ハシビロコウの憂鬱
シン
―「やっぱりこわいよ!」―
かばんとサーバルを筆頭に、フレンズたちが巨大セルリアンを撃退してから一週間。ここジャパリパークは平和でのんびりとした空気を取り戻しつつあった。つつあった、というのは、巨大セルリアン騒動の後片付けや、今回の戦いで判明したセルリアン情報の集約等で、なんやかんや騒がしさが続いているのである。いや、元々この位は騒がしかったのかもしれないが。
オグロプレーリードッグやアメリカビーバー、フェネックといった穴掘りや木材の加工が得意なフレンズを中心に、破壊されたパークの被害状況調査や修復が行われ、博士と助手率いる「かしこいので」系のフレンズはセルリアンやサンドスターに関わる情報を整理していた。個性は十人十色のフレンズ達だが、適材適所なポジションでその能力を発揮し、時に助け合い、たまに喧嘩をしては仲直りをして、パークの修繕は着々と進んでいた。そこでも、かばんの指示の的確さがフレンズの統率に一役買っていた。
セルリアンに飲み込まれ、一度は光の塊(博士は自然に還りかけている、と言っていた)状態から見事に生還し一躍時のヒトとなったかばんだったが、助かったのも束の間、旅の途中や対セルリアン戦で見せた「考える力」の高さがフレンズの間で話題になり、「その知恵を修復にも貸して欲しい」と方々に頼られて色々な指示を出している。かばんも「フレンズさんの為にできる事なら」と快諾している。かばんの傍にはいつもサーバルが居たが、ここ数日はかばんに隠れて何かヒソヒソと作っているようだ。
空を飛べる鳥系のフレンズは、正に鳥瞰で地形を把握できるので、修復の順序決定や情報伝達を買って出ていた。巨大セルリアンは撃退したが、一部のセルリアンは残存しているようで、出現をなるべく早く察知して他のフレンズに伝えられるように、いわばパトロールのような役割を担っている。「鳥系のフレンズさんなら、もしもの時には空に避難できるので」とはかばんの提案である。
「おはよう、かばん。今日はどこを回れば良いかしら」
トキがささやくような声でかばんに指示を仰ぐ。ハシビロコウも一緒だ。
「おはようございます、トキさん、ハシビロコウさん。連日パトロールをお願いしてすみません、疲れたりしてないですか」
かばんが二人を気遣う。
「おはよー!トキ、ハシビロコウ!今日も良い天気だね」
サーバルはいつものテンションで、やる気満々といった感じで、腰に手を当て左右に揺れながら伸脚のような動きをしている。準備運動だろうか。
「大丈夫よ、疲れていないわ。むしろいろんなフレンズとお話が出来て楽しい」
トキが微笑みながら答える。
・・・・ジー・・・・
ハシビロコウもいつものようにカバンを凝視している。
「あはは、ハシビロコウさんも、お疲れじゃないですか」
ハシビロコウはふと我に返り、
「あ、ごめんね、また見つめちゃった・・。私も大丈夫。長い距離を飛ぶのはあまり得意じゃないけど、他の子と交代で飛べば問題ないよ」
「ハシビロコウに睨まれたら、セルリアンも逃げちゃうよ!」
サーバルが茶化すように言う。かばんもサーバルも、出会った頃はハシビロコウの視線が少し怖かったが、話してみると全くそんなことはなく、大人しくて物知りで頼りになる存在だ。動物だった頃の見つめる習性のおかげで観察力にも優れていて、色々な事に気が付くので、博士にも一目置かれている。
「おーい、サーバルどのー。少しこの木を運ぶのを手伝ってもらえないでありますかー」
少し離れたところから、プレーリーがサーバルを呼ぶ。
「わかったー!今行くよー」
「私も行くわ。運ぶ方向を上から見てあげる」
ちょっと行ってくるから待っててね、と言って二人はプレーリーの元へ向かい、かばんとハシビロコウ二人が残された。
「少しゆっくりしながら待ちましょうか」
「うん・・・」
元々口数が少ないハシビロコウだが、今日はいつもより物憂げに見える。
「どうしました、ハシビロコウさん。もしかして体調が悪いとか・・」
かばんが心配そうに問いかける。
「え、あ、ううん。そうじゃないんだけど・・・かばん、私ってやっぱり怖いのかな」
「えっ・・?」
不意をつかれたかばんが少し驚く。
「ほら、私って眼つきが悪いでしょ。初めて会う子には大抵怖がられるし、癖でつい見つめちゃうんだけど、怒ってるの?ってよく言われるし・・・やっぱり可愛くないよね」
―「やっぱりこわいよ!」―
以前サーバルに言われた言葉が、ハシビロコウの心につっかえていた。サーバルは良い子だし、怖いというのも見た目であって、内面を指している訳ではない。サーバルと話して、そこのところはハシビロコウも分かっている。でも
「どうすれば可愛くなれるのかな・・・」
やっぱり気になる。
「そんなことないですよ。ハシビロコウさんは優しいですし、物知りで冷静で、話していると落ち着きます」
かばんが屈託のない笑顔で言う。
「ううん・・でも見た目が・・かばんも最初は怖かったでしょう?」
「正直、最初は少し・・・でも、フレンズの皆さんはちゃんとハシビロコウさんの良さを分かってくれていると思いますよ。あ、そうだ、笑う練習をしてみるのはどうでしょう」
かばんの不意な提案にハシビロコウは戸惑う。
「笑う、かぁ。そういえば私って気づいたらジッと見つめちゃってて、皆と笑う事って少ないかも。楽しくない訳じゃないんだけど・・でも、笑うと可愛いのかな」
「はい、きっと!」
かばんはそう言うが、眼つきの悪い自分が笑ったところで、本当に可愛いのだろうか。
「サーバルちゃんやアルパカさんはよく笑いますよね。あれって素敵だなと思って」
確かに、彼女たちは楽しそうに笑う。でも、どうすればそんな風に笑えるのだろうか。
「じゃあ、例えば、お互いが変な顔をして、笑わせ合うのはどうでしょう。真剣にやるために、笑った方が負けということで」
なんだか難易度の高いことを求められている気がする。ただでさえ笑えないのに、変な顔もしなくてはならないのか。
「ものは試しです。私と一回やってみましょう」
「う、うん」
若干の緊張がハシビロコウに走る。変な顔ってどうやるの?
「はい、ではスタート!」
有無を言わさず変な顔対決が始まってしまった。どうしたものか。とりあえず顎を出してみようか。等と考えていると、既にかばんはころころと表情を変え、中には普段のかばんからは想像のつかない表情があって、かなり可笑しかった。
「ふふっ・・・」
「あはは、おっかっしー!かばんちゃん何その顔ー!わたしもやるー!」
「面白そう、私も」
戻ってきたサーバルとトキが変な顔対決に参戦する。眉を上下させたり頬を引っ張たり、それはもう誰が見ても吹き出しそうな見事なまでの変な顔だった。
「ふふふっ・・あはははっ」
遂に声をあげて笑ってしまった。こんなに笑うのは久しぶりだ。
「あ、笑いましたね、ハシビロコウさんの負けです」
「え!?勝負だったの?新しい遊び?たーのしー!」
サーバルも笑っている。
「わたし、ハシビロコウが笑うの初めて見たよ!可愛いね!」
「グッとくる笑顔でありますな!」
いつの間にかプレーリーもこちらに来ていた。
可愛い?私が?
「ほら、ね?」
かばんが微笑んでいる。
「うん、ありがとう」
ハシビロコウもニッコリと笑顔で答えることが出来た。
ハシビロコウの憂鬱 シン @shin1987
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