「我々も料理をするのです」
がぶのしん
「我々も料理をするのです」
「さあ助手、我々も料理を作るのです」
「はい博士。きっと完成させるのです」
かばんちゃんとサーバルちゃんが図書館を去ってから後のこと。アフリカオオコノハズクのフレンズであるコノハ博士と、ワシミミズクのフレンズであるミミちゃん助手は、もう一度カレーが食べたくなって、今度は自分たちだけで作ってみることにしました。
「かばんのやり方を真似すれば我々にだってできるはずです、博士」
「そうですよ助手。まずは材料を用意するです」
博士たちはカレーの作り方が開かれたページを読みます。
「にんじんとじゃがいもが必要なのです。それと、本にはこの肉というものが……うっ、なんだか嫌なものを見てしまったような気がするのです」
「そうですね。この肉というものはなんだか食べてはいけないような気がします。きっと毒ですよ、これは」
「そうですね助手。これは毒に違いないのです。我々は賢いのでそれが分かるのです」
コノハ博士とミミちゃん助手は、持ち前の頭脳を生かしてずんずん作業を進めます。
具材を用意して、外に設置されている調理台に乗せます。調理台には木製のまな板が用意してあり具材はその上に置きました。そのほか、調理台にはお皿や調味料なども置いてあります。
「材料はカットするのです」
しかし、博士たちは切り方を知りません。博士たちは腕の力が強いので、ついつい力いっぱい鉤爪を振り下ろしてしまいました。それで、まずミミちゃん助手が声をあげました。
「あっ、にんじんを潰してしまいました」
「おやおや助手、それではサーバル以下なのです。我々は力の加減が分かるはずなので……あっ!」
コノハ博士も、振り下ろした鉤爪でじゃがいもを潰してしまっていました。
「……我々は力が強いので、加減も大変なのです」
「そうです。決してカットが下手くそなわけではないのです」
博士たちは誰にともなく言いました。
材料の次は火です。火を起こさなくてはなりません。
「わたしはここで助手のお手並みを拝見するです。さあ助手、マッチを使って火をつけるのです」
「いいえ、ここは博士がわたしにお手本を示すべきなのです。さあマッチを使って火をつけて下さい」
二人は図書館にあるマッチの使用権を互いに譲り合いました。その後何度も譲り合った結果、まず博士がやることになりました。
かばんちゃんがやったように、薪を用意して火をつける予定です。
「いいですか助手。危なくなったらすぐに水をかけるのですよ。マッチ1本火事の元なのです。いいですか? すぐにですよ?」
ミミちゃん助手は水の入ったバケツを持ったまま、ちょっと煩わしそうに頷きました。
「早くしてください、博士」
そして、ついにマッチを使った火おこしが始まりました。
が、博士があまりにも恐る恐るマッチを擦るので火はつかないし、彼女の手はぷるぷる震えているので何度もマッチ棒を取り落としてしまいます。
「博士、そんなゆっくり擦っていたのではつかないのです」
「…………」
博士は何度も何度も挑戦しますが、どうしてもゆっくりになってしまいます。
「博士、点火には勢いが必要なのです」
「…………」
「博士、怖いのですか?」
「…………」
「博士、マッチは」
「助手はうるさいのです!」
とうとうコノハ博士はやけになってマッチを勢いよく擦りました。
ボッ! とマッチ棒に火が付きます! しかし
「!?」
コノハ博士は火のついたマッチ棒に驚いて思わず投げ出してしまいました。
「あっ!」
ミミちゃん助手が見ると、博士が投げたマッチ棒は調理台の上に飛んでいき、粉々になった人参やジャガイモの辺りに落ちて木製のお皿やまな板の間で燃え広がり始めました。
「あわわわわわわわわわわ」
「助手、水! 水をかけるのです!」
コノハ博士に言われ、ミミちゃん助手は急いで手にしていたバケツの水を火にぶっかけました。
ざばっと、バケツいっぱいの水が勢いよくかけられ、火は何とか鎮火し事なきを得ました。
ですが、調理台の上は大惨事です。
お皿やまな板は焦げカスになっていました。調理台そのものも焦げた部分があります。具材は元々ぐちゃぐちゃに潰れていましたが、そのうえ火に当てられて焦げてしまい、さらに水に押し流され地面に落ちて泥と混ざり合っています。おまけに調味料は水流で倒れた拍子に蓋が空いて、大半がこぼれてしまいました。
「…………」
「…………」
二人はこの惨状を前にして無言で佇み、それからそっと顔を見合わせました。
「片づけるのです」
「片づけるのです」
*****
それから数時間後、二人は図書館の中でじゃぱりまんを食べながら語り合いました。
「やはり、料理には火という大きな壁が付き纏うのです」
「我々の体では非常に難しいことなのです」
博士はじゃぱりまんをもぐもぐしながら続けます。
「それに、この爪もカットには不向きなのです」
「カット用の道具を使いこなす必要があるようですね」
二人は机の上で本を開き、カレーのページを眺めました。
「ああ、もう一度カレーが食べたいのです」
「かばんはきっとまた我々に会いにくるです。そのときまでの辛抱ですよ助手」
コノハ博士は続けます。
「かばんやサーバルと再会したときに、また料理を作らせる口実を考えておくのです」
「それは良い考えですね。我々には料理が必要なのです」
こうして、二人は自身での料理には失敗したものの、かばんちゃんやサーバルちゃん、それに他にも火を扱えるフレンズたちがいたら彼女らにも料理を作らせようと考え、その時を楽しみに待つことにしました。
おしまい。
「我々も料理をするのです」 がぶのしん @krg_garchomp
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