第13話

「ふぅーー。」



目の前の男は粗方原稿に目を通すとそれを無動作に机の上に置いた。



何回も遭遇している場面だ、次にどんな言葉を浴びせられるかは容易に想像がついた。




「リアリティーがないんだよねー。」




やっぱり。



リアリティーがない、自分の中で反芻する。



確かに今までまともな恋愛は愚か、親しい友人と呼べる人も居らず、ずっと家に籠って小説を書いてきた。



書くことは好きだった。言葉が稚拙で表現力に欠けると言われて来たが、それは辞書を引き色んな本に触れる事で、努力で補えると思っていた。



しかし、リアリティーとなると…



SF物を書くには自分には想像力が絶対的に足りない、歴史物を書くには取材にお金が掛かる。



一番読者の共感を得やすい、自分の恋愛体験から産み出せる恋愛物、そしてキャッチーで今話題性があるボーイズラブを書いてみては?と編集者に勧められ、その通り書き進めてみたものの、泣かず飛ばすである。




リアリティー…




どうしたものかと俺は頭を抱えながら編集室を後にした。

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