちなみにカラスは害鳥だヨ」

「それさっきも聞いたわ!」

 かばんちゃんは箱を持ち外に出る。そしてガラクタを明後日の方向に投げた。

「えーい!」

「私のお宝がー!」

 宙を飛ぶガラクタにセルリアンの注意が向いた。

「今です! 行きましょう!」

 なんとか出口を出た三人。サーバルとかばんちゃんはジャパリバスに乗り込んだ。

「すみませんカラスさん、こうするしかなくて。カラスさんはこれからどうするんですか?」

「あれはもういい。それにあそこは私の約束の地、セルリアンが離れるのを見計らって再臨しよう」

「じゃあねカラス! たのしかったよ!」

「私はお前たちなんて大嫌いだ! でも、まあ、たまになら顔を見せてもいいぞ」

「カラスさん、さようなら!」

 ジャパリバスが動き出す。パーキングエリヤを離れ、新たな旅に出るのだった。

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