第19話

俺はそう返事するとくるりと身体を回転させ、安健と向かい合わせになる形で鎮座した。


少しの間安健の顔を見ていたが、安健の方はどうも恥ずかしがっているのか、目を合わせられず、俺の胸元辺りを見ていた。



「安健、恥ずかしいの?」



こくんっと安健は声をあげることなく頷いた。



「一回俺の目見て、恥ずかしがらないで、何にもしないから。」



そう言うと俺はじっと安健の目を見詰めた。



すると安健は恐る恐る、俺と目を合わせる。



「洗ってくれる?」



「はい。」



静かに安健は返事をした。



俺は右腕を前に少し出し、安健に洗って貰う様に促した。安健の手が少し震えている。



シャカシャカシャカシャカ…



二人とも沈黙となり…スポンジと身体が擦れる音だけが浴室内に響き渡る。



俺は少し意地悪をしたくなった。



「嫌らしい音…」



「ははは。そうですね。」緊張した面持ちで安健が言う。



「嫌らしいのは音だけなの?他の所も洗ってよ。」



「え?」



一瞬、安健の手止まった。



顔が硬直している。少しやり過ぎたかな。



「嘘だよ、でも、こんな感じの話の展開どう?」



そう言うと安健は少しホッとした様な顔を見せ、「そうですね。凄く参考になりました。…なんか、俺、固くなっちゃって…上手く出来なくてすみません。」



「いいよ。俺、後は自分でやるから、もういいよ。」そう言うと俺はスポンジを安健から受け取り、安健は俺に促される形で浴室を後にした。



はぁー、俺の押しが弱いのか、安健にその気が無いのか。



どちらにしろ俺達は恐らく何も起こらない…そう俺は直感した。

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