第11話

「君、今日一人?可愛い顔してるね。」



俺は、唐突に話しかけられた。



ついさっき入店してきたばかりの、三十代半ばであろうか、長髪で左耳にピアスをした、今風のチャラ男と言った感じの男性だ。



「いえ、連れが今、トイレに行ってまして…」少しおどおどした声で言ってるのが自分でもわかった。



「あー、さっきの隣にいたお兄さん?じゃあ、戻ってくる迄、二人で飲もうよ。てか、店変えない?」



そう言うと男は俺の肩に手を回して来た。



「いや、もう戻ってくると、思うんで…」



そう言い終わる前に、男は強引に俺の手を捕った。酔いが回ってるせいか、足元がふらついて抵抗出来ない。



「もしかして、初心者?だったら俺が手解きしてやるよ。」



これは相当まずい、そう思ってる時に、もう反対側から腕を引っ張られた。



「悪い、これ、俺の恋人なんで」



町田さーんっ。涙。思わず俺は助けられた仔犬の様な目をしていただろう、男の腕を振り払って、思わず町田さんに抱きついていた。




「ちっ、なんだよ、めんどくせーな、悪かったな。」




そう言うと、男は罰が悪そうに席を立っていった。




「大丈夫だった?悪かったな」



「はい、怖かったです。町田さんが天使にみえます。」



もう、今日はお開きにしようと、もう変な虫が寄って来ない様、俺達は寄り添って、恋人の振りをしながら店を出た。

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