第5話

「トントントントンっ」




包丁の音がする。



頭がまだ冴えない、枕に顔を埋めながら寝ぼけ眼を擦る。



枕元のデジタル時計に目をやるとAM6時50分を指していた。



数十秒…朝まだ酸素が行き届かない脳みそで思考力を働かせて気付く。



そうか…昨日拾い物をしてきたんだっけ。




まだ目覚めてない重たい身体を起こして、キッチンへ向かうと、水色のエプロン姿の安田健が朝食の準備をしている所だった。




安健がこちらを見て言う「おはようございます。今丁度お越しに行こうと思ったんですよ。」



「おはよう。」



テーブルに付くと、老舗の旅館の朝御飯とも見間違える、和朝食がずらりと並んでいた。




玉子焼き、味の塩焼き、肉じゃが、きゅうりの浅漬、味噌汁…壮観である。




「すげー、これ全部作ったの?」




「はい。肉じゃが以外はそんなに手間の掛かるものじゃありませんから」安健は、何て褒められたのが嬉しかったのか、照れ臭そうに笑顔を見せて言った。



「さっ、温かいうちに食べてください。」




「ありがとう、いただきます。」



俺はそういうと、胸の前で手を合わせ、食事にありつく。お世辞抜きで、どれも美味しく、さっき拾い物と言ったけど、訂正して、これはラッキーカードだったかも、と心の中で呟いた。




「あ、あの…」



安健が口を開く。



「何?」



「取材って、今日、夜早速させて貰いたいんですけど」



そうか、そんな約束事もあったっけ。俺は半分口車でナンパしたつもりだったんだけど。




「いいよ。大した体験してないから、参考になるか、わからないけど、なんでも応えるよ。今日は、多分、7時には上がれるから。」






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